めんどくせぇことばかり 『李世民(下)貞観篇』 塚本青史
FC2ブログ

『李世民(下)貞観篇』 塚本青史

李世民(下)貞観篇李世民(下)貞観篇
(2012/12/26)
塚本 青史

商品詳細を見る
まるで煬帝と相似形の李世民。
彼は煬帝の轍を踏まず、300年帝国を築いた。

いやまったくこの一週間、読めた本はこれ一冊。仕事が忙しくて・・・と言うより、とても不愉快な環境で仕事をさせられて、本を開いても文字が頭に入ってこない。嫌な一週間だった。・・・なんていう愚痴はともかく・・・

上巻の記事の最後にこう書いた。

さて、兄に代わって皇太子の地位についた李世民。似たもの同士の楊広は、やがて我を失い、楊氏の王朝を道連れに無様に死んだ。李世民はいったいどうなるのか。違う道を歩むとすれば、その原因はいったい何なのか。下巻が楽しみだ。
まさしくこの本のテーマはここにあった。著者は“後記”にこう書いている。
実際には二人共次男であり、兄皇太子を殺害して皇太子に昇格し、父皇帝を蔑ろにし、肉親二人を倒して帝位に即いたのである。

二人とも聡明で行動も素早く、弟達をも抑えていた。だが、高句麗戦争を敢行して、見識ある跡継ぎにも恵まれなかった。それらも負の材料である。

いや、李世民には李恪、煬帝には楊昭という文武両道に秀でた公子はいたが、皇后の子でなかったり病没したりで、結局皇位は嗣げなかったのだった。

正直な感想を言えば、下巻は読むのがつらかった。“つまらない”とか言う問題ではない。あれだけ戦場を走り回った李世民が、私の感覚からすれば“玉座に縛り付けられ”て、有能な家臣の諫言に自らを抑制する。なかでも魏徴である。そしてもう一人が長孫皇后。確かに皇帝世民は多くの功臣に囲まれるが、この二人は身を顧みずに仕えた。魏徴のような家臣、長孫観音婢のような皇后がなければ、彼が“太宗李世民”として後世に名を残すこともなかったろう。李世民が、それらの諫言を強い自制心を持って用いたことである。なぜそのようなことが出来たのか。その理由こそが“煬帝”であったろう。

“煬”という文字は、すべてを焼きつくすという意味を持ち、類まれな悪を示すという。これはもともと、隋王朝二代皇帝楊広が滅ぼした陳王朝の最後の皇帝陳淑宝に送ったものであるという。しかし李世民は、この名をすでに明帝と贈り名されていた楊広に送った。自分の人生が、まるで楊広の人生をなぞるようであった李世民は、意識的にこの名を楊広に送ったのであったろう。つまり、“自分は楊広のようにはならぬ”という思いが、李世民を300年帝国の創設者にしたのだろう。家康も参考にした『貞観政要』に著された彼の治世は、楊広あってこそ可能になったものと思える。
 
波濤を超えた遣唐使たちは、そういった李世民、唐王朝の雰囲気を敏感に感じ取ったのだろう。でなけらば通常“煬帝”を“ようだい”とは読まない。

李世民が後継者の育成に熱心であったようには見えないし、おそらくそういった考え方自体がなかったろう。それにしても、創業の理想を知らない二代目たちに為す術のない李世民は哀れでさえある。李世民の後宮に入った武照は三代高宗(李治)の皇后となり、高宗亡き後、唐を滅して周を建てる。それでも唐がもう一度力を盛り返すのは、李世民が築いた国家の礎の堅さゆえのことだったろう。

6世紀のはじめから7世紀。大陸を統一した隋、そしてそれを引き継いだ唐。大陸にはふたりの英雄が現れた。楊広と李世民。後に続く300年帝国。李世民の自制心がそれを可能にしたことは間違いないが、その背景には間違いなく楊広がいた。私には二人の姿がかげろうのように重なって見える。

『李世民 下』は、李世民の“自制心”を読ませる本である。つらい本であった。

 
  

にほんブログ村 本ブログへ一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
関連記事

テーマ : 歴史・時代小説
ジャンル : 本・雑誌

コメントの投稿

非公開コメント

No title

なるほど、楊広さんと李世民さんの立場が、逆だったら。歴史は、楊広さんが、300年の歴史のある隋を築き上げたと、なっていたのかもしれないのですね。そして李世民さんは、隋の前にあった唐という国を作った、悪役として描かれていた可能性があるかもしれないのですね。李世民の何よりの幸運は、楊広の後に生まれたことだったとは、興味深いです。この辺りの時代の時代劇、面白く映画にして欲しいでよね。数年前にあったレッドクリフの監督に指揮して頂いて、あたると思うんですけど。

一匹狼・リョウタ 様

本来、長城外の鮮卑族が支那を統一して血統的には完全に入れ替わった時期ですよね。本来の文化的意味合いでの“漢民族”は客家を除いて絶え、完全にそれまでと違う新たな支那が始まる。“はじまり”という意味では秦と漢の関係に似てませんか。始皇帝と劉邦には相似性は見出だせないけど、始皇帝と武帝は似てるかな。ちょっと無理があるかな。

ありがとうございました



「《めんどくせぇことばかり》は、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。」
よくお越し下さいました

イーグルス16

Author:イーグルス16

息も絶え絶えです、ぜひ応援してください


現代とはなぜこんなにも棲みにくいのか。
前近代から近現代へと変貌し続ける世相の本質をつかみ生き方の支柱を示す。
カウンター
カテゴリ
こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
最新記事