『ラストレシピ』 加藤経一
2014年6月刊行の、『麒麟の舌を持つ男』の改題バージョンだそうです。もう、2年も前に出てた本なんだ。
・・・、というのが、裏表紙に書かれたふれ込みなんだけど、ちょっともったいない感じ。
著者は、田中経一さん。フジテレビで、《料理の鉄人》のディレクターをしてた人だって。その番組のなかで、田中さんは出場する料理人の人生に触れる経験をされたそうだ。この本にも登場する料理人の習性や、パトロンとの付き合い、リアルな人間関係は、それらの料理人との深い関わりのなかで体得されたことのようだ。

さっき、裏表紙のふれ込みにケチを付けた。少し安売りし過ぎかなって感じたからで、もちろんそれを目にしたのは読み終えたあとなんだけど、この内容の物語なら、“満州”と、あえてその名を出すだけで、言わなくても伝わる数々のことがある。“満州”を扱いながら、もったいないと感じたことは、物語の中にも、実はあった。
“満州”とまでいかなくても、この時代の日本人であれば、誰でも共通する気負いのようなものがあって、おそらく今より、遥かに物語になりやすい題材にあふれていた。ましてや、膨れ上がった気負いを世界中から袋叩きにされて、潰された。・・・物語の宝庫だ。にも関わらず、ほとんど書かれていない。ひとえに、あの時代がいまだに消化されていないことに原因がある。みんな、なにも語らなかった。周辺に、よく語る人たちがいる。彼らがあそこまで語るのは、日本人が一切語らないからだ。
だから、語ろうとすると、ついつい大上段に振りかぶって構えてしまう。大上段に振りかぶられて書かれた“満州”を読むのは、正直なところ、疲れるのだ。
あえて言ってしまえば、《歴史認識》に関しても、恐れなくていい。どんどん書いてもらいたい。どんどん書いていくなかで、問題にもなり、習性もされていくだろう。かと言って、責任を問うような真似はやめよう。表に出してくれたことを評価しよう。重ねていうが、あの時代はまだ、消化されていないのだ。
この本だって、ひどいもんだった。満州は中国人の国土で、日本は他人の地で好き勝手なことをして、中国人にひどいことをしたって。日本人にとって他人の地なら、シナ人にとってだって他人の土地。ひどいことなら、日本人も我慢に我慢を重ねた。あまつさえ、ストーリーに、取り立てて関係ないのに石井部隊の話を持ち出してくる始末。
でも、物語として面白かったし、そういった“認識”も、・・・大歓迎だ。口をつぐんでいるよりも、よっぽどいい。あの、“物語の宝庫”をもっともっと、表舞台に立たせることこそ、今はもっとも大事なことだと思う。
ぜひ、多くの方に、この本を読んでもらいたい。大変価値のある本だと思う。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
第二次世界対戦中に、天才料理人直太朗が完成させたという究極の料理を蘇らせてほしいと依頼された“最後の料理請負人”の佐々木充。彼はそれを再現する過程で、そのレシピが怖ろしい陰謀をはらんでいたことに気づく。直太朗が料理に人生をかける背景で、歴史を揺るがすある計画が動いていたのだ。料理に導かれ、70年越しの謎に迫る、感動の傑作ミステリー。 |
著者は、田中経一さん。フジテレビで、《料理の鉄人》のディレクターをしてた人だって。その番組のなかで、田中さんは出場する料理人の人生に触れる経験をされたそうだ。この本にも登場する料理人の習性や、パトロンとの付き合い、リアルな人間関係は、それらの料理人との深い関わりのなかで体得されたことのようだ。
『ラストレシピ 麒麟の舌の記憶』 加藤経一 幻冬舎文庫 ¥ 745絶対味覚を持つ佐々木充。ひょんなことから歴史をも揺るがす、ある計画に関わる |
さっき、裏表紙のふれ込みにケチを付けた。少し安売りし過ぎかなって感じたからで、もちろんそれを目にしたのは読み終えたあとなんだけど、この内容の物語なら、“満州”と、あえてその名を出すだけで、言わなくても伝わる数々のことがある。“満州”を扱いながら、もったいないと感じたことは、物語の中にも、実はあった。
“満州”とまでいかなくても、この時代の日本人であれば、誰でも共通する気負いのようなものがあって、おそらく今より、遥かに物語になりやすい題材にあふれていた。ましてや、膨れ上がった気負いを世界中から袋叩きにされて、潰された。・・・物語の宝庫だ。にも関わらず、ほとんど書かれていない。ひとえに、あの時代がいまだに消化されていないことに原因がある。みんな、なにも語らなかった。周辺に、よく語る人たちがいる。彼らがあそこまで語るのは、日本人が一切語らないからだ。
だから、語ろうとすると、ついつい大上段に振りかぶって構えてしまう。大上段に振りかぶられて書かれた“満州”を読むのは、正直なところ、疲れるのだ。
あえて言ってしまえば、《歴史認識》に関しても、恐れなくていい。どんどん書いてもらいたい。どんどん書いていくなかで、問題にもなり、習性もされていくだろう。かと言って、責任を問うような真似はやめよう。表に出してくれたことを評価しよう。重ねていうが、あの時代はまだ、消化されていないのだ。
この本だって、ひどいもんだった。満州は中国人の国土で、日本は他人の地で好き勝手なことをして、中国人にひどいことをしたって。日本人にとって他人の地なら、シナ人にとってだって他人の土地。ひどいことなら、日本人も我慢に我慢を重ねた。あまつさえ、ストーリーに、取り立てて関係ないのに石井部隊の話を持ち出してくる始末。
でも、物語として面白かったし、そういった“認識”も、・・・大歓迎だ。口をつぐんでいるよりも、よっぽどいい。あの、“物語の宝庫”をもっともっと、表舞台に立たせることこそ、今はもっとも大事なことだと思う。
ぜひ、多くの方に、この本を読んでもらいたい。大変価値のある本だと思う。


- 関連記事
-
- 『天地明察』 冲方丁 (2017/01/15)
- 『刀伊入寇 藤原隆家の闘い』 葉室麟 (2016/12/31)
- 『ラストレシピ』 加藤経一 (2016/12/04)
- 『ほかほか蕗ご飯-居酒屋ぜんや』 坂井希久子 (2016/09/20)
- 『義貞の旗』 安部龍太郎 (2015/12/08)