中体西用と和魂洋才 『日本の文脈』 内田樹 中沢新一
外からどんどん取り入れたときに自分の中身がぎっしり詰まっていると、構造が壊れてしまうので、外から取り入れても民族的な本体が損なわれないようにするためには、どうしたらいいんだろうって考えた。その結果が自分をスカスカなものにしておくことで、その最良の例は、明治維新後の近代化ですね。日本と中国と朝鮮の三つを比べると分かりやすいけれど、中国人は「中体西用論」(清朝末期、中国の文明を本体として西洋の科学技術を利用しようとする)で、「すべての文明は中国が起源である」という考え方をする。いまはたまたまヨーロッパやアメリカが進んだ技術を持っているけれども、もとをただせば、みんなうちがオリジンなのである、と。火薬も羅針盤も紙も。
西洋風にアレンジされたものを使うけど、もともとはうちのだし、われわれの本体はまったく変わらない、というのが中体西用論。しかし、この思想は、十九世紀の終わりに帝国主義国家が侵略してきたときに効果的な対抗をすることを致命的に妨げた。すべての起源は中国にあるということになると、外国に中国人の知らない新しい概念や構想が存在するということはあってはならない。それを認めると知的な華夷秩序の全体が崩れてしまう中国オリジン説になじまないものはシステマティックに排除される。それは「小中華」である朝鮮も同じですね。その時、日本は、外来の制度文物を入れては適当のアレンジしてローカライズするということを千五百年以上もやってきていたので、平気でどんどん入れちゃうわけですよね。長い間、中国のものを入れることに慣れているから。外国語の文献を翻訳するにしても、日本語に存在しない概念を二文字の漢字熟語に置き換えるだけだから、ほとんど「漢訳」なんですよね。ルソーの『社会契約論』は中江兆民が訳すんですけど、日本語訳と漢訳を同時にやってるんです。意識としては、外国語を外国語に置き換えているだけだから、それによって民族的アイデンティティが揺るがされるとか、そういうことは起きないわけです。だから、日本人は外来のものの受容と換骨奪胎が得意なんです。土着的な本体の上に、外国起源の新しい概念を「トッピング」するだけなんですから。 [内田樹]
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西洋風にアレンジされたものを使うけど、もともとはうちのだし、われわれの本体はまったく変わらない、というのが中体西用論。しかし、この思想は、十九世紀の終わりに帝国主義国家が侵略してきたときに効果的な対抗をすることを致命的に妨げた。すべての起源は中国にあるということになると、外国に中国人の知らない新しい概念や構想が存在するということはあってはならない。それを認めると知的な華夷秩序の全体が崩れてしまう中国オリジン説になじまないものはシステマティックに排除される。それは「小中華」である朝鮮も同じですね。その時、日本は、外来の制度文物を入れては適当のアレンジしてローカライズするということを千五百年以上もやってきていたので、平気でどんどん入れちゃうわけですよね。長い間、中国のものを入れることに慣れているから。外国語の文献を翻訳するにしても、日本語に存在しない概念を二文字の漢字熟語に置き換えるだけだから、ほとんど「漢訳」なんですよね。ルソーの『社会契約論』は中江兆民が訳すんですけど、日本語訳と漢訳を同時にやってるんです。意識としては、外国語を外国語に置き換えているだけだから、それによって民族的アイデンティティが揺るがされるとか、そういうことは起きないわけです。だから、日本人は外来のものの受容と換骨奪胎が得意なんです。土着的な本体の上に、外国起源の新しい概念を「トッピング」するだけなんですから。 [内田樹]
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