『蒼翼の獅子たち』 専修大学を築いた若者たち
![]() | 蒼翼の獅子たち (2008/10/07) 志茂田景樹 商品詳細を見る ![]() 明治初年、新しい国のかたちが定まらないころ。 マグマのような熱い情熱と石清水のような清冽な理念を胸に、アメリカに旅立った若者たちがいた。 |
時は明治初年、新しい国のかたちが定まらないころ。四人の若者が、マグマのような熱い情熱と石清水のような清冽な理念を胸に、この国の未来を創ろうともがいていた。わずか数年前、新政府軍と幕府軍に分かれて戦っていた彼らが、なぜアメリカに渡ったのか、なぜ日本で大学を創ろうとしたのか。時代が人を産み、人が新しい国を育てる。本書は壮大なボーイズ・ビー・アンビシャスの物語である。 (カバーに記された紹介)
2008年10月に出た本で、実は出版当初、すでに読んでいます。なぜ読みなおすことになったかというと、・・・。実は、題名を忘れていて注文出しちゃいました。で、手元に届いて、上記の紹介を読んですぐに“あの時の本”って気づいたんだけど、せっかくだからあらためて“新しい本”を読みなおすことにしました。いや、燃えた、燃えた。
著者の志茂田景樹さんの描いた小説で、出版当初、“志茂田景樹ってこういう本を書くのか”って、ビックリした記憶がある。明治当初の留学生たちの覚悟と苦労がよく書かれていると思う。
相馬永胤、田尻稲次郎、目賀田種太郎、駒井重格の四人は、帰国後、専修大学を立ち上げることになる。それは彼らが、国費、藩費留学生としてアメリカに渡り、大変な苦労をして法学、経済学等を修めた経験がもとにある。この時代、学問とは西洋の学問であり、学問を志す者は、まずその国の言葉を習得しなければならなかった。学術用語どころか日常会話さえゼロに近い状態から、彼らは必死になって勉強した。日本の将来を考えるなら、日本の若者が、日本の言葉で、日本語のテキストを使って、日本人の教授から諸学を習得できるようにならなければならない。留学先で巡りあった彼らは、そう語り合って帰国し、創立したのが専修大学であった。

相馬永胤は彦根藩、田尻稲次郎は薩摩藩、目賀田種太郎は幕臣、駒井重格は桑名藩。それぞれ藩の英才として留学の機会をつかむことになる。戊辰戦争において、彼らの属する藩は敵味方に別れて戦った。相馬と駒井は、実際に白刃をくくり抜けてきた経験を持つ。官軍と賊軍。善と悪。勇敢と臆病。幸運と悲運。全てを引きずりながらも、彼らは新しい日本を建設するために、アメリカに旅立つ。前に向かうしかなかった。そして彼の地で巡りあい、同じ理想に胸を熱くする。


桑名藩出身の駒井と薩摩藩出身の田尻が取っ組み合いの喧嘩をする場面がある。著者の創作と思える場面だが、でも実際あってもおかしくない。というより、なくてはおかしいと思う。“取っ組み合い”はともかく、胸の内の葛藤がなかったはずがない。しかし彼らは乗り越えているのだ。やはり、“前を向いて進まざるをえない”ということだったと思う。近隣に、乗り越えられない、乗り越えようとはしない国があるので、よけいにこのことが印象に残っているのだが・・・。
幕末の混乱から戊辰戦争、多くの人達が無念の死を遂げたと思う。その果ての新国家建設だ。彼らは色々なものを背負っていたのだと思う。新しい時代を迎えて生きる日本人としての自分は、新しい時代を迎えることができなかった自分の分まで世のため、人のために尽くさなければならない。そう考えたのではないだろうか。専修大学建学の精神は“報恩奉仕”。専修大学の学生のみなさん。全国の大学生のみなさん。頑張って勉強しようね。
もうひとつ感じたことがある。19世紀後半の、あふれるような“アメリカの善意”だ。しかも、押しつけがましくない良質な善意。今のアメリカを考えると、アメリカにこんな時代があったこと自体が驚きだ。


- 関連記事
-
- 『動乱のインテリジェンス』 竹島・尖閣・沖縄 鳩山外交 TPP (2013/01/17)
- 『松井石根 南京事件の真実』 (2013/01/12)
- 『蒼翼の獅子たち』 専修大学を築いた若者たち (2013/01/09)
- 『天皇の代理人』 赤城毅 (2013/01/05)
- アメリカに潰された政治家たち (2012/12/29)