『赤いヤッケの男』 安曇潤平
一人で歩いていると、もう、神経が研ぎ澄まされちゃって、ちょっとした風の鳴き声、木と木のこすれる音、木漏れ日の揺らぎ、そんな小さな音や動きに、なぜか心がとらえられてしまう。いつも、いつもというわけじゃない。なんか、そういう場所があるんだよね。そんなこと、思いもよらないで歩いていることもあるのに、通るたびに研ぎ澄まされる、そんな場所。
ザックを後ろに引かれたことがある。ずいぶん前のこと。土曜日、半日仕事して、それから土合に向かう電車に飛び乗った。徐々に暗くなる中、1時間程度の避難小屋に向かう途中。1度じゃないよ。何度も、何度も、何度も・・・。こわかった~。
これはもっと前の話。どっか適当な場所にテント張ろうかなって、夕方から夜にかけて林道を歩いているとき、両側から木が茂っていたが、明るい月の木漏れ日で足元は不自由しない状態。・・・前方から月の木漏れ日が・・・。そう思ったら、月に照らされた自分の影は前に伸びている。じゃあ、前方の月あかりは・・・? そう思って見上げると、・・・木の葉の陰にうすぼんやり浮かんだ人の顔。
雲取に向かうお清平。茂みから聞こえる女に人の声。
いずれも、私は一人。いずれも、夕方から夜、そしてとっぷりと暮れたころ。やはり、“逢魔が時”はあやういね。
八号道標とか、アタックザック、笑う登山者とか、山で死んだ人が登山者にたたるのはよくないよね。死んだんだったら、あきらめて成仏してほしいよね。山に関係なく殺されてさ。そんで、山に死体遺棄されたっていうのなら、化けて出るのは仕方ないけどさ。自分で山に行っといて、死んじゃったのはかわいそうだけど、そこに来た登山者にたたるってのは、そりゃ理屈が通らない。霧の梯子の女に人はかわいそうだけどね。あの場合は祟って出ても仕方がないか。
そうそう、死体遺棄するんだったら、秩父の山はやめてね。東京の人は、すぐ「“秩父”なら・・・」って思うのかな。よくないよ、そういうの。
・・・?「怖いんだろ」って? ・・・そうだよ、怖いんだよ。何か出てわけでもないのに、もう怖くて、怖くて仕方がなくて、どう気持ちを奮い立たせようと思っても、ぐぐぐぐぅって、引き込まれるように、嫌な予感に取り込まれていくことって、山ではあるんだよね。そんなときは、人里に降りた方がいい。ろくな目に合わないから。
でも、一番怖かったのは、山の中で野犬に遭遇したとき。これは怖かった。前足たたんでさ。野犬に戦闘態勢とられると、かなり怖いよ。あの時は、本当に危機を感じたもの。いろいろなものを投げて撃退することができたけどね。
急行アルプスとか、カラビナとか、猿ぼぼとか、牧美温泉とかさ、亡くなった方の温かい気持ちがしのばれるような話はいいね。やっぱりお化けでも、そういう話が好きよ。
読み終わっちゃったことが残念。もっと読みたいな。ちょっと怖い話でもいいからさ。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
ザックを後ろに引かれたことがある。ずいぶん前のこと。土曜日、半日仕事して、それから土合に向かう電車に飛び乗った。徐々に暗くなる中、1時間程度の避難小屋に向かう途中。1度じゃないよ。何度も、何度も、何度も・・・。こわかった~。
これはもっと前の話。どっか適当な場所にテント張ろうかなって、夕方から夜にかけて林道を歩いているとき、両側から木が茂っていたが、明るい月の木漏れ日で足元は不自由しない状態。・・・前方から月の木漏れ日が・・・。そう思ったら、月に照らされた自分の影は前に伸びている。じゃあ、前方の月あかりは・・・? そう思って見上げると、・・・木の葉の陰にうすぼんやり浮かんだ人の顔。
雲取に向かうお清平。茂みから聞こえる女に人の声。
いずれも、私は一人。いずれも、夕方から夜、そしてとっぷりと暮れたころ。やはり、“逢魔が時”はあやういね。
『赤いヤッケの男』 安曇潤平 MF文庫 ダ・ヴィンチ ¥ 669山の怪談の第一人者・安曇潤平が放つ、“山の霊異記” |
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そうそう、死体遺棄するんだったら、秩父の山はやめてね。東京の人は、すぐ「“秩父”なら・・・」って思うのかな。よくないよ、そういうの。
・・・?「怖いんだろ」って? ・・・そうだよ、怖いんだよ。何か出てわけでもないのに、もう怖くて、怖くて仕方がなくて、どう気持ちを奮い立たせようと思っても、ぐぐぐぐぅって、引き込まれるように、嫌な予感に取り込まれていくことって、山ではあるんだよね。そんなときは、人里に降りた方がいい。ろくな目に合わないから。
でも、一番怖かったのは、山の中で野犬に遭遇したとき。これは怖かった。前足たたんでさ。野犬に戦闘態勢とられると、かなり怖いよ。あの時は、本当に危機を感じたもの。いろいろなものを投げて撃退することができたけどね。
急行アルプスとか、カラビナとか、猿ぼぼとか、牧美温泉とかさ、亡くなった方の温かい気持ちがしのばれるような話はいいね。やっぱりお化けでも、そういう話が好きよ。
読み終わっちゃったことが残念。もっと読みたいな。ちょっと怖い話でもいいからさ。


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