『水壁』 高橋克彦
たまたま本屋で見つけたのよ。よかった、よかった。もう、東北を書くのはやめたのかと思っちゃった。そんなわけないよね。だけど、読み終わって本の最後の方のページ見てわかった。あの新聞に書いてたんだ。私は、あの新聞は読まないからなぁ。職場には読んでる人も多いんだけどなぁ。そうそう、《しんぶん赤旗 日曜版》。・・・それじゃあ、わかんないよ。
千年前の大震災に苦しむ東北で、俘囚と呼ばれた蝦夷たちの生活は、完全崩壊の危機に瀕していた。この時平安政権は、アテルイ後に服属し、俘囚と呼ばれた蝦夷たちを、保護の対象としなかった。俘囚は耕作地を放棄せざるをえない状況に追い込まれ、耕作地は開墾の苦労もなく権力側のものとなり、毛野や常陸からの入植者に格安で下げ渡された。あちこちに山賊がはびこり、俘囚の村々を襲った。中には権力と結託し、あえて俘囚の村々を襲撃するものもあった。もはやこの年、俘囚にしろ、蝦夷にしろ、その歴史が閉じられんとしていた。
・・・アテルイの死から75年。その血を引き継ぐ一人の若者が、東北の未来を一身に引き受けて、決起しようとしていた。
そんな物語。歴史的には“元慶の乱”と呼ばれるものらしい。それは、追い詰められた蝦夷が蜂起して秋田城を衝撃したもの。ウィキペディアによれば、《寛政によって鎮撫して終息》ということになるが、蝦夷側にすれば要求を飲ませたということ。もちろん、それだけではすまない戦闘や、政治的駆け引きがあってのことだったろう。
蝦夷は、勝ち取ったのだ。

高橋克彦さんの東北シリーズを時系列で並べれば、『風の陣』、『火怨』、『水壁』、『炎立つ』、『天を衝く』という並びになる。長編に変わりないものの、他の作品に比べれば小作品である『水壁』だが、この作品はかなり重要な位置を占める。
アテルイの乱を鎮圧したのち、平安政権は、なんと軍事を放棄する。その影響が本作の時代背景にある。東北・九州の軍団は残すもののそれ以外の軍団の兵制を廃止してしまうから兵の追加投入には支障があったはずだ。教科書的には、《郡司など地方豪族の子弟で弓馬に巧みなものを募って“健児”とし、国府や兵器庫の警備に当たらせた》ということになるが、「これからは自分のことは自分で守ってね」というに過ぎない。
こんな中から自主防衛武装農民が登場し、それが頭領のもとに統合されていって武士団となる。頭領には臣籍降下した“源”姓や“平”姓となっていくわけだ。時系列で次の作品となる『炎立つ』では武士の時代に突入するが、それにはまだ、だいぶ時間がかかる。
この間の話があっていいな。『炎立つ』では、まず陸奥国を統べる安倍氏の滅亡の話、前九年の役から始まる。だから、その安倍氏が陸奥国を統べるに至る話があっていい。・・・くる。きっとくる。高橋克彦さんは、きっと書いてくれる。
この物語の主人公天日子は、アテルイから数えて四代目の子孫。その物語では、その血筋にまた新たな英雄が登場するのだろうか。、貴種を設定してそれをありがたがるのでは、公家や源平の常識に習うばかりだけど、夢のある話ではある。
いずれにしても、取らぬ狸の皮算用には違いない。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
千年前の大震災に苦しむ東北で、俘囚と呼ばれた蝦夷たちの生活は、完全崩壊の危機に瀕していた。この時平安政権は、アテルイ後に服属し、俘囚と呼ばれた蝦夷たちを、保護の対象としなかった。俘囚は耕作地を放棄せざるをえない状況に追い込まれ、耕作地は開墾の苦労もなく権力側のものとなり、毛野や常陸からの入植者に格安で下げ渡された。あちこちに山賊がはびこり、俘囚の村々を襲った。中には権力と結託し、あえて俘囚の村々を襲撃するものもあった。もはやこの年、俘囚にしろ、蝦夷にしろ、その歴史が閉じられんとしていた。
・・・アテルイの死から75年。その血を引き継ぐ一人の若者が、東北の未来を一身に引き受けて、決起しようとしていた。
そんな物語。歴史的には“元慶の乱”と呼ばれるものらしい。それは、追い詰められた蝦夷が蜂起して秋田城を衝撃したもの。ウィキペディアによれば、《寛政によって鎮撫して終息》ということになるが、蝦夷側にすれば要求を飲ませたということ。もちろん、それだけではすまない戦闘や、政治的駆け引きがあってのことだったろう。
蝦夷は、勝ち取ったのだ。
『水壁』 高橋克彦 PHP研究所 ¥ 1,836 中央政権の容赦ないしうち。東北の英雄アテルイの血を引く若者が決起する |
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高橋克彦さんの東北シリーズを時系列で並べれば、『風の陣』、『火怨』、『水壁』、『炎立つ』、『天を衝く』という並びになる。長編に変わりないものの、他の作品に比べれば小作品である『水壁』だが、この作品はかなり重要な位置を占める。
アテルイの乱を鎮圧したのち、平安政権は、なんと軍事を放棄する。その影響が本作の時代背景にある。東北・九州の軍団は残すもののそれ以外の軍団の兵制を廃止してしまうから兵の追加投入には支障があったはずだ。教科書的には、《郡司など地方豪族の子弟で弓馬に巧みなものを募って“健児”とし、国府や兵器庫の警備に当たらせた》ということになるが、「これからは自分のことは自分で守ってね」というに過ぎない。
こんな中から自主防衛武装農民が登場し、それが頭領のもとに統合されていって武士団となる。頭領には臣籍降下した“源”姓や“平”姓となっていくわけだ。時系列で次の作品となる『炎立つ』では武士の時代に突入するが、それにはまだ、だいぶ時間がかかる。
この間の話があっていいな。『炎立つ』では、まず陸奥国を統べる安倍氏の滅亡の話、前九年の役から始まる。だから、その安倍氏が陸奥国を統べるに至る話があっていい。・・・くる。きっとくる。高橋克彦さんは、きっと書いてくれる。
この物語の主人公天日子は、アテルイから数えて四代目の子孫。その物語では、その血筋にまた新たな英雄が登場するのだろうか。、貴種を設定してそれをありがたがるのでは、公家や源平の常識に習うばかりだけど、夢のある話ではある。
いずれにしても、取らぬ狸の皮算用には違いない。


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