ピラミッド(覚書)『逆説の世界史 1』 井沢元彦
古王国はメンフィスを首都とし、クフ王の時代を中心に不滅の霊魂をまつるため巨大なピラミッドが建造された。それとともに天文観測、土木建築、測地などの技術が高度な発展をとげた。 帝国書院『新詳 世界史B』平成19年文部科学省検定済 |
古王国時代には、ファラオは主神たる太陽神ラーの化身として崇められ、その絶大な権力は巨大なピラミッドに象徴される。 東京書籍『世界史B』平成24年文部科学省検定済 |
エジプトでは王が生ける神として専制的な神権政治をおこなった。少数の神官・役人などは、国土の所有者である王から土地をあたえられたが、住民の大部分は、生産物への租税と無償労働が課せられる不自由な身分の農民であった。ナイル下流域のメンフィスを中心に栄えた古王国では、クフ王らがおそらく自分の墓として、巨大なピラミッドを築かせた。これは神である王の絶大な権力を示している。 山川出版社『詳説世界史』2012(平成24年)文部科学省検定済 |
三つの教科書の“ピラミッド”に関連する記述をあげてみた。同じ“文部省検定済”でも、ずいぶんと書き方が違う。
![]() | 『逆説の世界史 1』 井沢元彦 (2014/01/20) 井沢 元彦 商品詳細を見る 古代エジプトと中華帝国の興廃 |
『ピラミッドは奴隷の労働によって造られたものではない』
それが現在の定説である。帝国書院や東京書籍の教科書は、それを前提にして書かれている。山川出版の教科書は、それを無視して書かれている。
本書には「現在、つまり2013年(平成25)年において、おそらく50歳以上の人間は、かつてピラミッドはファラオの墓であり、強制的な奴隷労働によって造られたと学校で習ったはずである」と書かれている。その通り、私はそう教わったし、長い間、そう思っていた。本書にも書かれていたけど、ずいぶん前に吉村作治さんの本で読むまではそう思っていた。でもそれは“ずいぶん前”なんだけど、上の山川出版社の教科書って書き方は穏やかだけど、“奴隷に作らせた王の墓”って言ってるよね。著作者を見たら、親分は東京大学名誉教授の木村靖二という人。
現地の人から聞きかじって、自身の著作『歴史』に誤解の種を書いたのは二千年以上前のギリシャの歴史家ヘロドトス。ピラミッドが建設されたのは、ヘロドトスがその話を聞いた時よりもさらに二千年以上前。伝聞証拠と言っても大変あやふやである。さらに、一人の王の時代に複数のピラミッドが作られたり、ピラミッド内部で王のミイラや副葬品が、痕跡すら見つかっていないことから、現在はピラミッドの建造の理由あるいは目的については、確たる定説がないというのが実情であるという。
「ピラミッドはそもそも強制労働ではなく失業対策的な公共事業として作られた」というメンデルスゾーン仮説に基づいて各種の調査が行われ、労働者に対する労災の治療施設が見つかったり、酒がふるまわれた記録、欠勤の文言のみられる出勤簿などが出土している。メンデルスゾーン仮説に近い。もはや、“奴隷労働”説は否定されたと言っていいのに。
本書がピラミッドにこだわるのは、三大ピラミッドの精緻さと巨大さにつながる高度な技術力が、なぜ社会全般の発展につながらなかったか。多くの文書が残されるなか、なぜピラミッドの目的や技術が文書化されていないのかを解き明かすため。著者はそこで、独自の理論を展開する。
1996年の本だ。たしか超古代文明のありかは南極大陸だったよな。


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