『深夜食堂19』 安倍夜郎
特に個人的な付き合いがあったわけじゃない。ぶつかりあうこともあったし、酒を酌み交わすこともあったけど、仕事上のことを除けば、利害関係もない。職場が変われば付き合う必要もないし、事実そうしてきた。だけど、なぜか気になる人物で、うわさにその名前を聞けば、ついつい微笑んでしまったり、眉をひそめたりすることもあった。
だけど、今回の話は、うわさじゃなかった。「奥さんが死んだって。朝起きたら、もう冷たくなってたって・・・。」
彼の奥さんが亡くなったという話だった。その時、私にはその話は伝わってこなかった。そういう付き合い方しかしてなかったからね。でも、その時の彼の様子が目に浮かぶ。肩を落とし事なんかない彼の、肩を落とした姿が目に浮かんで、やりきれない。
ずい分前のことだけど、私にもそうに思える店があって、週に一度くらいのペースで通ってた。大体は仲間と一緒で、私が起こした自動車事故の後始末の相談に乗ってもらったことがあったなぁ。相手があちらの世界の方でね。大変だった。いつの間にか行かなくなっちゃったな。マスター自身にもいろいろな問題が発生してね。そりゃ、誰だって、いろいろなことがあるからね。


『深夜食堂』も19巻を数えるようになると、さすがに共感できるメニューも多くはなくなってくる。最初の頃は、まずまず、どのメニューにもそれなりの入れ込みはできたんですけどね。
《第254夜 卵かけごはん》の陶子ちゃんは、しょうゆの代わりに“煎り酒”をかけて食べるって変わり種。でも私にとって生卵といえば、野球の試合に出かける時、祖母が鳥小屋からとってきたばかりの卵の角を上手に割って、しょうゆを注いで飲ませてくれた、あのときの生卵。《第256夜 味噌バターラーメン》に出てくるインスタントラーメンは、思い出のサッポロ一番みそラーメン。残念なんだけど、私の思い出のふくろ麺は、なんと言ってもチャルメラなんですよね。《第258夜 焼きそばパン》は分からないではないけど、買食いできるような金は持ってなかったからね。小学校の時、先生にお使いの駄賃代わりに食わせてもらったハムカツパンなんです。
ったく、わずかな違いをあげつらっちゃいけませんね。そのへんは「広い心で受けとまなきゃ」とは思うものの、こと食い物の思い出となると、脳の片隅に残るその時の香りに味が・・・。祖母や、母や、先生の面影と一緒に・・・。
な~んだ。考えてみれば、ちゃんと思い出している私でした。
人間が生きてりゃ、人情話はどこにでも転がっているかもしれませんけど、やっぱり、なんと言ってもこの漫画は『深夜食堂』ですからね。食い物が絡んでくれなきゃ、とっつきづらいし、きれいに収まりを付けられない。
とっつきと収まりを考えるなら、この19巻の中では、《第265夜 パクチー》は、珠玉と言っていいでしょうね。
・・・パクチー? 食ったことがありませんでした。
どうしたって、死ぬまでは生きなきゃならないんだからね。次に話を聞く時は、人を跳ね飛ばしながら突っ走る、そんな彼本来のうわさであって欲しいな。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
だけど、今回の話は、うわさじゃなかった。「奥さんが死んだって。朝起きたら、もう冷たくなってたって・・・。」
彼の奥さんが亡くなったという話だった。その時、私にはその話は伝わってこなかった。そういう付き合い方しかしてなかったからね。でも、その時の彼の様子が目に浮かぶ。肩を落とし事なんかない彼の、肩を落とした姿が目に浮かんで、やりきれない。
マスターの作る深夜メシは、どこからつまんでもついつい酒が飲みたくなる美味いモノばかり。今宵も「めしや」のカウンターには人生の喜びを、寂しさを、恥を・・・ポツ、ポツと語るお客がやって来る。 夜の長さを、美味しい料理と一緒に心地よく楽しみながら、彼らの語る人生に耳を傾けてみませんか? |
ずい分前のことだけど、私にもそうに思える店があって、週に一度くらいのペースで通ってた。大体は仲間と一緒で、私が起こした自動車事故の後始末の相談に乗ってもらったことがあったなぁ。相手があちらの世界の方でね。大変だった。いつの間にか行かなくなっちゃったな。マスター自身にもいろいろな問題が発生してね。そりゃ、誰だって、いろいろなことがあるからね。
『深夜食堂19』 安倍夜郎 小学館 ¥ 823 泣き・笑い・美味いが詰まった深夜メシ!! 新宿ゴールデン街の片隅にある小さな「めしや」 |
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『深夜食堂』も19巻を数えるようになると、さすがに共感できるメニューも多くはなくなってくる。最初の頃は、まずまず、どのメニューにもそれなりの入れ込みはできたんですけどね。
《第254夜 卵かけごはん》の陶子ちゃんは、しょうゆの代わりに“煎り酒”をかけて食べるって変わり種。でも私にとって生卵といえば、野球の試合に出かける時、祖母が鳥小屋からとってきたばかりの卵の角を上手に割って、しょうゆを注いで飲ませてくれた、あのときの生卵。《第256夜 味噌バターラーメン》に出てくるインスタントラーメンは、思い出のサッポロ一番みそラーメン。残念なんだけど、私の思い出のふくろ麺は、なんと言ってもチャルメラなんですよね。《第258夜 焼きそばパン》は分からないではないけど、買食いできるような金は持ってなかったからね。小学校の時、先生にお使いの駄賃代わりに食わせてもらったハムカツパンなんです。
ったく、わずかな違いをあげつらっちゃいけませんね。そのへんは「広い心で受けとまなきゃ」とは思うものの、こと食い物の思い出となると、脳の片隅に残るその時の香りに味が・・・。祖母や、母や、先生の面影と一緒に・・・。
な~んだ。考えてみれば、ちゃんと思い出している私でした。
人間が生きてりゃ、人情話はどこにでも転がっているかもしれませんけど、やっぱり、なんと言ってもこの漫画は『深夜食堂』ですからね。食い物が絡んでくれなきゃ、とっつきづらいし、きれいに収まりを付けられない。
とっつきと収まりを考えるなら、この19巻の中では、《第265夜 パクチー》は、珠玉と言っていいでしょうね。
・・・パクチー? 食ったことがありませんでした。
どうしたって、死ぬまでは生きなきゃならないんだからね。次に話を聞く時は、人を跳ね飛ばしながら突っ走る、そんな彼本来のうわさであって欲しいな。


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