『絆 いま、生きるあなたへ』 山折哲雄
2011年8月19日の記事を、加筆修正したものです。
この本は、その題名に惹かれて手にしました。大震災について、この高名な宗教学者はどんなことを考えたんだろう。
第一章 災害と共に生きてきた日本人
第二章 私の身近に存在した「病」そして「死」
第三章 インド人の死者儀礼
第四章 日本人のゆく浄土
第五章 仏陀と親鸞 日本人の死生観について
第一章はとても興味深く読みました。著者は地震学者寺田寅彦が、昭和10年頃書いた『天災と国防』『日本人の自然観』から、このような言葉を紹介します。
日本は西欧に比べて地震、津波、台風による脅威の規模がケタ違いに大きい。・・・そのような経験のなかから、自然に逆らう代わりに従順になる態度が生まれ、自然を師として学ぶ生き方が生まれた。その結果、日本の科学も自然にたいする反逆を断念し、自然に順応するための経験的な知識を蓄積することで形成された。
そのような自然への随順、風土への適応という態度のなかに、仏教の無常観に通ずるものがあり、それは数かぎりない地震や風水による災害をくぐり抜けることで作り上げられた「天然の無常」という感覚に共通する。
まさに、現代日本人を言い当てている。すごい洞察力に驚かされました。
著者は、「だから・・・」と続けます。
涙を浮かべても、あれだけ冷静な表情をにじませて被害の状況を語る。私はそこに日本人の実に奥深い、豊かな可能性を思わずにはいられなかったのです。困難を切り抜けて生きていくエネルギーも、そこから湧きでてくると思わずにはいられませんでした。とすれば、言葉の上の慰めや励ましよりも、その悲しみに寄り添い、その悲しみをともに引き受けよう、そういう態度でいいのではないか。それこそが、おそらく最高の心の支えと交流につながるのではないか・・・
自然の猛威を受け入れるあきらめに似た覚悟。そこからこそ、困難を切り抜けていくエネルギーが湧きでてくる。そこまでの強さが日本人にあることは誇りではあるが・・・。
エネルギー資源に乏しく、それがために戦争を回避する道を閉ざされた日本。 毎年毎年、台風が一つ通過するたびに、幾人かの人が命を落とす日本。 地震に揺れ、崩される日本。 津波に流される日本。 それを受け入れることが、この島に生きる覚悟。それこそが「いま、生きる私」のエネルギーなのでしょうか。
著者は、寺田寅彦を、岡潔を、日蓮を、和辻哲郎を、宮沢賢治を引き合いに出しながら、このたびの震災を思います。 また、各処で「無常観」を引き合いに出します。たしかに、はっきりと四季の移り変わる日本は、そのまんま「無常」の世界です。今、外で鳴いている蝉の声にも「無常」を感じさせられます。考えてみれば、ここまで「無常」のなかに生きているっていうのも、他所の国では滅多にないことなのかな。
第二章以降では、さらに自らの「無常」と「死」に近づいていきます。私もようやく「死」を身近に考えることができるようになりました。でも、まだまだ著者のように徹底して「死ぬこと」、「死に方」を考え抜くことはできません。やがて訪れるであろうその時に、子の生きる、その社会という総体の、役目を終えた一細胞として音もなく剥がれ落ちていければ・・・。
「山川草木」・・・自然そのものが人間以上にはるかに充実した存在であり、それに包摂されることにより自力も他力も超越した境地で、その時を迎えられれば・・・ということのようでしたが。今の私には、まだそこまで言われても理解できない。




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この本は、その題名に惹かれて手にしました。大震災について、この高名な宗教学者はどんなことを考えたんだろう。
第一章 災害と共に生きてきた日本人
第二章 私の身近に存在した「病」そして「死」
第三章 インド人の死者儀礼
第四章 日本人のゆく浄土
第五章 仏陀と親鸞 日本人の死生観について
第一章はとても興味深く読みました。著者は地震学者寺田寅彦が、昭和10年頃書いた『天災と国防』『日本人の自然観』から、このような言葉を紹介します。
日本は西欧に比べて地震、津波、台風による脅威の規模がケタ違いに大きい。・・・そのような経験のなかから、自然に逆らう代わりに従順になる態度が生まれ、自然を師として学ぶ生き方が生まれた。その結果、日本の科学も自然にたいする反逆を断念し、自然に順応するための経験的な知識を蓄積することで形成された。
そのような自然への随順、風土への適応という態度のなかに、仏教の無常観に通ずるものがあり、それは数かぎりない地震や風水による災害をくぐり抜けることで作り上げられた「天然の無常」という感覚に共通する。
まさに、現代日本人を言い当てている。すごい洞察力に驚かされました。
著者は、「だから・・・」と続けます。
涙を浮かべても、あれだけ冷静な表情をにじませて被害の状況を語る。私はそこに日本人の実に奥深い、豊かな可能性を思わずにはいられなかったのです。困難を切り抜けて生きていくエネルギーも、そこから湧きでてくると思わずにはいられませんでした。とすれば、言葉の上の慰めや励ましよりも、その悲しみに寄り添い、その悲しみをともに引き受けよう、そういう態度でいいのではないか。それこそが、おそらく最高の心の支えと交流につながるのではないか・・・
自然の猛威を受け入れるあきらめに似た覚悟。そこからこそ、困難を切り抜けていくエネルギーが湧きでてくる。そこまでの強さが日本人にあることは誇りではあるが・・・。
エネルギー資源に乏しく、それがために戦争を回避する道を閉ざされた日本。 毎年毎年、台風が一つ通過するたびに、幾人かの人が命を落とす日本。 地震に揺れ、崩される日本。 津波に流される日本。 それを受け入れることが、この島に生きる覚悟。それこそが「いま、生きる私」のエネルギーなのでしょうか。
著者は、寺田寅彦を、岡潔を、日蓮を、和辻哲郎を、宮沢賢治を引き合いに出しながら、このたびの震災を思います。 また、各処で「無常観」を引き合いに出します。たしかに、はっきりと四季の移り変わる日本は、そのまんま「無常」の世界です。今、外で鳴いている蝉の声にも「無常」を感じさせられます。考えてみれば、ここまで「無常」のなかに生きているっていうのも、他所の国では滅多にないことなのかな。
第二章以降では、さらに自らの「無常」と「死」に近づいていきます。私もようやく「死」を身近に考えることができるようになりました。でも、まだまだ著者のように徹底して「死ぬこと」、「死に方」を考え抜くことはできません。やがて訪れるであろうその時に、子の生きる、その社会という総体の、役目を終えた一細胞として音もなく剥がれ落ちていければ・・・。
「山川草木」・・・自然そのものが人間以上にはるかに充実した存在であり、それに包摂されることにより自力も他力も超越した境地で、その時を迎えられれば・・・ということのようでしたが。今の私には、まだそこまで言われても理解できない。

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