『四月七日の桜 戦艦「大和」と伊藤整一の最期』 中田整一

![]() | 『四月七日の桜 戦艦「大和」と伊藤整一の最期』 中田整一 (2013/04/02) 中田 整一 商品詳細を見る 第二艦隊は「矢矧」を先頭に、旗艦「大和」を最後尾に、一列の航行隊形で、白波を蹴立てて瀬戸内海を出撃していった。 |
「海上特攻」を命じられた第二艦隊の司令長官として戦艦大和と運命を共にした伊藤整一とその妻ちとせ、特攻隊員として散った長男の叡(あきら)、長女純子、次女淑子、三女貞子。この物語は、海上特攻によって戦死した第二艦隊将兵三千七百二十一名の運命と、伊藤整一艦長の家族の物語である。
不思議な人物である。努力して学問を修め、海軍に入って、武人として超一流。でありながら、妻を、家族をこよなく愛し、人一倍の子煩悩。日米開戦からの三年有余を軍令部次長と海軍のトップにあり、自ら望んで平然と?自宅門前で家族と最後の別れを交わし死地に赴く。まるでいくつかの人間の人生が、ひとりの人間に同居しているかのようだ。
伊藤整一をそう成らしめたものが何か。いまいち本書から感じ取ることはできなかった。生粋の武人として生まれながら、長男として親に寂しい思いをさせた後悔の念から、その分を家族への愛に変えたのか。ただ、ひとえに優しい少年が、能力の高さに引っ張られて海軍のトップに上り詰め、強い自制心によって自分を武人の枠にはめたのか。
草鹿龍之介参謀長と三上作夫作戦参謀が、参謀本部から「海上特攻」の説得に駆けつけた。三上作戦部長から、「一億総特攻のさきがけになってもらいたい」とその意義を説明され、第二艦隊司令長官の武人伊藤整一は生死を越えた大悟に至る。しかし、この瞬間から伊藤の思考は、「第二艦隊六千名の将兵を、いかに多く生き残らせるか」に絞られていったのではないか。
沈没間際ではあったが、「総員上甲板」の支持による退避命令と、残存する駆逐艦「冬月」「初霜」「雪風」に対する生存者救助命令で、海に投げ出された第二艦隊将兵約千七百名余の命を救うことにつながった。
第二艦隊巡洋艦「矢矧」艦長 原為一大佐
[伊藤長官の]特攻作戦中止の厳命により、大和の生存者および海上に漂流中の将兵の約三〇〇〇名が救い出された。私もその一人であった。寡言の伊藤長官は“ノー・サンキュー”に類する名句(「プリンス・オブ・ウェールズ」艦長フィリップス司令官)こそは残さなかったが、父子が相たずさえて“身を殺して仁を為す”悲壮偉大になる行績にさえ、深い反応を示しえないほど当時は、日本国民全体の涙が枯渇していたことはあまりにも悲痛だった。 |
以下、覚書
伊藤整一が軍令部次長を務めた時期の部下で、作戦部長だった中澤佑(たすく)
単に一撃を加えるだけだったなら、真珠湾攻撃はむしろやるべきではなかった。真珠湾攻撃が日本の敗因あるいは降伏を早める一因になったと考えている。日本海軍は明治以来、先制奇襲による開戦が伝統となっていたが、近代戦ではあくまで大義名分を明らかにして国際世論を味方につけることが重要である。しかるに、奇襲攻撃と開戦通告の遅れの失態により、『リメンバー・パールハーバー』の標語のもとに、米国民を挙国一致、総力戦体制に駆り立てていったのは痛恨の極みである。 真珠湾攻撃の開始 十二月八日午後一時二十五分(ハワイ時間 七日午前七時五十五分) 野村大使による通告 十二月八日午後二時二十分(ハワイ時計 七日午前八時五十分) |
山梨勝之進、堀悌吉、米内光政ら、条約派に名を連ねる逸材ながら、失言を捉えられ、予備役に更迭された坂野常善が、軍令部長を務める後輩、伊藤整一ヘ宛てた手紙
貴下の御着任当時には既に海軍の大方針決定し居り彼是(かれこれ)変革を許さざる情勢にあるかとも愚考せらるるが日米戦争は申す迄も無く、之国家興亡の別るる曠古(前例のない)の一大事にして喩(たと)え東洋に来攻する米艦隊を撃滅し得たりと仮定するも米国に対し致命的打撃を与えたりとは思考し難く結局米国に対し最後の止めを刺す為め如何なる成算あり哉との疑問を禁じ能わず。何卒為邦家辛抱熟慮萬(ばん)違算なき様懇願す |
マリアナ沖海戦(昭和十八(一九四三)年六月十九日)
航続距離の長い日本軍機の特質を活かすアウトレンジ戦法もまったく通用しなかった。理由の一つに操縦士の未熟がある。油不足と敵潜水艦の跳梁による訓練不足、それ以上に熟練操縦員を失いすぎた。もう一つの理由はレーダーとVT信管の登場である。レーダーによって日本の攻撃は奇襲にならずに待ち伏せされた。TV信管は日本軍機機体を感知して近接して炸裂した。 日本側被害 艦載機の54%に当たる二百四十三機 空母「大鵬」「翔鶴」「飛鷹」三隻 米国側被害 艦載機二十九機 空母0 |


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