『働きたくない者は、食べてはならない』 曽野綾子
![]() | 働きたくない者は、食べてはならない (2012/05/21) 曽野綾子 商品詳細を見る |
“本書は『WiLL』に二〇〇九年八月号から二〇一一年一月号までに連載された「小説家の身勝手」をまとめたものです。”ということです。
歯に衣を着せない発言で、ときに物議を醸すことがありますが、私は著者の曽野綾子さんの言っていることには大概納得しています。この方の“考え方”と言うよりも、“ものごとの捉え方”が、きわめて“まとも”と感じられるのです。私は「知命」をわずかに越えた若輩ですが、おそらく子供の頃に、著者が家族や周囲からしつけられたのと同じようなことを言われて育っているのではないかと思うのです。また、高齢者の身の処し方に関しても、死んだ祖父母や父母の様子を見てきた私には、著者の言われることはごく当たり前にしか思えないのです。
本書の中でも、「その通り!」と、少々鼻息を荒くしてしまうような幾つもの意見に出会うことができました。改正臓器移植法に関して「他人の命を救うという大事業は、人間としての光栄」、当時の麻生総理の靖国参拝見送りについて「国のために死んだ個人というものは、最大の礼を持って遇されるべき」なんて、まったくその通り。「郵便だけではない。日本の警察、鉄道その他、多くの公共機関とともに日本人が深く尊敬し、誇りにもし、ありがたく思うべき資質」という著者の考え方には、おそらくいろいろな意見が寄せられるところであろうが、こんな当たり前のことさえ分からなくなれば、それこそ日本の基盤が崩壊しかねない。
本書の題名になっている『働きたくない者は、食べてはならない』は、高齢者のことを言っているだけではないのだろうが。本書では他にも、いろいろな形で高齢者のことに触れている。著者が言うのは、「高齢者側にも覚悟が必要」ということで、いよいよ死に近づいているのだからあたり前のことなんだけど、“人間の尊厳を失う無様を晒してまで生きている必要はない”ということだと思う。自分の祖父母や父母のことで考えると、あの人たちには「幸福な人生を送る」という価値観がなかった。それが価値観になったことによって、世間はおかしくなったんじゃないかな。
3・11後の、WILLでの渡部昇一さんとの対談で、「放射線の強いところだって、じいさんばあさんを行かせればいいんですよ。何も若者を危険にさらすことはない。」という発言には、反発が多かったようだが、まったくその通り。国が腹をくくって一声かければ、そう思っていた年寄りはいっぱいいたと思う。
著者自身ご高齢だが、せいぜい養生して、世間に悪態をついてください。これからも楽しみにしている私です。

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