『和僑』 楡周平
兄が家を継ぐことに何の疑いもなかったから、私が家を出ることにも、何の疑いもなかった。兄は、私が中学生の時に、東北の大学に入学して、家を出た。もちろん、いつか帰ってくる前提で。その下の兄も家を出たあと、両親、祖父母との生活が苦痛で、高校を卒業すると同時に、前のめりになって家を出た。それ以来、家は帰省先になり、祖父母と両親が死んだ今、そこは兄の家になった。珍しくもなんともない話だけどね。
父には弟が三人いて、下の二人は故郷の秩父を出ている。もう、父の世代から、秩父に仕事はなかった。農地解放でボロボロにされ、畑も満足にない家なので、惣領以外は、自然と目が外に向く。
本書の中で、故郷を捨て、アメリカに渡り和僑となった時田さんの立場はよくわかる。ただ、親は、家を出る次男、三男のことを憂慮していたし、長男はそんな両親の思いを汲んでくれていたので、私は故郷と縁を切らずに済んだ。
いま、観光シーズンになると、秩父という名をよく聞く。そのたびに誇らしい思いとともに、なんだか複雑な感情が入り混じる。「もう、そろそろだろう」っていうところかな。兄の代になり、孫もできた今、自分の方から疎遠を旨として行動している。もう、60をまじかにしている私が秩父に暮らしたのは、18まででしかないんだから。今更、故郷を笠に着るのも、うすらみっともなく感じる。
巨人の星の明子姉ちゃんみたいに、電柱の影から見守ってね。訪れるなら、一人の旅人として、思いは秘めるというのが、適当でしょう。
まあ、できることなら、本書の時田さんのように、地元に貢献できる道があるなら、そんなにうれしいことはないでしょうけどね。


TPPで打撃を受けることが予想される、農林畜産業。減少を続ける人口。増える老人。そして、いつか減る老人。地方には仕事がない。若者は故郷を出て行かざるを得ない。
今の日本が、実際に抱えている様々な問題を、丁寧に描いて、とても上手に問題提起している。それが描かれる前半部分は、読んでいても、重いものを突き付けられている感覚がある。それとともに、主人公の山崎市長が、それにどう対峙するのかと、期待が高まる。
その解決策を模索していく後半の展開は、速度感もあって、心地いい。一次産業を立て直すことが、日本再生につながるという筋立ても面白い。
“日本のあたりまえ”が、海外では“売り物”になるといった展開だけなら、ただの“クールジャパン”で終わる。そこを、“和僑”とつなげることで、展開をダイナミックにしている。
「都合のよすぎる話の展開」というなかれ。実際の人生も、けっこう都合よくできていることもある。
ただのお話しと捉えてもいいが、きっと本気で考えているやつもいる。平成27年の本だから、読んだ人も多いでしょうが、もしまだだったら、おすすめです。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
父には弟が三人いて、下の二人は故郷の秩父を出ている。もう、父の世代から、秩父に仕事はなかった。農地解放でボロボロにされ、畑も満足にない家なので、惣領以外は、自然と目が外に向く。
本書の中で、故郷を捨て、アメリカに渡り和僑となった時田さんの立場はよくわかる。ただ、親は、家を出る次男、三男のことを憂慮していたし、長男はそんな両親の思いを汲んでくれていたので、私は故郷と縁を切らずに済んだ。
いま、観光シーズンになると、秩父という名をよく聞く。そのたびに誇らしい思いとともに、なんだか複雑な感情が入り混じる。「もう、そろそろだろう」っていうところかな。兄の代になり、孫もできた今、自分の方から疎遠を旨として行動している。もう、60をまじかにしている私が秩父に暮らしたのは、18まででしかないんだから。今更、故郷を笠に着るのも、うすらみっともなく感じる。
巨人の星の明子姉ちゃんみたいに、電柱の影から見守ってね。訪れるなら、一人の旅人として、思いは秘めるというのが、適当でしょう。
まあ、できることなら、本書の時田さんのように、地元に貢献できる道があるなら、そんなにうれしいことはないでしょうけどね。
『和僑』 楡周平 祥伝社 ¥ 1,728 メイド・イン・ジャパン“ローカル”を引っ提げて、出るぜ、世界へ!示せ日本の底力 |
|
TPPで打撃を受けることが予想される、農林畜産業。減少を続ける人口。増える老人。そして、いつか減る老人。地方には仕事がない。若者は故郷を出て行かざるを得ない。
今の日本が、実際に抱えている様々な問題を、丁寧に描いて、とても上手に問題提起している。それが描かれる前半部分は、読んでいても、重いものを突き付けられている感覚がある。それとともに、主人公の山崎市長が、それにどう対峙するのかと、期待が高まる。
その解決策を模索していく後半の展開は、速度感もあって、心地いい。一次産業を立て直すことが、日本再生につながるという筋立ても面白い。
“日本のあたりまえ”が、海外では“売り物”になるといった展開だけなら、ただの“クールジャパン”で終わる。そこを、“和僑”とつなげることで、展開をダイナミックにしている。
「都合のよすぎる話の展開」というなかれ。実際の人生も、けっこう都合よくできていることもある。
ただのお話しと捉えてもいいが、きっと本気で考えているやつもいる。平成27年の本だから、読んだ人も多いでしょうが、もしまだだったら、おすすめです。


- 関連記事