頑張れ!周庭さん『地政学世界地図』 バティスト・コルナバス
この本は、独裁体制を採る、または採っていた国々を、多く取扱っている。
ある国を取り上げた章で、“独裁”を四つの点で定義している。
“ある国”とは中華人民共和国なのだが、“中国”は、見事なまでにすべての定義が当てはまる、典型的な独裁国家だ。
中華人民共和国憲法はこの国を「労働者階級が指導し、労働者と農民の同盟を基礎とする人民民主主義独裁の社会主義国家」と定義している。2018年以来、憲法前文は中国共産党の指導的役割を明確にし、国家の依拠するイデオロギーはマルクス・レーニン主義であると明記している。
具体的には、“中国”を支配するのは中国共産党である。その最高ポストが総書記で、国家元首でもある。立法機関は全国人民代表大会で、中国共産党が実権を握る。最高権力者は国家主席で、主席は中国共産党総書記を兼ねる。行政機関は国務院で、国家主席が指名し、全人代が承認した総理が統括する。最上位の司法機関は最高人民法院であるが、共産党が主導する全人代の支配下にある。
2018年6月、天安門事件の追悼行事を行なったという理由で、11人の活動家が逮捕、起訴された。起訴理由は、「対立を誘発し公共の秩序を乱した」ということだ。人権問題を専門とする弁護士15人が突如行方不明になったのは2015年のことで、家族はそれを1年以上知らされず、本人は拷問を受けたこともあったという。最後の一人が家族の元に帰ることができたのは、2020年、昨年の4月だった。
“中国”における基本的人権のために、長期にわたり非暴力的な取り組みを評価され、2010年にノーベル平和賞を受賞した劉暁波は、2017年5月、獄中にあるまま肝臓ガン末期と診断され、条件付きで釈放されたのち7月に亡くなった。



香港返還当時、経済の自由化を進める“中国”に、世界は民主化の道を歩んでいると感じていた。
イギリスは“中国”に返還の条件をつけて香港基本法を施行させ、いずれ政治の民主化が進んでいくまでの間、香港の資本主義的経済システム、香港ドル、司法・行政制度、住民の諸権利と自由が維持されることになった。その期間は、50年と定められた。
返還から50年、つまり、2047年に、香港は中華人民共和国の体制に組み込まれることになる。
どうも、イギリスが考えていたようには、事は進んでいない。中華人民共和国は、きわめて歪んだ状態で自由主義経済の恩恵だけを享受し、経済大国にのし上がった。しかし、政治の自由かはまったく進まず、むしろ独裁体制を強化する方向へと進んだ。
2014年に、香港で発生した民主化運動は、大変大きな規模となった。当局は、デモ隊に対して催涙ガスを使用した。デモ隊が催涙ガスから身を守るため雨傘を使ったことから、この民主化運動は《雨傘運動》と呼ばれた。
8月、中共がある方針を打ち出した。香港の行政長官選挙に関しては、北京政府の方針を尊重する者を候補者とするというものだった。民主化を求めるデモはたちまち巨大化し、香港の中心部を数ヶ月にわたって麻痺させた。これで中国側のもくろみは挫折した。
2019年に、再び香港のデモが激しくなった。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする《逃亡犯条例》の改正案に反対するデモである。今回の改正案が成立すれば、香港住人だけでなく、香港に住んだり渡航した外国人や中国人までもが、中国側からの要請があれば本土に引き渡されることになる。
デモの大規模化に、“中国”よりの林鄭月娥行政長官は法改正を無期延期し、謝罪を表明したが、それでもデモは収まらなかった。人々は、中華人民共和国が、直接、香港に手を伸ばしてきたと感じたのだ。
2020年6月30日、全国人民代表大会常務委員会は、国務院から提出された香港国家安全維持法案を全会一致で可決し、習近平と林鄭月娥により公布され、翌7月1日から施行されることになった。
これにより、以下のこ4つの行為が厳罰の対象となった。
国家分裂―「香港独立」の主張・活動や政党の結党
中央政府転覆―SNSでの中国批判、天安門事件を扱う集会開催
テロ行為―デモでの破壊行為
外国勢力との結託―中国政府への制裁を外国に呼びかけること
11月に有罪判決を下され、12月2日に10ヶ月禁固の量刑を言い渡された、日本でもおなじみの活動家の周庭さんにかけられたのは、「外国勢力と結託して国家の安全に危害を加えた」という容疑だった。
どの行為が、どんな発言が法に触れたのか、一切明らかにされていない。法の解釈権は全人代常務委にある。
習近平は周庭を解放しろ。頑張れ!周庭さん。
ある国を取り上げた章で、“独裁”を四つの点で定義している。
- 強権的な国家元首がすべての権力を握っている
