めんどくせぇことばかり 『その峰の彼方』 笹本稜平

『その峰の彼方』 笹本稜平

高校でワンゲル部に所属した吉澤國人。大学で山岳部に入部し、そこで津田悟に合う。無雪期の登山しか経験のなかった吉澤に対し、津田は地域の社会人が所属する山岳会で、冬山はもちろん、ロッククライミングやアイスクライミングを経験していた。大学に入学する段階で、すでに世界の山を視野に入れていた。大学山岳部の低迷期に、二人はどこか惹かれ合うものがあり、吉澤は津田が見せてくれる山の魅力にのめり込んだ。純粋に山の素晴らしさにのめり込む吉澤に、津田もまた惹かれた。

日本の山岳会、あるいは山岳会というものに関わる、本来山とは無関係なはずの虚構の数々に、彼は自分から絶縁状を叩きつけてマッキンリーの懐に飛び込んだ。

そんなわけで、この話の舞台はマッキンリーになる。それだけで私たちは、ある暗示を与えられる。「彼は、帰ってはこないだろう」・・・と。
1984年に植村直己、1989年に山田昇と、著名な日本人クライマーが相次いで命を落とした。もう、いずれも30年ほど前の出来事だが、いまだにその印象は強烈である。特に、植村直己は厳冬期単独登攀の偉業を達成し、その後、みんなの前に姿を現すことはなかった。「植村は、帰ってくる」、そんな期待も虚しく、植村が姿を現すことはなかった。

だから、マッキンリーと言われると思い知らされるのだ。「彼は、帰ってこないだろう」

これは、そんな読者にかけられた暗示を、巧みに計算に入れた物語である。だから、私たちは、最後の最後まで息の詰まるような思いから、決して開放されることがない。

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マッキンリーに消えた津田悟。彼の残した「あっちの世界に引きずりこまれそうになる」という言葉の意味は・・・?

冒頭、津田の妻から連絡を受けた吉澤が、単身、津田の救助のためにアンカレッジ国際空港に向かっている。眼下には、マッキンリーを中心とする白い山塊が広がっている。すでに津田は遭難したと考えられている。話はここから始まり、500ページに届こうとするほぼ全篇が、いまだその冬期登攀に成功したものは世界でもまだ一握りの登山家にすぎないというマッキンリーでの、壮絶な救助活動を描いたものとなる。

津田の妻となった祥子は、学生時代からアラスカの先住民文化の研究をしていた。そんな妻の紹介で知り合った先住民の長老ワイズマンには、津田は人生を教えられるほどの影響を受けた。そして、ワイズマンもまた・・・。

吉澤とともに捜索隊を組織するのは、アラスカにおける津田の仲間たち。つまり山岳ガイドたち。ハロルド・ジャクソン、ジョナサン・ベイリー、ルーク・ラーキン。それぞれが、津田に対する強い思い入れを持っていた。それは、もう一人捜索隊に加わったのは、ワイズマンの孫で、津田のもとでガイドとしての経験を積みつつあるウィリーもそうだった。

津田は、アラスカで、ある事業を展開する計画を進めつつあった。そんな姿、ストイックなまでに山にこだわる日本時代の津田を知る吉澤には違和感を持って受け止められる話だった。その事業に関わっていた旅行者に勤務する高井。

最終的に、救助のカギを握るヘリを飛ばすのがアラスカ軍の州兵のニール・マシューズ。

いずれも、この捜索の中で、新しい自分を見つけることになる。・・・、いずれも、姿を表さない津田悟を鏡として・・・。

そう見るとこの本は、どこか宗教書のようにさえ見えてくる。

北米最高峰マッキンリー、最近は先住民の呼び習わせてきた《デナリ》が使われることも多い。《大いなる者》という意味で、まさにこの山の名前としてふさわしい。



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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
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