女にもてたい『げんきな日本論』 橋爪大三郎 大沢真幸
みんなそう思ってた。それがために、自分には本来関係ないことまで努力して、考えてみれば、何とも涙ぐましいことだ。あんなこともやったし、こんなこともやった。ときには犯罪すれすれのこともあった。そんなきわどさは、今ではみんな犯罪そのものとされてしまうんだから、若い人は可哀そうだ。
この時代なら、私も歌を、女に送ったんだろう。
歌は、時には異性との交流に重要な役割を果たした。文字がなかった時代に口語表現で歌が詠まれた。貴族の時代となり、時に女性は、簡単に顔を見せないことで自分の価値を高めた。そんな時代、まず男女のあいだをつないだのが歌だった。歌を詠んで届けるなら、字に書かなければならない。男性も女性も字を読み書きしなければならないことになった。女性たちに広まったひらがなであったが、瞬く間に男性の間にも広まった。 本書 |
教科書にも、ぜひそう書いてもらいたい。
娘は年頃になると、両親のいる母屋から離れた離れのような場所に移る。そこに男が通ってくる。一人とは限らない。娘は、そうやって、自分のパートナーを見つける。子供が生まれても、しばらくのあいだは親元に居続ける。ある程度子供が大きくなってから、子供を連れて、娘は夫のもとに移り住む。父親は娘と孫を保護し、結婚したあとは婿の後ろ盾となる。
婿は、有力な後ろ盾が欲しい。舅は、有望な婿が欲しい。まあ、女は父が望む男の子を孕むことになるわけだ。微妙な線ではあるが、世の中は、うまい具合に回っていたんだな。
女が、「あの人がお父さん」って言った人がお父さんなんだ。それは、どうにも変えられない。どうも、本当のお父さんがだれかってことには、あんまりこだわらないのかな。こだわらないってことはないけど、まあ、世の中をうまい具合に回すことの方が、もっともっと大事だもんね。
シナでも、ペルシャでも、その後のトルコでも、世襲の王や皇帝なら、その子供が次の王や皇帝になる。その時、子供が本当に王や皇帝の子であることを証明するために、後宮、ハーレムが作られた。
日本の場合、王宮にハーレムはない。天皇の奥さんは天皇と同じ居宅に住んでいて、そこに行政官が出入りする。奥さんに仕える女性たちもたくさんいて、そこに男女のコミュニケーションが成立する。
王や皇帝の血筋は大事なことだけど、その証明に、さほど関心がない。外の世界ほどには関心がない。
『げんきな日本論』 橋爪大三郎 大沢真幸 講談社新書 ¥ 918 「不思議なキリスト教」でおなじみの二人が語りつくした日本論 |
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言葉が交わらなければ、人が交わることはない。
中世ヨーロッパ社会では、社会の上層階級と庶民階級の間の言語がラテン語と“土着語”に分断されていた。だから平等の実現など不可能だった。
近代以降のヨーロッパ諸国で社会的平等が徐々に実現されていったのは、国語の整備や国語に基づく公教育の普及が大きな要因だった。経済的にもラテン語を操る一部の上層階級だけがより高い所得を得るような時代を脱し、大衆が国語で自ら学び、あらゆる分野で先進的な取り組みをするようになったことで、社会全体が活性化し、技術革新も多く生まれ、次第に社会の構成員全体の所得が向上していった。
一方、現代でも、植民地になった経験を有するアジア、アフリカの新興諸国では、言語の分断が残存している。
こうした地域では、上層階級は英語やフランス語など旧宗主国の言語を使い、庶民はもっぱら土着語を使って暮らしている。
そのような社会では、高い収入が得られる職業は旧宗主国の言語が使えることが求められる。それが使えなければ、高等教育や専門教育も受けられないため、庶民にとってこうした職業に就くことはハードルの高いものとなる。
・・・「グローバル言語」などと称して、母語以外の言語を偏重するようになってしまえば、人々の平等に生きる権利や学ぶ権利が奪われてしまう。
なによりも、言葉が交わらないところに、男女の交わりわない。・・・例外を除けば・・・。


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