『使える地政学』 佐藤優
朝日新聞 2016/03/20 過激派組織「イスラム国」が首都と称するシリア北部ラッカで18、19の両日、ロシア軍によるとみられる大規模な空爆があり、少なくとも民間人55人が死亡した。英国に拠点を置くシリア内戦の反体制派NGO「シリア人権監視団」が20日、発表した。 人権監視団は、現地住民の話として、死者55人のうち13人は子どもで、12人は妊婦を含む女性だったとしている。けが人は数十名にのぼり、重体・重傷者も多いといい、死者の増加が懸念される。 シリア内戦をめぐっては、先月27日にロシアと米国の呼びかけで停戦が発効した後、今月14日からスイス・ジュネーブで国連主導の和平協議が続いている。ISと国際テロ組織アルカイダ系「ヌスラ戦線」は停戦の対象外にされ、両組織を狙った空爆は停戦違反ではないが、ISやヌスラ戦線への空爆で巻き添えになる民間人が今後も増え続ければ、停戦の意義が問われる事態にもなりかねない。 |
最初、上得意のシリアであるからこそのロシアの支援だと思ってた。だけどここまでグチャグチャになっちゃうと、ロシアがテコ入れしたくらいでは、時計の針をもとに戻すように覆水が盆に返るなんてことはあり得ない。だからこその“停戦”と思ったもんだけど、著者は、最初からプーチンはこの事態を予測したうえでの、シリアへのテコ入れだったという。
今後のシリアのありようを予測すれば、もとシリアだった領域はいくつかの小勢力に分裂し、いずれも覇権的な力を持てずに断続的な衝突を繰り返していく。衝突が大きくなれば大きくなったで、小さくなれば小さくなったで、背後には周辺国にロシアや欧米が絡み、思惑つきの支援を続けていくことになる。
それだけ、この文明の十字路の持つ地政学的な価値は高いということだ。その中で、ロシアは重きを成そうと。それがプーチンの、地政学的な乾いた思惑と言うこと。その過程で55人の民間人が死んだ。“不幸な犠牲”・・・そう言っておけばいい。それ以上に大事なものがあるんだからね。・・・プーチンにしてみればね
『使える地政学』 佐藤優 朝日新聞出版 ¥ 821地理と世界史で、日本の大問題を読み解く |
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第一章と第二章は、切れた。一章のテーマは、なぜプーチンは、EUやアメリカを真っ向から敵に回してまで、厳しい経済制裁と、折からの原油安に苦しめられながら、ウクライナに吹っ掛けていったか。二章のテーマは中東。やはり主役はロシアで、あの混沌の中に、経済的苦境を押して、なぜロシアは絡んでいったのか。分かりやすかったし、おもしろかった。
現実は複雑に動く。あいつが嫌いだ、こいつが好きだ。早起きは苦手で、時間通りに出会えたためしがない。酒を飲むとだらしがない、女ならだれでもいい。最後は、けっこうそんなことで、事態は動く。
佐藤優さんは、頭が良すぎて、読み過ぎてるんじゃないかな。・・・そう思う。お勧めの、『マッキンダーの地政学』。おそらく私に読み切れる本じゃないだろうな。《われわれの記憶に残る人類に歴史が始まってから、これでほぼ千年になる。が、この間に、地球上の重要な地形はほとんど変化していない》というのは、マッキンダーの言葉だそうだ。それに続く一節で、《国家の振る舞いは地理的条件に制約される。・・・地理的諸条件に基づいて導かれた選択肢の中から、国家は最も理にかなう行動を選ぶことになるのだ》というのは、著者の言葉かな。
そう言われればわかるんだけど、千年を越える、その地理的諸条件のなかで歴史を積み重ねる内に、そこに住む者へは、その選択肢しかあり得ないという思考が染み付いてしまう。性格、あるいは人間性と言ってもいい。その地理的諸条件を勘定に入れないと、とても理解しきれない人間性を発揮する。
朝鮮半島の人々のものの考え方の特殊なこと。半島はその入り口をふさがれれば、その相手に生殺与奪の権を握られたことになる。もはやそいつに生殺与奪の権を握られたままの外交で行くしかない。その特別なことを、彼ら自身は知らない。外界と海で隔てられた島に国を形成した者にも、おそらくそれなりの特殊性があるんだろうな。私はそれを理解していないけどね。シナ大陸の人たちの特殊性も、けっこう分かりやすいもののように思えるな。
それじゃあ、プーチンは? ・・・プーチンも、どうしようもなく、ロシア人的な戦略で動いているようにしか思えないんだけどな。
おもしろかった。でも、《第五章 国家統合と地政学~沖縄編~》に関しては、ここに書いた、この本に関する文章とはまったく別物にしておく。かつ、コメントはなしにしておく。否定的ながら、まだ、料理しきれない。


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