『日本の「運命」について語ろう』『神坐す山の物語』 浅田次郎
過去記事です
『地下鉄に乗って』や、『一路』、『終わらざる夏』、『蒼穹の昴』などなど、浅田さんのこれまでの本の話がたくさん出てきて懐かしかった。小さな一冊だけど、“小説を書く”という形で浅田さんが格闘してきた時代や社会が詰め込まれた大きな一冊に思えた。 江戸、明治、大正、昭和と移り変わる時代のなかには、本来、私たち日本人が知っていなければならないのに知られていないことがある。今の自分を知るためには、近現代の歴史をこそ学ばなければならないのに・・・。昭和の戦争は“過去の罪科”と、押しつけられたものを後生大事に抱え込んで・・・、本当のことを知ろうともしない。 偉そうな言い方だな。自分だってそうだったくせにね。自分を真っ当にしてくれたのは、やっぱり父母や祖父母のおかげかな。・・・とっくに死んじゃったけどね。父母や祖父母の生き抜いた時代、明治、大正、昭和。父母や祖父母にも青春と呼ばれる時代があって、連れ合いに巡り合って、子を成して・・・。そんな時代を“過去の罪科”では片づけられないよね。浅田さんは、『戦争で何がおこったかなどを次の世代に伝える、送ることは私たちの義務』と言い切る。
第一章に《近代日本の勢いと未熟さ》という小見出しをつけられた部分がある。これ、私も同感。罪というならば、日本は未熟だった。「列強の植民地になってはならない」と必死になって新たな国づくりに奔走して、未熟ながらも列強の一画に食らいついた。その未熟すら罪と言われるのなら、甘んじて受け入れよう。だけどそれなら、もっと責められるべきは他にある。 ・・・困ったな。・・・実は、本編を読み終えて、この記事を書きい始めたのね。んで、冒頭の本を紹介して「懐かしいな」・・・なんてね。・・・で、そのあと“あとがき”を読んでわかったことなんだけど、『したがって本音は、小説の読者の方々にとっては著者自身の作品改題であり・・・』と書いてありました。まるで、そのまんまでした。こりゃまた失礼いたしましたっと。 これ、講演録だそうです。その分だけ、ずいぶんと読みやすく仕上がってました。“どう生きるか”について、書かれた本です。
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どうにも浅田次郎さんの本を読むと、自分には、もう一つの違う生き方があって、パラレルワールドのように、そちらを選択して生きている自分がいるような錯覚にとらわれる。いずれも、もう一つの選択は、今よりも自分に忠実な生き方をしている。今の生き方を公開しているわけじゃない。当然の選択だった。
今年の五月に、また、浅田次郎さんの本を読んだ。そのときにも、同様のことを考えた。
なぜかなあ。この本を読んで、・・・懐かしくて、懐かしくてたまらなかった。今では絶対お目にかかれない、それでいてかつては嫌ってほど当たり前だったものが、この本の中にあふれているようだった。 私の実家は変なうちで、この家に嫁いできた女は、〈ろくさんさま〉という、“神のようなもの”の巫女になる。在の女たちが、なんかことがあると、〈ろくさんさま〉にすがってうちを訪ねてくるんだ。そうすると、このうちの女が、なんかの方法で〈ろくさんさま〉にお伺いを立てる。 その方法は、このうちに嫁いできた女だけが受け継いできたらしい。私の母は、どうもそれを、兄貴の嫁さんに教えなかったらしいけど・・・。 そんな家だったから、ほんの少し、この本に書いてあることが、ほんの少し、・・・分かる。学生の頃までは、いろいろなものを見たから。 母が兄の嫁さんにその方法を教えなかったのと、おそらく似通った理由で、私は秩父を離れたかった。だから、外での生活がちょっと思い通りにいかなくったって戻るわけにも行かない。御嶽山から北に向かって県都境を越え、有馬山をから鳥首峠、大持山と越えれば武甲山に出る。山頂に登って北の山麓を見れば、山頂からなら私の家が見えるはず。 何度、夢想したろうか。・・・一度も辿ることはなかったけれでも・・・。 なんにも本の紹介にならずに終わってしまいそうだ。ただ、こういう本を読むと、いい年になってから勝手なことを言うようだけど、もう少し早く生まれたかったって思ってしまう。勝手だよねぇ。自分から、引きちぎるようにして、置き去りにしてきたものなのにね。・・・それでも、その真髄みたいなものだけを、こういうふうに目の前に再現されてしまうとね。著者、浅田次郎さんの手品みたいなものなのかな。 |


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