- 自由選挙が行なわれず、しばしば反対派が抑圧される
- 出版の自由をはじめ、基本的な自由が保障されていない
- 法治国家としての形態をなしていない
“ある国”とは中華人民共和国なのだが、“中国”は、見事なまでにすべての定義が当てはまる、典型的な独裁国家だ。
中華人民共和国憲法はこの国を「労働者階級が指導し、労働者と農民の同盟を基礎とする人民民主主義独裁の社会主義国家」と定義している。2018年以来、憲法前文は中国共産党の指導的役割を明確にし、国家の依拠するイデオロギーはマルクス・レーニン主義であると明記している。
具体的には、“中国”を支配するのは中国共産党である。その最高ポストが総書記で、国家元首でもある。立法機関は全国人民代表大会で、中国共産党が実権を握る。最高権力者は国家主席で、主席は中国共産党総書記を兼ねる。行政機関は国務院で、国家主席が指名し、全人代が承認した総理が統括する。最上位の司法機関は最高人民法院であるが、共産党が主導する全人代の支配下にある。
2018年6月、天安門事件の追悼行事を行なったという理由で、11人の活動家が逮捕、起訴された。起訴理由は、「対立を誘発し公共の秩序を乱した」ということだ。人権問題を専門とする弁護士15人が突如行方不明になったのは2015年のことで、家族はそれを1年以上知らされず、本人は拷問を受けたこともあったという。最後の一人が家族の元に帰ることができたのは、2020年、昨年の4月だった。
“中国”における基本的人権のために、長期にわたり非暴力的な取り組みを評価され、2010年にノーベル平和賞を受賞した劉暁波は、2017年5月、獄中にあるまま肝臓ガン末期と診断され、条件付きで釈放されたのち7月に亡くなった。
『地政学世界地図』 バティスト・コルナバス 東京書籍 ¥ 2,420 今、世界で起きている33の国際問題を、仏人歴史教師が平易に読み解く |
香港返還当時、経済の自由化を進める“中国”に、世界は民主化の道を歩んでいると感じていた。
イギリスは“中国”に返還の条件をつけて香港基本法を施行させ、いずれ政治の民主化が進んでいくまでの間、香港の資本主義的経済システム、香港ドル、司法・行政制度、住民の諸権利と自由が維持されることになった。その期間は、50年と定められた。
返還から50年、つまり、2047年に、香港は中華人民共和国の体制に組み込まれることになる。
どうも、イギリスが考えていたようには、事は進んでいない。中華人民共和国は、きわめて歪んだ状態で自由主義経済の恩恵だけを享受し、経済大国にのし上がった。しかし、政治の自由かはまったく進まず、むしろ独裁体制を強化する方向へと進んだ。
2014年に、香港で発生した民主化運動は、大変大きな規模となった。当局は、デモ隊に対して催涙ガスを使用した。デモ隊が催涙ガスから身を守るため雨傘を使ったことから、この民主化運動は《雨傘運動》と呼ばれた。
8月、中共がある方針を打ち出した。香港の行政長官選挙に関しては、北京政府の方針を尊重する者を候補者とするというものだった。民主化を求めるデモはたちまち巨大化し、香港の中心部を数ヶ月にわたって麻痺させた。これで中国側のもくろみは挫折した。
2019年に、再び香港のデモが激しくなった。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする《逃亡犯条例》の改正案に反対するデモである。今回の改正案が成立すれば、香港住人だけでなく、香港に住んだり渡航した外国人や中国人までもが、中国側からの要請があれば本土に引き渡されることになる。
デモの大規模化に、“中国”よりの林鄭月娥行政長官は法改正を無期延期し、謝罪を表明したが、それでもデモは収まらなかった。人々は、中華人民共和国が、直接、香港に手を伸ばしてきたと感じたのだ。
2020年6月30日、全国人民代表大会常務委員会は、国務院から提出された香港国家安全維持法案を全会一致で可決し、習近平と林鄭月娥により公布され、翌7月1日から施行されることになった。
これにより、以下のこ4つの行為が厳罰の対象となった。
国家分裂―「香港独立」の主張・活動や政党の結党
中央政府転覆―SNSでの中国批判、天安門事件を扱う集会開催
テロ行為―デモでの破壊行為
外国勢力との結託―中国政府への制裁を外国に呼びかけること
11月に有罪判決を下され、12月2日に10ヶ月禁固の量刑を言い渡された、日本でもおなじみの活動家の周庭さんにかけられたのは、「外国勢力と結託して国家の安全に危害を加えた」という容疑だった。
どの行為が、どんな発言が法に触れたのか、一切明らかにされていない。法の解釈権は全人代常務委にある。
習近平は周庭を解放しろ。頑張れ!周庭さん。