『インディアスの破壊についての簡潔な報告』 ラス・カサス
1542年、ラス・カサスからこの報告を受けたのは、 スペイン国王カルロス1世であり、同時に神聖ローマ帝国皇帝カール5世である。 “結辞”においては、「正義を愛し、尊ばれる御仁として、必ずやそれらの悪事を根絶され、神が陛下に授けられたあの新世界を救済されるに違いない」と、ラス・カサはカルロス1世に全幅の信頼を寄せているが、これ自体がすでに傲慢であることには、ラス・カサスも気づいていない。 | ![]() |
![]() | 『インディアスの破壊についての簡潔な報告』 ラス・カサス (2013/08/21) ラス・カサス 商品詳細を見る ラス・カサスの抱いたインディオに対する憐憫は、キリスト教が本質的に内包する傲慢を前提にしていた |
“インディアス”でどんなにひどいことが行われていたか。ラス・カサスはこんなふうに表現している。
過去数世紀の間に世の人々が実際に見たり、噂に聞いたりした出来事がどんなに輝かしいものであっても、インディアスで起きた事柄は例外なく、過去のそれらの出来事をひとつ残らず翳らせ、沈黙させ、忘却の彼方へ追いやって余りあると思えるほどのものであった。 |
言いかえれば、こんなことが起こるなら、“コロンブスは新大陸に到達すべきではなかった”ということだ。こんなことになるのなら、“スペインなんか誕生すべきではなかった”し、“レコンキスタなど成功しないほうが良かった”ということだ。“そのほうがマシだった”とラス・カサスは、キリスト教者としての自分の人生をかけた報告を、 スペイン王にしてヨーロッパの覇者たらんとするカルロス1世に送ったのである。
「確かに、この土地の住民は、神を知らなかったことを除くと、この世で誰よりも至福を得た民である」とは、聖職者以外のスペイン人が口にしたことである。 |
おそらく、かつての日本人がそうだったように、妖精のように好ましい人々だったのだろう。自然の移ろいにあわせて、自然を畏れつつ、その恵みを得て生きる人々だったのだろう。その、かつての日本人と同じように生きた人々は、“神を知る”者達によって、根絶やしにされた。


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