物語のしくみ・宗教のしくみ 『17歳のための世界と日本の見方』 松岡正剛
英雄伝説の三段構造 |
セパレーション-旅立ち イニシエーション-通過儀礼 リターン-帰還
「セパレーション-旅立ち」で、英雄は家を出たり、故郷を離れたりと冒険の旅に出て行く。
「イニシエーション-通過儀礼」で、英雄は艱難辛苦にあう。死に直面したり、敵に出会ったりする。困難の中で英雄の前には助言者が現れる。助言者はたいてい意外な人物で、みすぼらしい老人であったり、最初は敵だと思っていた人物であったり、不思議な力を持った子供であったりする。さらに冒険を続けると、英雄は「隠れた父」との出会いが待っている。それは、幼い頃にわかれた父親だったり、敵の親玉が本当の父だという場合もある。また、本当のお母さんだったり、結婚相手だったり、親友というバリエーションもある。英雄はいよいよ重大な戦いに臨み、勝利をおさめる。
「リターン-帰還」には、何がしかの障害がある。助けた国の王に留まることを求められたり、王女との結婚を求められたりする。英雄は迷いながらも、それを振りきって故郷へ帰る。
人は生きるためには“ものがたり”が必要である。それは、誰かが、あるいは多くの者の手を経て、編集されてきたものである。人々の期待に答えられないものになれば、その都度、“ものがたり”は、一部、あるいは全部、書き改められる。それを知ることが、人を知ることであり、歴史を知ることである。
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紀元前六〇〇頃 宗教編集者の登場 |
紀元前六〇〇頃、世界中のあちこちに、宗教編集者たちが登場する。ゾロアスター教をまとめあげたゾロアスター。ユダヤ教をまとめあげた第二イザヤ、エズラ、ネへミア。ジャイナ教を起こしたマハーヴィーラ[ヴァルダマーナは「栄える者」という尊称]。仏教を起こしたブッダ。哲学や定理をまとめたものならば、支那の老子、孔子、荘子。ギリシャのピタゴラス、ヘラクレイトス、ソクラテス。まるで、あふれだすように、新思想、新宗教が編纂されていく。
私はおそらく“鉄”が原因であろうと思う。前一二〇〇頃、隆盛を誇ったヒッタイトの衰亡をもって、彼らが独占してきた製鉄技術が拡散する。鉄は生産能力を高め、富の偏在を生み出し、戦いの時代を作り出していったはずだ。かつての倫理は崩壊に向かい、新たな思想が求められ、やがて臨界値に達したかのように“編集者”が各地に登場したのだろう。
ゾロアスター教の二元論とユダヤ教 |
ユダヤの民は、自国の滅亡や捕囚生活の中でバール神に取り込まれそうになった時、自らの信仰を守るために、自分たちの信仰こそを善とする立場を確立する必要があった。自然と、バール神には“闇”のレッテルが貼られた。これによって、ユダヤ教自身が、“宗教によってた民族に優越する”考え方を、自らの中に取り込むことになる。


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