『山の怪奇 百物語』 山村民俗の会
私は秩父の生まれで、奥秩父は高校以来のホームグラウンド。今はなき雲取ヒュッテ、雁坂峠小屋、甲武信小屋とも、なぜか親父さんは、夜になるたびに怖い話をして高校生の私たちを怖がらせるのが大好き。ひとしきりそんな話をして高校生をいたぶったあとは、決まって最後、小屋まわりやテント場の見回りを言いつけられたりする。一度、そんな時間に登ってきた大馬鹿野郎に出くわして、腰が抜けるほど怖い思いをしたことがある。
知っている場所が多いんだよね。・・・というのも、この本に乗っている怪奇譚の語られる現場のこと。奥秩父、寄居、越生、顔振峠。いずれも勝手知ったる庭のごとく、よく歩いている場所だ。
ということは、このあたりに《山村民俗の会》の会員が多いということなのか。
私の生家は武甲山山麓で、何かと伝奇・伝説の多いところ。しかも、嫁はロクサン様に仕える役割を担うというのが生家の習わし。祖母は、思いっきり雰囲気を持った人で、暗いところで気配を消してしまうから始末が悪い。遊んで薄暗くなった庭先で、遅くなった言い訳を考えていると、ふと気がつくと、すぐそばに祖母がいたりすることがあった。・・・もう、やめてよ、おばあちゃん。夜中に意を決してお便所にいこうとすると、なぜか暗い廊下に祖母がいる。・・・ばう、勘弁じでよ、ぼばあじゃん。
夕方、徐々に暮れゆく中、少し先にある小山の上の大木の梢あたりを祖母が見ていれば、多分そこには何かがいるんだろうということが、子供の私にもなんとなくわかった。祖母がダメだと言ったことを、ことごとく踏みにじった私だから、どこかで罰が当たるとは思っていた。・・・予想通り、罰当たりな人生だった。


《山村民俗の会》会員の方々が丹念に拾い集めた話は、創られたものではなくて、伝えられたもの。そんな感じの話ばかりで、怪談ばなしというよりも、民俗ばなしの趣さえある。ほんのちょっとデコレーションすれば、いくらでも怖ーい話にもなるのに、そういう盛り付けはされていない。
そのくらいに素朴な話ばかりなんだけど、それだけに、“物語”の宝庫とも言える。こういうふうに拾い集められた話から、物語は作られていくんだろうな。
ロクサン様は、祖母から母に引き継がれた。その母が死んだのは、祖母が死んでからたったの4年後のことだった。ずい分前に、母はロクサン様を引き継いでいたが、自分はその仕事を全うしたものの、長男の嫁には引き継がなかった。最初から、自分で終わりにする覚悟があったようだ。
母にも、山の大木の木の梢にいた何かが見えたんだろうか。祖母は母に厳しかったけど、どうも私には、祖母と母が本質的に似ていたからこそ、祖母は母に厳しかったようなきがする。・・・たぶん、母にも見えていたんだろうと、私は思う。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
知っている場所が多いんだよね。・・・というのも、この本に乗っている怪奇譚の語られる現場のこと。奥秩父、寄居、越生、顔振峠。いずれも勝手知ったる庭のごとく、よく歩いている場所だ。
ということは、このあたりに《山村民俗の会》の会員が多いということなのか。
私の生家は武甲山山麓で、何かと伝奇・伝説の多いところ。しかも、嫁はロクサン様に仕える役割を担うというのが生家の習わし。祖母は、思いっきり雰囲気を持った人で、暗いところで気配を消してしまうから始末が悪い。遊んで薄暗くなった庭先で、遅くなった言い訳を考えていると、ふと気がつくと、すぐそばに祖母がいたりすることがあった。・・・もう、やめてよ、おばあちゃん。夜中に意を決してお便所にいこうとすると、なぜか暗い廊下に祖母がいる。・・・ばう、勘弁じでよ、ぼばあじゃん。
夕方、徐々に暮れゆく中、少し先にある小山の上の大木の梢あたりを祖母が見ていれば、多分そこには何かがいるんだろうということが、子供の私にもなんとなくわかった。祖母がダメだと言ったことを、ことごとく踏みにじった私だから、どこかで罰が当たるとは思っていた。・・・予想通り、罰当たりな人生だった。
『山の怪奇 百物語』 山村民俗の会 河出書房新社 ¥ 1,296 山村民俗の会は、どなたでも入会できます。あなたの仲間入りを、・・・お待ちしています |
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《山村民俗の会》会員の方々が丹念に拾い集めた話は、創られたものではなくて、伝えられたもの。そんな感じの話ばかりで、怪談ばなしというよりも、民俗ばなしの趣さえある。ほんのちょっとデコレーションすれば、いくらでも怖ーい話にもなるのに、そういう盛り付けはされていない。
そのくらいに素朴な話ばかりなんだけど、それだけに、“物語”の宝庫とも言える。こういうふうに拾い集められた話から、物語は作られていくんだろうな。
ロクサン様は、祖母から母に引き継がれた。その母が死んだのは、祖母が死んでからたったの4年後のことだった。ずい分前に、母はロクサン様を引き継いでいたが、自分はその仕事を全うしたものの、長男の嫁には引き継がなかった。最初から、自分で終わりにする覚悟があったようだ。
母にも、山の大木の木の梢にいた何かが見えたんだろうか。祖母は母に厳しかったけど、どうも私には、祖母と母が本質的に似ていたからこそ、祖母は母に厳しかったようなきがする。・・・たぶん、母にも見えていたんだろうと、私は思う。


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