めんどくせぇことばかり 『孤愁―サウダーデ』 新田次郎 藤原正彦

『孤愁―サウダーデ』 新田次郎 藤原正彦

この歳になって新田次郎の本を読めるなんて、思ってもみなかった。高校で山岳部に入って、それで新田次郎の本を読み始めた。山の話は全部読んだ。加藤文太郎は、当時の私にとっては神だった。北鎌なんて行かないけど、“単独行”にあこがれた。『孤高の人』は、バイブルだった。

『八甲田山市の彷徨』、『強力伝』、『富士山頂』、『銀嶺の人』、『栄光の岸壁』とかってのは高校で読んでるな。『剣岳〈点の記〉』や『芙蓉の人』、『聖職の碑』を読んだのはもっと後だったかもしれない。

もともと、“山”だけじゃなくて、歴史ものも書いてるんだよね。読んでないけど、『武田信玄』とかさ。それにしても、こんな本を書いていたなんてビックリ。新田次郎が亡くなった一九八〇年と言えば、私は二十歳。三鷹のぼろアパートに、次兄とともに住んでいた。

毎日新聞への連載一年にして亡くなった新田次郎。あとを引き継いだ藤原正彦さんがお父上の墓前に誓った約束を果たされて物語を完成させたのは、それから三十二年後の二〇一二年のこと。

「父の珠玉の作品を凡庸な筆で・・・」などと恐れる必要は一つもない。なぜなら三十数年前の自分にあわせてもらえるという感激の前には、他のすべては瑣末な問題。

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(2012/11)
新田 次郎、藤原 正彦 他

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ー新田次郎 昭和55(1980)年2月15日逝去ー

『孤愁 サウダーデ』というこの本。何を言わんとしているのか。題名だけでは分からない。主人公のヴェンセスラオ・デ・モラエスという人物も、残念ながら私は知らなかった。
在神戸ポルトガル領事で大変な親日派。日本人女性を妻とし、死別後も、妻の故郷である徳島で暮らし、そこで亡くなった。ポルトガルの新聞に『日本通信』を連載し、『日本精神』『おヨネとコハル』『徳島の盆踊り』などを著して、日本をヨーロッパに紹介した。
という人物なのですが、このモラエスさんが一九二九年に亡くなるまで半生が、彼初来日した一八八九年からの激動する日本の様子とともに、ていねいに描かれた物語。とくに、日露戦争に直面する日本社会の様子なども大変ていねいに描かれているあたり、読みごたえも十分。

同時に江戸の武士社会を引きづる明治時代の社会の雰囲気も分かりやすい。それを意識してのことだろう。一八六八年の堺事件の関係者を登場させている。これは土佐藩士が堺に上陸したフランス水兵十一名を斬り殺す攘夷事件で、関係した土佐藩士は二十名。全員がフランス領事、軍関係者の前で切腹するはずが、はじめて切腹を目の当たりにしたフランス人の申し立てで、切腹はフランス水兵死者数と同じ十一名で止められた。その生き残りの老人を登場させているのである。

老人はフランス水兵が葬られた神戸外人墓地と、土佐藩士が葬られた堺の妙国寺の墓を交互に訪れて、墓前を弔いつつ、明らかに過去に生きた。

老人がモラエスに言う。「別れた恋人を思うことも、死んだ人のことを思うことも、過去に訪れた景色を思い出すことも、すべてサウダーデです。そうではありませんか。」・・・モラエスが答える。「その通りですが、少々付け加えるとすれば、過去を思い出すだけではなく、そうすることによって甘く、悲しい、切ない感情に浸りこむことです。」

つまり、“過去に生きる”ってことだと思うんだけど、これは特別なことなんだろうか。ポルトガル人と日本人の共通する、他にはめったにありえない心情なんだろうか。私は、一日の多くを、ポルトガル人とおんなじようにサウダーデの中にある。

新田次郎は、この物語を書きながら、どんなサウダーデに浸っていたのだろうか。気象庁時代、富士山頂、北鎌から眺める槍ヶ岳、あるいは剣の頂か。




    






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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
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