『ハンニバル戦争』 佐藤賢一
ハンニバルと言う名には、「バルの申し子」という意味があるんだそうだ。バル・・・、バール神か。カルタゴはフェニキア人の植民都市だからね。バール、セム族の神。部族ことに装いや名前が変わったりするらしいんだけど、メソポタミア文明圏に関与した皆さんの神。だから、ヤハウェもそうだけど、バールっていうのは、神の原型みたいなもんなんだろうね。
いつもいつも、佐藤賢一さんが次はなにを書いてくれるのか、なにを読ませてくれるのか。それを楽しみにしています。この“ハンニバル”の前は『ラ・ミッション 軍事顧問ブリュネ』、その前が『かの名はポンパドール』でしたよね。しばらくの間は、全十二巻に及ぶ『小説フランス革命』と並行しての仕事だったから、大変だったでしょうね。多くの作品が、著者本筋のフランス系のお仕事なんだけど、こう言っちゃあ何なんだけど、その本筋から離れたお仕事が、けっこう面白かったりするんだよね。
『新徴組』とかさ。『アメリカ第二次南北戦争』とかさ。『カポネ』とかさ。それが今回は、『ハンニバル戦争』、“ハンニバル”だよ。こうなっちゃあ、興奮するなって方が無理ってもんだよね。

『ハンニバル戦争』という題名であって、『ハンニバル』という題名ではない。人物名を題名とするなら、『ハンニバル』よりも『スキピオ』がふさわしい。そう、題材は、“ハンニバル戦争”とも呼ばれるローマとカルタゴの戦争の第二幕、“第二次ポエニ戦争”と呼ばれる戦いである。その戦いの最初から最後まで関わった男。この戦いで義父、実父、叔父を失い、ハンニバルによって愛するローマの、そして自らの自尊心も徹底的に打ち砕かれた男。自分の人生を取り戻すためにハンニバルを研究し尽くした男。そして、・・・ハンニバルに奪われた人生を取り戻した男、プブリウス・コルネリウス・スキピオ。そんなスキピオだからこそ、ハンニバルを凝視した。彼自身がハンニバルになるしかなかった。そうしなければ、ハンニバルからローマを守ることはできなかった。そうしなければ、自分の人生を取り戻すことができなかった。この本は、そんな男の物語です。
負け続けるローマなんだけど、第二次ポエニ戦争では、負け続けるローマだけに、なんていうか、“凄み”のようなものを感じるね。
ザマ直前の最後の対面を除いて、物語の中にハンニバルはほとんど登場しない。それらしい存在感を放つ人物は何度か登場するが・・・。だから、この物語の中で、ハンニバルはほとんど抽象的な存在になってしまっている。ハンニバルは、“反ローマ”であり、それ以上に“戦略”をあらわす抽象的な存在になりきっている。後半、第二部の〈ザマ〉においては、ハンニバルとの戦いを宿命付けられたスキピオ自身の中にハンニバルその人が描かれている。
『カエサルを撃て』、『剣闘士スパルタカスで』、佐藤賢一さんは“ローマ”を書いている。他にも書いているかもしれないけど、私の読んだのはこんだけ。順番もこのままだと思うんだけど、だとしたら、だんだん過去に遡ってるんだな。・・・、まあ、そんなことにこだわってるわけでもないだろうな。というのも、スパルタカスの乱とポエニ戦争の間のローマは、まさに物語の宝庫。というのも、ポエニ戦争の勝利はローマに劇的な変化を要求することになるんですね。その変化の中にこそ、数知れない人間ドラマがある。
次々とローマに飲み込まれていくアレクサンダーの後継王朝。そして内乱の一世紀。グラックス兄弟の改革。マリウスとスッラの確執。英雄ポンペイウス。きっといつか書いてくれると、私は信じてる。「ローマ、何よりローマが・・・」
ああ、読み終わっちゃった。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
『新徴組』とかさ。『アメリカ第二次南北戦争』とかさ。『カポネ』とかさ。それが今回は、『ハンニバル戦争』、“ハンニバル”だよ。こうなっちゃあ、興奮するなって方が無理ってもんだよね。
『ハンニバル戦争』 佐藤賢一 中央公論新社 ¥ 1,998 「戦略の父」とも呼ばれた伝説の戦術家 その正体は神か、それとも悪魔か |
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負け続けるローマなんだけど、第二次ポエニ戦争では、負け続けるローマだけに、なんていうか、“凄み”のようなものを感じるね。
ザマ直前の最後の対面を除いて、物語の中にハンニバルはほとんど登場しない。それらしい存在感を放つ人物は何度か登場するが・・・。だから、この物語の中で、ハンニバルはほとんど抽象的な存在になってしまっている。ハンニバルは、“反ローマ”であり、それ以上に“戦略”をあらわす抽象的な存在になりきっている。後半、第二部の〈ザマ〉においては、ハンニバルとの戦いを宿命付けられたスキピオ自身の中にハンニバルその人が描かれている。
『カエサルを撃て』、『剣闘士スパルタカスで』、佐藤賢一さんは“ローマ”を書いている。他にも書いているかもしれないけど、私の読んだのはこんだけ。順番もこのままだと思うんだけど、だとしたら、だんだん過去に遡ってるんだな。・・・、まあ、そんなことにこだわってるわけでもないだろうな。というのも、スパルタカスの乱とポエニ戦争の間のローマは、まさに物語の宝庫。というのも、ポエニ戦争の勝利はローマに劇的な変化を要求することになるんですね。その変化の中にこそ、数知れない人間ドラマがある。
次々とローマに飲み込まれていくアレクサンダーの後継王朝。そして内乱の一世紀。グラックス兄弟の改革。マリウスとスッラの確執。英雄ポンペイウス。きっといつか書いてくれると、私は信じてる。「ローマ、何よりローマが・・・」
ああ、読み終わっちゃった。


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