既成概念『卑弥呼のサラダ 水戸黄門のラーメン』 加来耕三
「どんなものを食べているか、言ってみたまえ。君がどんな人であるかを、言い当ててみせよう」
フランス革命の頃の行政・司法官を務めたブリア・サヴァランという人の言葉だそうです。まさに、“食は人なり”ということですね。
信長の生涯は、あらゆる既成概念を否定し、固定観念から抜け出たことで、“天下布武”を実践、天下統一にあと一歩というところまで迫った。そんな信長は、食に関しても、既成概念や固定観念へのにこだわりを持たなかったという。
それはちょっと、どうだろう。
こと、食べることに関していえば、既成概念や固定観念と言った経験則が、とても大事。食に関する文化は、“安全”であるとか、“健康”であるとか、あるいはまた、“信頼”であるとかが基本にある。その上に、技術や作法が形づくられてきた。信長のイメージの置かれている場所は、たしかに、“行儀作法”といったところからは遠い。だけど、桶狭間に向かうにあたって、“敦盛”を舞い、「立ったまま、湯漬けをかっこんだ」とか、若い時分に、「人目もはばからず、柿や瓜にかぶりついた」とかを取り上げて、行儀作法云々を言うのは、ちょっとおかしい。《時と場合による》というものだ。
“和を以て尊し”とする日本の歴史において、戦国時代は例外的に、“和”をちょっと棚の上に乗っけておいた時代。優先すべきは、変化しつつある時代に合わせて、もはや障害としかならない諸制度や風習を、大胆に捨てさり、改革していくことだった。
有名なところでは、楽市楽座がある。信長の登場で、“食の世界”も刷新されたところが多々あったはず。信長の、《あらゆる既成概念を否定し、固定観念から抜け出た》姿勢は、行儀作法をやぶって、一緒に食べる人に不快を与えるものではなく、逆に、“食の世界”に新たなエネルギーを吹き込む効果を与えたことだろう。
でも、私、茶碗の持ち方、はしの持ち方もそうだけど、一緒に食べている人に嫌な思いをさせる人が嫌いだ。そういう人とは、一緒に食べたくない。結構いるんだよね、そういう人が・・・。


加来耕三さんの本は、ずいぶん読んでいると思うけど、本当に、細かいところまで研究している勉強家なんだな。そういった研究の、“食”に関する集大成がこの本になったのか。あるいはまた、歴史上の人物の、“食”に対する向き合い方から、新たなお話を紡いで行こうとされているのか。
意外だったのは、大久保利通だった。維新の独裁者。日本のビスマルク。まさに、新しい日本を作り上げた。そりゃそうだ。そのために僚友、西郷隆盛を殺したのだから。彼に至るまでに消失された多くの命を、彼は背負っていたのだから。伊藤博文だって、山県有朋だってそういうところがあったかもしれないけど、違うのは、自分の意志によって、僚友西郷隆盛を殺したことだ。だから、伊藤や山県みたいに、女に入れあげたり、金に汚かったりしない。“食”のこだわりは、漬物だったそうだ。
とても面白く読ませてもらいました。
日本人であってよかったと思うことはいくつかあるが、“食”に関しては、まさにそう。この既成概念のなさはなんだろう。既成概念というと、・・・もしかして、そこにも信長が関わったりして・・・。いやいや、これこそが日本人本来のものなんだろう。
今日のツマミは、安く買ってきたカブの茎を塩でもんで置いたものに、塩昆布と干しエビを混ぜて、置いておいたもの。相撲も佳境に入ったし、そろそろ一杯やるかな。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
フランス革命の頃の行政・司法官を務めたブリア・サヴァランという人の言葉だそうです。まさに、“食は人なり”ということですね。
信長の生涯は、あらゆる既成概念を否定し、固定観念から抜け出たことで、“天下布武”を実践、天下統一にあと一歩というところまで迫った。そんな信長は、食に関しても、既成概念や固定観念へのにこだわりを持たなかったという。
それはちょっと、どうだろう。
こと、食べることに関していえば、既成概念や固定観念と言った経験則が、とても大事。食に関する文化は、“安全”であるとか、“健康”であるとか、あるいはまた、“信頼”であるとかが基本にある。その上に、技術や作法が形づくられてきた。信長のイメージの置かれている場所は、たしかに、“行儀作法”といったところからは遠い。だけど、桶狭間に向かうにあたって、“敦盛”を舞い、「立ったまま、湯漬けをかっこんだ」とか、若い時分に、「人目もはばからず、柿や瓜にかぶりついた」とかを取り上げて、行儀作法云々を言うのは、ちょっとおかしい。《時と場合による》というものだ。
“和を以て尊し”とする日本の歴史において、戦国時代は例外的に、“和”をちょっと棚の上に乗っけておいた時代。優先すべきは、変化しつつある時代に合わせて、もはや障害としかならない諸制度や風習を、大胆に捨てさり、改革していくことだった。
有名なところでは、楽市楽座がある。信長の登場で、“食の世界”も刷新されたところが多々あったはず。信長の、《あらゆる既成概念を否定し、固定観念から抜け出た》姿勢は、行儀作法をやぶって、一緒に食べる人に不快を与えるものではなく、逆に、“食の世界”に新たなエネルギーを吹き込む効果を与えたことだろう。
でも、私、茶碗の持ち方、はしの持ち方もそうだけど、一緒に食べている人に嫌な思いをさせる人が嫌いだ。そういう人とは、一緒に食べたくない。結構いるんだよね、そういう人が・・・。
『卑弥呼のサラダ 水戸黄門のラーメン』 加来耕三 ポプラ新書 ¥ 842 歴史をつくったあの人は、その時なにを食べていた? 「食」から読み解く日本史 |
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加来耕三さんの本は、ずいぶん読んでいると思うけど、本当に、細かいところまで研究している勉強家なんだな。そういった研究の、“食”に関する集大成がこの本になったのか。あるいはまた、歴史上の人物の、“食”に対する向き合い方から、新たなお話を紡いで行こうとされているのか。
意外だったのは、大久保利通だった。維新の独裁者。日本のビスマルク。まさに、新しい日本を作り上げた。そりゃそうだ。そのために僚友、西郷隆盛を殺したのだから。彼に至るまでに消失された多くの命を、彼は背負っていたのだから。伊藤博文だって、山県有朋だってそういうところがあったかもしれないけど、違うのは、自分の意志によって、僚友西郷隆盛を殺したことだ。だから、伊藤や山県みたいに、女に入れあげたり、金に汚かったりしない。“食”のこだわりは、漬物だったそうだ。
とても面白く読ませてもらいました。
日本人であってよかったと思うことはいくつかあるが、“食”に関しては、まさにそう。この既成概念のなさはなんだろう。既成概念というと、・・・もしかして、そこにも信長が関わったりして・・・。いやいや、これこそが日本人本来のものなんだろう。
今日のツマミは、安く買ってきたカブの茎を塩でもんで置いたものに、塩昆布と干しエビを混ぜて、置いておいたもの。相撲も佳境に入ったし、そろそろ一杯やるかな。


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