咳おば様 『日本の伝説』 柳田国男
“はしがき”に以下のように書かれています。
もともとは昭和四年に出された本なんですね。このあとに戦争があって、高度経済成長があって、バブル景気に浮かれて・・・。日本にはずいぶん空き地が多くなりました。もちろん、空き地とは、“なんの伝説の花も咲いていない”という意味でね。
それでも、柳田国男さんの言うとおり、 『可愛い昔話の小鳥は、多くは伝説の森、草叢の中で巣立ちますが、同時に香りの高いいろいろの伝説の種子や花粉を、遠くまで運んで』 くれているでしょう。それはきっと、私の“伝説”でもあったに違いないでしょう。
“咳のおば様”・・・それはお婆さんをかたどった石の像だったり、ただの石塔だったりして、どうやら子供の咳が止まらなかったりしたときにお願いすると直に治るとか、そういったもののようです。
本所の証顕寺の石像。築地の稲葉対馬守の中屋敷の石像。広島市の空鞘八幡の道祖神。川越の広済寺。甲州の八田。上総俵田の子守神社。下総臼井の石の小さな祠。本の話の中には、そんな場所に、同様の“信心”があったらしいと紹介されている。
広島空鞘八幡の道祖神(さえのかみ)も子供の咳を直してくれるらしいが、お供え物は馬の沓であったらしい。この道祖神も縛られているらしいんだけど、馬の沓は草鞋同様藁で作ったもので、それを供える代わりに藁の綱をお供えし、それが縛るという行為につながったという話は、一体誰から聞いたんだっけ。
姥神はもと子安様と同じ神様で、常に子供の安全を守りたもう神。それが後々、ことさら咳を直してくれる面倒を見てくれるのはのは、“咳のおば様”はもと“関の姥神”であったのを“せき”というところから「咳を治す」祈りの対象にしたものらしい。関は“境”。“塞き止める”。つまり道祖神と同じく悪いものが入ってこないように村を守っている。道祖神は男女像が多く、爺石婆石からなるものもある。婆石の婆が姥神と重なり、ようやく“咳のおば様”にたどり着く。
どうやら、江戸で質の悪い感冒の流行った年が評判になった始まりであったろうと柳田国男さんは書いています。
「これが効くよ」と、医者に処方してもらった薬を子供に飲ませれば済む私たちには思いもよらない深い思いが、幾多の伝説を作り上げたのですね。






一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
諸君の村の広場や校庭の庭が、今は空地になって、何の伝説の花も咲いていないということを、悲しむことは不必要であります。もとはそこにも、様々な言い伝えが、茂り栄えていたことが有りました。そうして同じ日本の一つの島の中で、あるからには、形は少しずつ違っても、やっぱりこれと同じ種類の植物しか、生えていなかったことも確かであります。 |
それでも、柳田国男さんの言うとおり、 『可愛い昔話の小鳥は、多くは伝説の森、草叢の中で巣立ちますが、同時に香りの高いいろいろの伝説の種子や花粉を、遠くまで運んで』 くれているでしょう。それはきっと、私の“伝説”でもあったに違いないでしょう。
![]() | 日本の伝説 (新潮文庫 や 15-2) (1977/01/25) 柳田 國男 商品詳細を見る 道ばたの石や木、小さな池や山も、遠い昔から言い伝えられてきた伝説で彩られている。 |
本所の証顕寺の石像。築地の稲葉対馬守の中屋敷の石像。広島市の空鞘八幡の道祖神。川越の広済寺。甲州の八田。上総俵田の子守神社。下総臼井の石の小さな祠。本の話の中には、そんな場所に、同様の“信心”があったらしいと紹介されている。
川越広済寺ならすぐ近く。なんでも、“しやぶきばば”と呼ばれる石塔があって、咳で難儀をしてお参りに来る人が多いらしい。何度が言ったこともあるはずだけど、そんな話ははじめて聞いた。本質的に喘息傾向の私、ぜひお参りせねば・・・。 それにしても見事に縛られてるなぁ | ![]() |
姥神はもと子安様と同じ神様で、常に子供の安全を守りたもう神。それが後々、ことさら咳を直してくれる面倒を見てくれるのはのは、“咳のおば様”はもと“関の姥神”であったのを“せき”というところから「咳を治す」祈りの対象にしたものらしい。関は“境”。“塞き止める”。つまり道祖神と同じく悪いものが入ってこないように村を守っている。道祖神は男女像が多く、爺石婆石からなるものもある。婆石の婆が姥神と重なり、ようやく“咳のおば様”にたどり着く。
どうやら、江戸で質の悪い感冒の流行った年が評判になった始まりであったろうと柳田国男さんは書いています。
「これが効くよ」と、医者に処方してもらった薬を子供に飲ませれば済む私たちには思いもよらない深い思いが、幾多の伝説を作り上げたのですね。


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