めんどくせぇことばかり 六日戦争とアラブの変化 『倒壊する巨塔』 ローレンス・ライト
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六日戦争とアラブの変化 『倒壊する巨塔』 ローレンス・ライト

数年にわたってイスラエル非難を繰り返してきたナセルはついに、国連平和維持軍のシナイ半島からの撤退を要求するとともに、イスラエルの船舶が通行できないようにティラン海峡を封鎖した。イスラエルは圧倒的な先制攻撃で応じ、エジプト空軍を立ったに時間で壊滅させた。ヨルダン、イラク、シリアが参戦を表明すると、その日の午後、これら三カ国の空軍も葬り去った。つづく数日間、イスラエルはアラブ前線国家の軍隊を叩きに叩き、シナイ半島、エルサレム、ヨルダン川西岸、ゴラン高原をすべて占領した。このいわゆる「六日戦争」は、現代中東史における心理的分岐点ともいえる“事件”だった。イスラエルの勝利があまりにも迅速かつ決定的だったため、神は自分たちの大義を支持してくれると信じきっていた多くのムスリムは、大いに自尊心を傷つけられた。彼らは部隊や領土を失ったばかりでなく、自分たちの国やその指導者、さらには自分自身にたいする信頼感まで失った。エジプトなどアラブ各国で、イスラム原理主義が強い訴求力を持つようになったのは、この衝撃的な完敗があったればこそだった。これまで聞いたこともないどぎつい発言が、モスクで聞かれるようになった。その声は言っていた。イスラエルという小国よりも、もっとはるかに大きな力によって、我々は敗れたのだと。神はムスリムの敵に回った。“主”を取り戻す唯一の道は、純粋な宗教に回帰することだ。そうした声は、単純化された方程式を示し、人々の絶望にひとつの答えを提供してみせた。すなわち「イスラムこそ解決策」なのだと。

こうした方程式が成立する前提には、神がユダヤ人の側についたという暗黙の了解がなければならない。現在中東地域の政治・社会を歪めている「反ユダヤ」の風潮は、じつは第二次世界大戦が終わるまで、イスラムの側にはほとんど存在しなかった。従順な態度を貫いているかぎり、ユダヤ人は、一二〇〇年にわたるイスラム支配のもとで安全に暮らし、完全なる宗教的自由を享受していた。ところが、一九三〇年代になると、この地域のキリスト教伝道団による虚偽宣伝に、アラビア語短波放送を使ったナチス・ドイツの宣伝工作が加わり、西洋人が昔から抱いていた反ユダヤの偏見に、この地域も汚染されるようになっていく。戦後、カイロはナチス党員にとって一種の禁猟区となり、彼らはエジプトの軍隊や政府の顧問を務めるようになった。イスラム主義運動の台頭は、ファシズムの退潮と軌を一にしている。この両者はエジプトにおいて重なりあっており、病原体は新たな感染者へと移っていったのだ。

イスラエル国の創建と、しゃにむに軍事的優位を得んとするその驚くべき奮闘は、アラブ人の自己認識を揺さぶった。立ち遅れを自覚して、あらためてイスラエルをあおぎみたとき、アラブ人は預言者ムハンマドがメディナのユダヤ人を支配下においていた時代を思い出した。父祖たちは、アラブの槍とアラブの剣の切っ先で、イスラムの爆発的拡大という大波を引き起こしたものだ。その誇るべき軍事的過去と、みじめな現在との対比に、彼らは劣等感を抱いた。歴史は逆流し、現在のアラブ人は“ジャーヒリーヤ(無明)”時代にそうだったように、不機嫌で、バラバラで、些事にばかりかまけている。あのユダヤ人でさえ優位に立てたのだ、とモスクの声は言った。なのにアラブ人は、真の力をもたらす武器、すなわち信仰を手放してしまった。さあ、アラブ人を偉大な存在にした宗教的熱意と純粋さを取り戻そうではないか。さすれば、神は再びアラブの側に立ってくださるはずだと。





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こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































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