大阪から考える「保守」の意味 『辺境ラジオ』 内田樹 名越康文
大阪維新の会代表橋本徹大阪市長に関わる話がいろいろと出てくる。内田氏にしても名越氏にしても、政策に関わる問題以前に、まず橋本徹氏の政治に関わる手法に疑問を問いかけている。
番外編に、内田氏と茂木健一郎氏の対談が収録されている。その中で内田氏は『君が代条例』について次のように語っている。
僕も立たなかった時期があったんだけど、途中から立つようになった。君が代も、子供の時は歌っていて、途中で歌わなくなって、やがて小さい声で歌うようになって、いまは大きな声で歌う。自分で見ていると、やっぱり国民国家みたいな政治的幻想にどう関わるのかといった難しい問題に対する回答は、その都度の市民的成熟のレベルに相関するものなんだから、一義的に決められるものじゃないと思う。
昔は「国民国家なんてブルジョワ的フィクションだ」とか言って国家なんか歌わなかった。でも、このブルジョワ的なフィクションの中で現実に生身の人間が生き死にしているわけでしょう。それが我々にとっての一次的な現実であるなら、これを手触りのいいものに変えていくしかない、そう思ったときに、自分の住んでいる国に対するほのかな愛情が生まれてきた。・・・
子供のころは日本しか知らないから「こんな国は最悪だ!」と言えたけど、他の国をあちこち回ると、自分の住んでいる国もまあけっこう可憐にやってるよな、と思えるようになってくる。・・・
内田氏も自分と同じような道筋を歩んでこられたことを知り、強く共感した部分である。さすが哲学者だけあって、自分では言い表せないそのような道程に『言葉』を与えてくれたことに感謝する。もちろん完全に一致するなんてことはあるはずもないが・・・。
それにしても、地方自治体の長を務める橋本徹氏の政治手法を問題視するだけではことが済まないのは事実だ。橋本氏が提示するその時々の政治課題は、同意できないものもあるが、全般的には筋が通っていると思う。大阪府知事時代の君が代条例にしてもそうだ。問題は、一般人個々の『国旗国家観』にあるのではない。戦後の歴史認識、もちろんどのような歴史認識を持つかは個人的問題だが、それが『国家』の対極に位置するものから強制されたものであればどうか。問題の根は深い。根の深い問題に、橋本氏が正面から取り組んできたことも事実だ。
問題は、いちいち敵を作り上げ、民意をあおりつつその存在を全否定するやり方である。正直、私もゾッとしない。おだてられて木に登っているのは橋本氏ではない。『民意』だ。勢いづいて、気がついたらはしごを外されていたなんて経験は、小泉首相の時だけで十分だ。『民意』はくみ取るべきもので、自治体の長たる者が身につけるべき武器ではない。
そのやり口に、いい歳をした政治家がご機嫌伺いに出向いていく。だったらあんた方が今までやってきたことは何?「そんなやり方してちゃだめだよ」って、何で言ってやらないの。先人の成功や失敗の経験をもとにして、人の意見に耳を傾け、いろいろ本読んで勉強して、失敗しながらも目的に向かって進んでいく。『保守』なんてそんなもの。
目ざとく『民意』を誘導しやすい敵を設定して叩いたところで、社会そのものの成り立ちを変えることにはならない。せいぜい、敵と共に自分の足場まで崩してしまうのが関の山。木に登った『民意』が、その時になって「こんなはずじゃぁ・・・」って言ったところで、もうどうにもならない。
番外編に、内田氏と茂木健一郎氏の対談が収録されている。その中で内田氏は『君が代条例』について次のように語っている。
僕も立たなかった時期があったんだけど、途中から立つようになった。君が代も、子供の時は歌っていて、途中で歌わなくなって、やがて小さい声で歌うようになって、いまは大きな声で歌う。自分で見ていると、やっぱり国民国家みたいな政治的幻想にどう関わるのかといった難しい問題に対する回答は、その都度の市民的成熟のレベルに相関するものなんだから、一義的に決められるものじゃないと思う。
昔は「国民国家なんてブルジョワ的フィクションだ」とか言って国家なんか歌わなかった。でも、このブルジョワ的なフィクションの中で現実に生身の人間が生き死にしているわけでしょう。それが我々にとっての一次的な現実であるなら、これを手触りのいいものに変えていくしかない、そう思ったときに、自分の住んでいる国に対するほのかな愛情が生まれてきた。・・・
子供のころは日本しか知らないから「こんな国は最悪だ!」と言えたけど、他の国をあちこち回ると、自分の住んでいる国もまあけっこう可憐にやってるよな、と思えるようになってくる。・・・
内田氏も自分と同じような道筋を歩んでこられたことを知り、強く共感した部分である。さすが哲学者だけあって、自分では言い表せないそのような道程に『言葉』を与えてくれたことに感謝する。もちろん完全に一致するなんてことはあるはずもないが・・・。
それにしても、地方自治体の長を務める橋本徹氏の政治手法を問題視するだけではことが済まないのは事実だ。橋本氏が提示するその時々の政治課題は、同意できないものもあるが、全般的には筋が通っていると思う。大阪府知事時代の君が代条例にしてもそうだ。問題は、一般人個々の『国旗国家観』にあるのではない。戦後の歴史認識、もちろんどのような歴史認識を持つかは個人的問題だが、それが『国家』の対極に位置するものから強制されたものであればどうか。問題の根は深い。根の深い問題に、橋本氏が正面から取り組んできたことも事実だ。
問題は、いちいち敵を作り上げ、民意をあおりつつその存在を全否定するやり方である。正直、私もゾッとしない。おだてられて木に登っているのは橋本氏ではない。『民意』だ。勢いづいて、気がついたらはしごを外されていたなんて経験は、小泉首相の時だけで十分だ。『民意』はくみ取るべきもので、自治体の長たる者が身につけるべき武器ではない。
そのやり口に、いい歳をした政治家がご機嫌伺いに出向いていく。だったらあんた方が今までやってきたことは何?「そんなやり方してちゃだめだよ」って、何で言ってやらないの。先人の成功や失敗の経験をもとにして、人の意見に耳を傾け、いろいろ本読んで勉強して、失敗しながらも目的に向かって進んでいく。『保守』なんてそんなもの。
目ざとく『民意』を誘導しやすい敵を設定して叩いたところで、社会そのものの成り立ちを変えることにはならない。せいぜい、敵と共に自分の足場まで崩してしまうのが関の山。木に登った『民意』が、その時になって「こんなはずじゃぁ・・・」って言ったところで、もうどうにもならない。
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