『「試し書き」から見えた世界』 寺井広樹
最初にこの本を見たとき、“世界が見える試し書き”っていったい何か、見当もつかなかった。そりゃ私でも“試し書き”くらいすることもある。めったにないけど・・・。だけど、その“試し書き”が人目に触れることは、まずない。
人目に触れる“試し書き”っていったいなんだ。“落書き”ならわかる。そこから世界が垣間見られることもあるだろう。でも、“落書き”じゃなくて、あくまでも“試し書き”なんだよね。
そこから、世界を見ることができる“試し書き”で、それは人目に触れる。しかも、どこの国に行っても、それはひと目に触れるし、手に入れることもできる。
解答です。・・・それは、文房具屋さんならどこにでも必ずある、ボールペンの書き味を試すためのメモ用紙のことでした。
・・・でも、そんな大仰に、“世界が見える”だの、“お国柄が現れる”だの、“流行語大賞がわかる”だの。・・・いったいみんな、なにを書くことでボールペンの書き味を試してるんだろう。


そう言えば、この“試し書き”が気になったことがあったな。私はめったにボールペンの試し書きなんてしない。大概の場合、ボールペンなんて、書くことさえできれば事が足りる。試し書きをするのは、ここ一番、「力の入ったものを書こうか」って時だけど、もはや、書かない。でもかつて、たまには“力の入ったもの”を書いていた頃、試し書きをしようとして、そこに書かれた何の脈絡もない表現の集合体に見入ったことがある。
見る側にしてみれば、それが何人の人間の手によるものか、あとから描いたものは先に書いたものの影響を受けたのか、あるいはなんにも影響を受けてないのか、波のような線は「あいうえお」に沿って引かれたものか、花子とは書いた人の名前か、なんて
ことには一切関係なく、全て一時にして目に飛び込んでくる。
その試し書きに関わった人間は、その意識には全く関係なく、協力して一枚の紙に何かを残したのだ。
それらはかつて、次のボールペン購入希望者の目に止まり、場合によっては白紙の部分を求めてめくられたか、同じ理由でちぎられたか。いずれにせよ、時間の問題で、最後はゴミ箱に収まった。だから、試し書きに関わった人間たちは、何のためらいもなく、自由な試し書きを楽しむことができた。しかし、そんな自由な日々は終わった。・・・そう、この本の著者、寺井広樹という人物の登場である。
寺井は、人々が自由に楽しんできた“試し書き”の運命を、気楽だったゴミ箱から引っ張りだしてしまった。そんな奴が一人現れただけで、あらゆる“試し書き”は、かつての自由を失った。
そう、寺井は、いつ、どこの文具屋に現れるか。それは誰にもわからない。なにしろ106か国、2万枚の“試し書き”を集めた男だ。「注意せよ❢」・・・その、気楽に書いた“試し書き”。その運命は、ゴミ箱行きとは限らないのだ。
最後に、もう一つ怖ろしいことをお知らせしよう。寺井は、 《世界タメシガキ博覧会》というHPを開いている。そこでは、彼が世界中から集めた“試し書き”を見ることができるんだ。花子さん、気をつけてね。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
人目に触れる“試し書き”っていったいなんだ。“落書き”ならわかる。そこから世界が垣間見られることもあるだろう。でも、“落書き”じゃなくて、あくまでも“試し書き”なんだよね。
そこから、世界を見ることができる“試し書き”で、それは人目に触れる。しかも、どこの国に行っても、それはひと目に触れるし、手に入れることもできる。
解答です。・・・それは、文房具屋さんならどこにでも必ずある、ボールペンの書き味を試すためのメモ用紙のことでした。
・・・でも、そんな大仰に、“世界が見える”だの、“お国柄が現れる”だの、“流行語大賞がわかる”だの。・・・いったいみんな、なにを書くことでボールペンの書き味を試してるんだろう。
ごま書房新書 ¥ 1,350 世界106か国、2万枚収集 試し書きを通した世界の紀行文、はたまた文化人類学 |
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そう言えば、この“試し書き”が気になったことがあったな。私はめったにボールペンの試し書きなんてしない。大概の場合、ボールペンなんて、書くことさえできれば事が足りる。試し書きをするのは、ここ一番、「力の入ったものを書こうか」って時だけど、もはや、書かない。でもかつて、たまには“力の入ったもの”を書いていた頃、試し書きをしようとして、そこに書かれた何の脈絡もない表現の集合体に見入ったことがある。
見る側にしてみれば、それが何人の人間の手によるものか、あとから描いたものは先に書いたものの影響を受けたのか、あるいはなんにも影響を受けてないのか、波のような線は「あいうえお」に沿って引かれたものか、花子とは書いた人の名前か、なんて
ことには一切関係なく、全て一時にして目に飛び込んでくる。
その試し書きに関わった人間は、その意識には全く関係なく、協力して一枚の紙に何かを残したのだ。
それらはかつて、次のボールペン購入希望者の目に止まり、場合によっては白紙の部分を求めてめくられたか、同じ理由でちぎられたか。いずれにせよ、時間の問題で、最後はゴミ箱に収まった。だから、試し書きに関わった人間たちは、何のためらいもなく、自由な試し書きを楽しむことができた。しかし、そんな自由な日々は終わった。・・・そう、この本の著者、寺井広樹という人物の登場である。
寺井は、人々が自由に楽しんできた“試し書き”の運命を、気楽だったゴミ箱から引っ張りだしてしまった。そんな奴が一人現れただけで、あらゆる“試し書き”は、かつての自由を失った。
そう、寺井は、いつ、どこの文具屋に現れるか。それは誰にもわからない。なにしろ106か国、2万枚の“試し書き”を集めた男だ。「注意せよ❢」・・・その、気楽に書いた“試し書き”。その運命は、ゴミ箱行きとは限らないのだ。
最後に、もう一つ怖ろしいことをお知らせしよう。寺井は、 《世界タメシガキ博覧会》というHPを開いている。そこでは、彼が世界中から集めた“試し書き”を見ることができるんだ。花子さん、気をつけてね。


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