山下奉文とマッカーサー(覚書)『アメリカの鏡・日本』 ヘレン・ミアーズ
《マレーの虎》こと山下奉文大将は、「人道に対する罪」と「崇高なる軍人信仰の冒涜」によって有罪とされた件が書かれている。マニラを戦場としたことに、山下将軍はまったく責任がない。配下の部隊を統制できずに民間人虐殺に走らせたというのも的外れである。いずれも、それこそ、配下を見捨てて逃げたマッカーサーの、いかにも歪んだ復讐心から出たことである。 |
だいたい、マニラの死者は、ほとんどがアメリカの砲撃によるものだ。そういうのを隠蔽するという意味も、山下将軍の裁判には込められていたわけだ。山下将軍は粗末な掘っ立て小屋に収容され、便所には汚物があふれていたそうだ。処刑に当たっては、軍服も許されず、囚人服でマンゴーの木につるされたそうです。本当にマッカーサーという人物は、とことん歪んでいます。 |
ジャップと現地住民の関係はまずくはなかった。・・・ジャップは現地労働者を口汚く罵ったり蹴飛ばしたりして恨みは買っていたが、全体として住民の扱い方はよかった。子供たちが八時から十一時まで学校に行くことを義務付けた以外は、現地の生活習慣に介入しようとはしなかった。ジャップは、すべてが首長に帰属するマーシャルの共同財産制度を破ろうとした。当然、これは島の上流階級には不人気だったが、一般島民は歓迎していた。 (マーシャル諸島に関するドナルド・T・ワインダー中佐の無線送稿) 本書p47 |
前も書いたけど、アメリカ人が書いた日本論、それも第二次世界大戦を直接の研究対象にした本の中で、この本はおそらく一番まともです。だけど、山下奉文大将を鏡にしてマッカーサーを写そうと思えば、山下将軍をだいぶ歪めなきゃならないようですね。 |
『アメリカの鏡・日本』 ヘレン・ミアーズ 角川ソフィア文庫 ¥ 691 彼女の関心はアメリカにある 日本という鏡を通して見たアメリカが、ここに書かれている |
真珠湾の時点
日本 | 二六二五機 |
連合国 | 一二九〇機 |
四一年 | 四三年 | 四四年 | 四五年 | |
日本 | 六四二機 | 二五七二機 | ||
米国 | 一六〇〇機 | 八〇〇〇機 | 九〇〇〇機 | 日本が戦争中に生産した二倍 |
移民以来、彼らがやってきたことを写しだすために、アメリカ人が歪めてしまった日本の歴史がフォーチュン誌の《太平洋関係》というパンフレットにまとめられていると紹介されていた。
中世の日本は長期にわたる封建戦争の時代を通じて好戦的理念を作り上げてきた。日本と西洋世界の出会いは、十六、七世紀、西洋式戦争技術を真似ることから始まった。そこから秀吉の朝鮮侵略、キリスト教改宗者に対する血の迫害、そして徳川の差国へとつながっていく。二百年に及ぶ鎖国は、おそらくどこの国も経験したことのない長い平和の時代だったが、その間でさえ、庶民の人間性を無視し、無益の武士階級に戦争集団としての特権を与えるという不思議な社会制度を育てていた。そしてこの不思議な制度が大多数の国民を隷属させてきたのである。このような歴史の上に新日本を築くことはできまい。・・・国家の歴史は国家そのものだからである。 |
こんな愚かな連中に、“新日本”は築かれてしまったのだから、それこそ恐ろしい。だいたい、中世を経験もしていないアメリカ人には封建時代の重要性を認識できるはずも、端からないだろうけどさ。長い歴史の中で取り上げるのは《朝鮮侵略》に《キリスト教の弾圧》かい。いかにも安っぽい。 |
日本の歴史をゆがめていること以上に問題と思えるのは、彼らが自らの歴史を、これっぽっちも把握できていないということだな。これに関しては、いかなる理由も情状酌量の条件にはなり得ないだろう。
結局、そこまで歪めてみたものの、アメリカの真の姿を写すことはできていない。《地球上でもっとも強い国民》になったアメリカ人は世界が置かれている無秩序の責任を免れる事はできない立場となった。そのアメリカのために、アメリカを見つめ直そうとする著者の七〇年前の思いは切実だった。だけど彼女の思いは叶えられることなく、アメリカは戦後世界を突っ走った。
今世界で起きているあらゆる問題に、アメリカは責任を免れることはできない。


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