『軍医たちの黙示録』 1.蝿の帝国 2.ホタルの航跡
2011年8月26日、及び2012年1月14日の記事に加筆修正したものです。
様々な事情で従軍した軍医たちが書き残した手記をもとに、著者がそれをつなぎ合わせ、復元し、物語として整えたもの、ということのようだ。全部で15編からなる短編集。
まさしく「手記」をもとにしたものらしく、ただ淡々と、なぜ従軍し、どこへ行き、誰と交わり、どんなことがあり、その時期を終えたか、が書かれている。ただ淡々と・・・。
著者も、おそらくできる限り虚飾を慎み、手記を残した軍医たちの実物大を描き出そうとしたのではないだろうか。どの一編を取り上げてみても、そこには著者の存在は感じられない。しかし、全体を通してみると、一人一人の軍医たちの自分に対する大きな矛盾への苦悩に、著者が寄り添う様子が感じられる。
彼らは間違いなく、歴史の中に存在した。命を永らえることを許され手記を残せた者も、そうでなかった者も・・・。そう感じさせる。
味わって、ゆっくり読みたい本。
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今回も15編の話からなるが、第一巻の「蝿の帝国」と同じく、いずれもただ淡々と、あの戦争のほんの一部分が語られている。もちろん戦争は、それらのピースを寄せ集めれば完成するジグソーパズルのように単純なものではない。どれだけ話を集めようとも、戦争の全体像は見えない。
ただ、こういった話の一つ一つが語られなければ、戦争を考える価値そのものが消失する。そういった意味も含めて、この本は貴重だ。「軍医」の目を通して戦争が語られているのも、とても面白い視点だと思う。一般の兵たちよりも一歩引いた位置で、同時に同じ戦場を体験し、命の消長に最も近い場所で関わってきた軍医たちの見た戦争。
物事を合理的に捉える訓練を続けてきた彼らは、ときには人の体と同じように、戦争そのものを合理的に捉えることもできたであろう。そんな立場の人達の戦争体験を読む機会に恵まれたのは、私にとっても貴重な体験となった。
この本を読み終えた今、やはり、“疲労感”がある。著者も“あとがき”に、「軍医もの二巻を書き上げた今、宿題の一端をやり終えた心境で、肩の荷をおろしている。」と語っているが、あの時代に生きた、あるいは死んだ日本人のことを思い起こすのは、やはり辛い。しかも、一旦捨ててしまった歴史は、ほじくり返すようにしないと現れてこない。まるで、自分の傷口に向かい合うようにして。でもそれをしないで、日本は歴史をつないでいくことができるだろうか。「できない」と、私は思う。
著者には、さらにそんなご苦労を続けてもらいたい。
北には、消し去られた歴史がある。大きな傷跡の中に・・・。
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様々な事情で従軍した軍医たちが書き残した手記をもとに、著者がそれをつなぎ合わせ、復元し、物語として整えたもの、ということのようだ。全部で15編からなる短編集。
まさしく「手記」をもとにしたものらしく、ただ淡々と、なぜ従軍し、どこへ行き、誰と交わり、どんなことがあり、その時期を終えたか、が書かれている。ただ淡々と・・・。
著者も、おそらくできる限り虚飾を慎み、手記を残した軍医たちの実物大を描き出そうとしたのではないだろうか。どの一編を取り上げてみても、そこには著者の存在は感じられない。しかし、全体を通してみると、一人一人の軍医たちの自分に対する大きな矛盾への苦悩に、著者が寄り添う様子が感じられる。
彼らは間違いなく、歴史の中に存在した。命を永らえることを許され手記を残せた者も、そうでなかった者も・・・。そう感じさせる。
味わって、ゆっくり読みたい本。
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今回も15編の話からなるが、第一巻の「蝿の帝国」と同じく、いずれもただ淡々と、あの戦争のほんの一部分が語られている。もちろん戦争は、それらのピースを寄せ集めれば完成するジグソーパズルのように単純なものではない。どれだけ話を集めようとも、戦争の全体像は見えない。
ただ、こういった話の一つ一つが語られなければ、戦争を考える価値そのものが消失する。そういった意味も含めて、この本は貴重だ。「軍医」の目を通して戦争が語られているのも、とても面白い視点だと思う。一般の兵たちよりも一歩引いた位置で、同時に同じ戦場を体験し、命の消長に最も近い場所で関わってきた軍医たちの見た戦争。
物事を合理的に捉える訓練を続けてきた彼らは、ときには人の体と同じように、戦争そのものを合理的に捉えることもできたであろう。そんな立場の人達の戦争体験を読む機会に恵まれたのは、私にとっても貴重な体験となった。
この本を読み終えた今、やはり、“疲労感”がある。著者も“あとがき”に、「軍医もの二巻を書き上げた今、宿題の一端をやり終えた心境で、肩の荷をおろしている。」と語っているが、あの時代に生きた、あるいは死んだ日本人のことを思い起こすのは、やはり辛い。しかも、一旦捨ててしまった歴史は、ほじくり返すようにしないと現れてこない。まるで、自分の傷口に向かい合うようにして。でもそれをしないで、日本は歴史をつないでいくことができるだろうか。「できない」と、私は思う。
著者には、さらにそんなご苦労を続けてもらいたい。
北には、消し去られた歴史がある。大きな傷跡の中に・・・。
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