めんどくせぇことばかり 『ある明治人の記録―会津人柴五郎の遺書』 石光真人
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『ある明治人の記録―会津人柴五郎の遺書』 石光真人

『ある明治人の記録―会津人柴五郎の遺書』 石光真人『ある明治人の記録―会津人柴五郎の遺書』 石光真人
(1971/05)
石光 真人

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1971年5月25日初版
2009年5月15日47版

血涙の辞
いくたびか筆とれども、胸塞がり涙さきだちて綴るにたえず、むなしく時を過して齢すでに八十路を超えたり。

多摩河畔の草舎に隠棲すること久しく、巷間に出づることまれなり。粗衣老軀を包むにたり、草木余生を養うにあまる。ありがたきことなれど、故郷の山河を偲び、過ぎし日を想えば心安からず、老残の身の迷いならんと自ら叱咤すれど、懊悩流涕やむことなし。

父母兄弟姉妹ことごとく地下にありて、余ひとりこの世に残され、語れども答えず、嘆きても慰むるものなし。四季の風月雪花常のごとく訪れ、多摩の流水樹間に輝きて絶えることなきも、非業の最期を遂げられたる祖母、母、姉妹の面影まぶたに浮かびて余を招くがごとく、懐かしむがごとく、また老衰孤独の余を憐れむがごとし。

時移りて薩長の狼藉者も、いまは苔むす墓石のもとに眠りてすでに久し。恨みても甲斐なき繰言なれど、ああ、いまは恨むにあらず、怒るにあらず、ただ口惜しきことかぎりなく、心を悟道に託すること能わざるなり。

過ぎてはや久しきことなるかな、七十有余年の昔なり。郷土会津にありて余が十歳のおり、幕府すでに大政奉還を奏上し、藩公また京都守護職を辞して、会津城下に謹慎せらる。新しき時代の静かに開かるるよと教えられしに、いかなることのありしか、子供心にわからぬまま、朝敵よ賊軍よと汚名を着せられ、会津藩民言語に絶する狼藉を被りたること、脳裏に刻まれて消えず。

薩長の兵ども城下に殺到せりと聞き、たまたま叔父の家に仮寓せる余は、小刀を腰に帯び、戦火を逃れきたる難民の群れをかきわけつつ、豪雨の中を走りて北御山の峠にいたれば、鶴ヶ城は黒煙に包まれて見えず、城下は一望火の海にて、銃砲声耳を聾するばかりなり。
「いずれの小旦那か、いずこへ行かるるぞ、城下は見らるるとおり火焔に包まれ、郭内など入るべくもなし、引き返されよ」
と口々に諫む。そのころすでに自宅にて自害し果てたる祖母、母、姉妹のもとに馳せ行かんとせるも能わず、余は路傍に身を投げ、地を叩き、草をむしりて泣きさけびしこと、昨日のごとく想わる。

落城後、俘虜となり、下北半島の火山灰地に移封されてのちは、着のみ着のまま、日々の糧にも窮し、伏する褥なく、耕すに鍬なく、まこと乞食にも劣る有様にて、草の根を噛み、氷点下二十度の寒風に筵を張りて生きながらえし辛酸の年月、いつしか歴史の流れに消え失せて、いまは知る人もまれとなり。

悲運なりし地下の祖母、父母、姉妹の霊前に伏して思慕の情やるかたなく、この一文を献ずるは血を吐く思いなり。

明治はあまりにも大きな過ちのなかに始まった。過ちは正されないまま、かと言って歴史は流れを止めるはずもない。会津の名誉は回復されなければならないが、今さら薩長を蔑んでもなんにもならない。ただ私たちは、近現代の日本はこれほどまでに大きな悲劇を内部に包含しながら始まったのだということを知らなければならない。

1900年の義和団の乱で、北京の各国大使館は暴徒に包囲された。その時、柴五郎は清国公使館付き駐在武官として居留民保護に当たる陸軍中佐だった。のちにロンドンタイムスは、その社説で「籠城中の外国人の中で、日本人ほど男らしく奮闘し、その任務を全うした国民はいない。日本兵の輝かしい武勇と戦術が、北京籠城を持ちこたえさせたのだ」と絶賛した。その日本兵の指揮官が柴五郎であり、実質、各国籠城部隊の大将であった。

その柴五郎の最晩年の言葉がこのようなものであると思えば、なおさら重みがある。私達が語るべき“戦争”とは、大東亜戦争が全てじゃない。そして、このような想いを包含しながら守られてきた日本であるから、なおのこと良い国にしていかなきゃならない。じゃなきゃ、申し訳が立たない。


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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































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