『零式戦闘機』 吉村昭
|
YS11以来の国産旅客機が、いよいよ世界の空に飛ぶ。なんと半世紀ぶりとのこと。かつて零式艦上戦闘機を作り、世界を相手にした日本航空産業。敗戦と航空禁止。心まで折られた戦後。それでも受け継いできた技術。 先行するホンダジェットとともに、世界の空を席巻してほしい。 | ![]() |
![]() | 『零式戦闘機』 吉村昭 (2013/06/13) 吉村昭 商品詳細を見る ー零式には使命のようなものを感じるー |
以下、過去記事です。
昭和43年に刊行された本。
平成23年9月10日49刷改版新潮文庫で読みました。
はるか以前に呼んだ覚えはあるのですが、いやはやなんとも強烈な刺激を受けました。
やはり本というのは、呼んだ人間の状態によってずいぶん変わるものですね。
本書は零式戦闘機がこの世に生を受け、そして常に帝国海軍の顔として戦い、傷つき、消えていくまでを描いている。
まさしく、人の一生のように、著者はその人生を語るかのように、零式艦上戦闘機を描いている。
ロシア製I15、I16、イギリス製ハリケーン、スピットファイヤー、アメリカ製カーチスP35、P36、ブルースター・バッファローを子供扱い。
アメリカが打倒零式を目ざして繰り出すグラマンF4F-ワイルドキャット、双胴の巨鳥ロッキードP38ライトニング、ベルP39エアラコブラ、P40トマホークの上を行く。
ようやくチャンスボートF4Uコルセアの登場により、アメリカは零式への挑戦を可能とする。
零式と互角に渡り合える戦闘機は性悪女グラマンF6Fヘルキャット。
もともとは、F4Uの予備として設計されたが、零式を一番恐れさせ、打撃を与えたアメリカ製戦闘機。
しかし、ヘルキャットが登場した頃の日本は、はすでにアメリカの物量の前に完全な沈黙を強いられ、歴戦の勇士の多くを失って極めて経験の浅い搭乗員を零式に載せていた。
零式艦上戦闘機は世界の名機と戦い、進化する戦争の、ある時代を終わらせた。
零式には歴史に課せられた使命のようなものを感じる。
それは進化する社会の、ある時代を終わらせることではなかったか。
零式は確かに時代を変えた。
しかし零式は、その仕事を成し遂げたとは言えない。
やがて特攻隊員を乗せる零式。
最期の日まで、零式の生産は続けられた。
零式艦上戦闘機は、その生涯の幕を閉じる。
零式に与えられた使命、その道、未だ半ばにして。
本の話にならないけど、そう感じさせる本だと思って下さい。


- 関連記事