『歴史の十字路に立ってー戦後七十年の回顧』 石原慎太郎
石原慎太郎氏は昭和七年生まれか。世代としては、私の父と同じ。私の父は昭和三年生まれ。このところの数年間の違いは、かなり大きい。終戦の年に父は一七歳、石原氏は一三歳。さらに、父があと三年早く生まれていれば、間違いなく出生していただろうしね。この付近の数年の違いは、とても大きい。 |
一七になっていた父は何があっても自分の責任にしかならなかった。しかし、一三で終戦を迎えた石原氏は、やはりそうではなかったようだ。第一章にはそのへんのくだりが多い。チョコレートの甘さや、世の風潮に流されずに済んだのは、お父上の薫陶と氏の個性という他はないだろう。 |
多少戦前の教育を受けていようと、まかり間違えば簡単に大江健三郎も出来上がる。
父は中卒とともに地元の企業の小間使いをしながら定時制に進んだ。石原氏とはスタートラインが違うものの、おんなじように父祖と日本に対する誇りを失わずに戦後を生きることができた。その子である自分が、一時流された観念的な世界から帰ってこれたのも、父を始め家族たちの真摯な生き方を見てきたからだと思うっている。 |
だけど、父や家族もそうだけど、石原氏の生き方はナウくなかった。頭がよく見えるのは左がかった人たちで、「右寄りの人はちょっとね」って感じだった。実際私もかっこよさそうな方に流れたしな。現実路線の人たちの言動を滑稽に感じさえした。実家の部屋には零式や軍艦の写真を貼ったまんまのくせしてね。
左翼系運動団体の最も元気の良かった時代、逆に石原氏の人生が一番輝いた時代かもしれないね。
『歴史の十字路に立ってー戦後七十年の回顧』 石原慎太郎 PHP研究所 ¥ 1,620 『時は流れてこの国は大きく変貌したがその間、私になにができたというのだろうか』・・・そう言うならこの本、遺言として受け取ろう。 |
序章 あの敗戦で日本人は何を得たのか こんな日本のために父祖は命を捧げたのか ある戦争未亡人のつくった歌 他 第一章 亡国の淵に立って 人生の価値について教えてくれた父 海軍士官たちの宿舎が米兵相手の売春宿に 無残な敗戦が口惜しいという思い 他 第二章 文学の社会的位置、作家の使命 『太陽の季節』のお蔭で運命が開けた 昭和三十年代と「一緒に寝た」という実感 「安保反対」の空騒ぎ 他 第三章 「祖国」というもののイメージ ベトナム戦争の取材で見えた欺瞞 三島由紀夫からの懇篤な手紙 他 第四章 「立国は私なり」を信じての参院選出馬 「私」を超えた「公」があった財界人たち 鎌倉の別邸における佐藤栄作総理との会話 他 第五章 忘れ得ぬ人たち、忘れ得ぬ光景 痛快だった撃墜王・坂井三郎氏のスピーチ 「テンノー、ヘイカ、バンザアーイ❢」 それでも三島氏の死に方を咎める 他 第六章 「No」と言えない日本の政治家と官僚 田中角栄 青嵐会 日中航空協定 周恩来 尖閣 水俣病 ダッカ人質事件 他 第七章 国家の不在と国民の堕落 9・11テロに対する文明や歴史の視点の欠如 キリスト教圏の白人による有色人支配の終わり 他 終章 人生という航海の終わりに |
福沢諭吉の言葉だよね。この言葉、なんだろう。福沢の青年期は明治維新に重なる。この時代に生きた多くの若者が、それぞれの立場で私情として“立国”を志し、その多くが悲運に倒れた。その結果として新たに生まれでた明治という時代に生きる身として、倒れていった者たちへの逆説的な鎮魂とも感じられるのだが・・・。 |
ともかく、その私事としての“立国”を志す自己の理念に邁進することが、そのまま国の役に立つことになるなら、青年としてこんなに喜ばしいことはないというふうに考えて、石原さんはやってきたようだ。お若い時にも感じさせられたけど、八十歳を過ぎてなお“青臭く”感じられるのは、未熟ながらも明治維新や昭和維新に殉じた若い連中の心意気が、今の石原氏からも感じられるからだろう。
「近代ヨーロッパの繁栄は彼らの植民地における豊富な資源の収奪と奴隷に近い安価な労働力の上にのみあり得た」とはレーニンの言葉。「彼らが戦争に飛び込んでいった動機は、ほとんどが安全保障の必要に迫られての事だった」とはマッカーサーの言葉。「原爆を投下したものがいる。この投下を計画し、その実行を命じ、これを黙認したものがいる。その者たちが日本人をさばいているのだ。裁いている彼らも殺人者ではないのか」とは東京裁判で日本人被告の弁護団に加えられた米国人弁護士ブレイクニーの言葉。
知識は必要である。正しい知識は絶対的に必要である。しかし、それ以上に必要なのは“思い”だろう。・・・九十歳になるというある戦争未亡人の作った歌が紹介されている。 |


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