めんどくせぇことばかり 『山の眼玉』 畦地梅太郎

『山の眼玉』 畦地梅太郎

ちょっと気恥ずかしい言い様なんだけど、ある人から、“私”が頭に浮かんで「畦地梅太郎の山男を買った」と言われたことがある。畦地の“あ”の字も知らない私だったけど、その“山男”を見せられたとき、心を鷲づかみされた気持ちがした。

私より十五年上のその人と知り合ったのも山だった。その時、私は富山から折立を経て北アルプスに入った。行程は、太郎平小屋から薬師岳をピストンし、北ノ股を経て黒部五郎のカールでゆっくりするのが最大の目的だった。その後は双六から槍を越えて槍沢を通って上高地に下りる予定だった。

私は、その後、相棒と呼ぶことになる先輩と二人の山行を始めた頃で、この山行は私からの提案だった。ただ単に、直前に見た写真が黒部五郎のカールだったというだけの理由だった。その人は女二人組の山行だった。先行しているその人たちに、北ノ股あたりで私たちが追いついたような格好。私はどうでも良かったんだけど、相棒の先輩が意気投合してしまった。

黒部五郎の小屋素泊まりというその人たちを強引に誘って、私たちのテントにご招待。人影まばらなカールの夕暮れを思う存分楽しむはずが、記憶に残るのは酒を飲んだことだけ。

私たちはここでゆっくりすることが目的の山行だった。その人たちは双六から笠ヶ岳に抜けるというので、途中までお見送りすることになった。わたしが先頭で、気分よく稜線歩きを楽しんでいた。何の問題もなかった。「あっ❢」という声に後ろを振り返ると、その人が雪渓を滑り落ちていた。小さな雪渓で、すぐに止まったが、岩で膝を打っていた。

幾つかのパターンが考えられたけど、とりあえず同行した方がいいだろうということになり、その人が雪渓の雪で足を冷やしている間、私は黒部五郎に帰って二人分の荷物を担いで戻った。すると、やはりあまり良くないらしく、とりあえず、双六の小屋までおぶってった。

結局その人たちは、雨予報の翌日を小屋で停滞して足を休め、その翌日ぎりぎりまでタクシーに入ってもらってそこまで降りるということになった。もう、私は少し、うんざり気味。鷲羽も、水晶も、雲ノ平も行きたかったけど、先輩がそんな雰囲気ではなくなっていた。どうにも、これ以上その人たちに関わるのはいかがなものかということで、翌日は雨の中を槍に向かった。それが、槍についた頃はすでにピーカンで、私は山を楽しみたかったけど、どうも先輩は、有りもしない後ろ髪を引かれる様子。

消化不良のまま上高地をあとにすることになった。「じゃあ、せめて電車の中でのみながら」って、缶ビールを買ってたら、先輩があの二人連れを発見。四人で飲みながら、新宿まで帰った。

そのあと、なんだかんだと付き合いが続いた。何年かのち、一人の方が亡くなったと連絡があった。ひどい骨粗鬆症で、最後は苦しまれたそうだ。

『山の眼玉』    畦地梅太郎
ヤマケイ文庫  ¥ 1,026

畦地、とぼとぼ歩いた九十六年。山男の無垢な心情があふれる、山の傑作画文集

三人になってからも何度か山に登ったけど、先輩とその方は、山以外でも、美術愛好家ということで意気投合している。刀剣の鑑定眼を磨いて骨董の道に詳しい先輩が手ほどきをしたらしい。私抜きで山に行くことも再々で、私もそのほうが気が楽だった。三人じゃ付きあっていられない。街で飲むならまだしもね。
“私”にそっくりな、「版画を買ったから見に来てほしい」と言われて見せてもらったのが、畦地梅太郎の《山男》だった。どこが似てるのかちっとも分かんなかったけど、とても嬉しかった。ピッケルを持ってるやつで、さっきちょっと探してみたんだけど、・・・これに間違いないとはいえないんだけど・・・。畦地
畦地さんは、有名な山だから登るんじゃないんだってさ。言わば、今の百名山ブームとはまったく逆の路線だね。百名山の深田久弥さんも、今みたいなことになるとは思ってなかったろうけどね。山の中にいるってことを大事にしてたみたい。《山の静けさに悦び、山の気の不気味さに慄き》ってのを好まれたんだって。・・・とてもわかる。

スケッチブック持ってたそうだし、山でも絵を描いたろうけど、どうしても山で描かなきゃならないってことじゃないらしい。山に行って、山の気を吸い込んで、山そのものになった帰って描いたらああいう絵だったってことみたい。

さてこの本。《山男》ありきって本じゃなくて、ただひたすら、ある山男の画文集。何気ない山での一こまが、そこには淡々と綴られている。四国を除けば、かつての私の行動範囲は畦地さんのあしあとに重ねる部分が少なくない。呼んでいて、「あそこで畦地さんは、そんな思いをしたのか」って思えて面白い。

あとがきが書かれたのが昭和32年だからね。その時代って、けっこう登山ブームだったんだね。ときに有名な山小屋が満員なのを避けて行動している様子が書かれている。35年生まれの私が山を始めた高校の頃は、そんなじゃなかった。雲取ヒュッテ、雁坂や甲武信の小屋でアルバイトしたけど、シーズンでも一杯一杯ってことは、あまり経験ない。

来年の春から、もう一度山を始める。思っているようには登れないだろうけど、今の私に、どんな山登りができるか、不安だけど楽しみ。山の静けさを悦び、山の気の不気味さに慄きたい。




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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
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