『大日本史』 山内昌之 佐藤優
佐藤優さんは、一体どれだけの本を出しているんだろう。それもここのところ“対談モノ”がきわめて多い。「対談なら喋っていればいい」ってことじゃないでしょうし、その合間合間にお一人で書いてますしね。書く以上に、その何倍も何倍も読んでらっしゃるでしょうからね。・・・寝る間があるんでしょうか。なにかと考える視点を与えてもらってるんで、私としてはありがたい話なんですが・・・。
それにしても、『大日本史』というのはいかがなものでしょう。佐藤優さんは2015年に、池上彰さんとの対談で、『大世界史』って言う本を出しています。今回と同じく文春新書からです。ということで、二匹目のドジョウを狙って、安直な題名をつけたのは文春新書の仕業でした。
『大日本史』と言いながら、目次にあるように、黒船来航以来の近現代史。それも、目次の内容に限定されています。つまり、日本近現代史全般を対象にしているわけではありません。もちろん、近現代史でもポイントとなる重要問題を取り上げているわけです。だから、親切を考えれば、『大日本近現代史』と言う題名になりますね。・・・でもこれだと売れそうもないですね。
あっ、そうそう。おまけみたいになっちゃいましたけど、山内昌之さんの博識ぶりも佐藤優さん同様で、ものすごいですよ。佐藤さんの言葉を借りれば、第一バイオリンは山内さんで、膨大な知識を注入するのが役割で、それに合わせて分析的判断を下す佐藤さんは第二バイオリン。そういう役割分担のようです。
自分の知識が二人に追いつける部分に関しては、・・・正直言って特別真新しいことがあるわけではない。だけど、自分の認識がそれていないことを確認できるのはありがたい話だし、二人は私と違って、私以上に深くて詳細な知識でその認識を獲得しているので、私の浅薄な認識も、二人の深くて詳細な知識に保障されることになる。
二人の対談の中で一番面白かったのは、陸軍軍事課長永田鉄山に関する部分ですね。この課長クラスが、日本の鼻面を引き回して、あげくの果ては奈落に突き落とすことになるんですからね。その課長クラスでも群を抜いて能力が高かったのが永田鉄山だったんですね。
一課長に過ぎない永田鉄山の指示に、参謀総長や陸軍大臣など高級統帥エリートも従わざるを得ない構図を作り上げていくことができる人物なんですね。それは山内昌之さんが報告していることなんですが、行政府の内閣でさえも文句の言えない手順で謀略を着実に組み立てて「やらざるを得ない」状況に仕立て上げるんですからね。
佐藤さんに言わせると、外交においても、自体が大きく動くときは、主導しているのは課長や課長補佐クラスらしい。一番仕事が良く見えている立場の人たちだな。彼らが省庁横断的にいろいろ調整して、なおかつ政治家を巻き込んでいく。日本的官僚機構の特質でもあるらしいけど、永田鉄山は軍人ですからね。軍人である、しかも課長級の永田が政治を手玉に取っていくのだから、大変危険な状況が生まれていたわけだ。
さらにまずいことに、その永田鉄山が相沢三郎に切り殺されてしまう。山内さんが面白い言い方をしているんだけど、永田の死のあと、「永田のような国家の長期ヴィジョンも、科学的合理性も、法的手続きの正当性への配慮もない単細胞の軍人たちが、下剋上と強引な政治介入という禁じ手のうわべだけを引き継いでいく」ことになるわけですね。
たしかに、この後は著しく永田に足りない課長や課長補佐クラスが、日本の鼻面を引き回す時期に入っていきますね。
日本は、戦争に負けて、アメリカに占領されて、みじめな状態に落とされそうなところだったわけですね。それが、冷戦の開始によって占領政策が変更されて、今のような日本が生まれることになった。いずれにせよ、日本に対する絶対正義を必要としたアメリカの基準を押し付けられることで、逆に日本は自分で自分の過去に決着をつけることができなかった。
こういう本の登場ってのは、そういう意味で、とても重要だと思います。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
それにしても、『大日本史』というのはいかがなものでしょう。佐藤優さんは2015年に、池上彰さんとの対談で、『大世界史』って言う本を出しています。今回と同じく文春新書からです。ということで、二匹目のドジョウを狙って、安直な題名をつけたのは文春新書の仕業でした。
『大日本史』と言いながら、目次にあるように、黒船来航以来の近現代史。それも、目次の内容に限定されています。つまり、日本近現代史全般を対象にしているわけではありません。もちろん、近現代史でもポイントとなる重要問題を取り上げているわけです。だから、親切を考えれば、『大日本近現代史』と言う題名になりますね。・・・でもこれだと売れそうもないですね。
あっ、そうそう。おまけみたいになっちゃいましたけど、山内昌之さんの博識ぶりも佐藤優さん同様で、ものすごいですよ。佐藤さんの言葉を借りれば、第一バイオリンは山内さんで、膨大な知識を注入するのが役割で、それに合わせて分析的判断を下す佐藤さんは第二バイオリン。そういう役割分担のようです。
『大日本史』 山内昌之 佐藤優 文芸春秋 ¥ 929 幕末から太平洋戦争まで「日本の最も熱い時代」を縦横無尽に徹底討論 |
|
自分の知識が二人に追いつける部分に関しては、・・・正直言って特別真新しいことがあるわけではない。だけど、自分の認識がそれていないことを確認できるのはありがたい話だし、二人は私と違って、私以上に深くて詳細な知識でその認識を獲得しているので、私の浅薄な認識も、二人の深くて詳細な知識に保障されることになる。
二人の対談の中で一番面白かったのは、陸軍軍事課長永田鉄山に関する部分ですね。この課長クラスが、日本の鼻面を引き回して、あげくの果ては奈落に突き落とすことになるんですからね。その課長クラスでも群を抜いて能力が高かったのが永田鉄山だったんですね。
一課長に過ぎない永田鉄山の指示に、参謀総長や陸軍大臣など高級統帥エリートも従わざるを得ない構図を作り上げていくことができる人物なんですね。それは山内昌之さんが報告していることなんですが、行政府の内閣でさえも文句の言えない手順で謀略を着実に組み立てて「やらざるを得ない」状況に仕立て上げるんですからね。
佐藤さんに言わせると、外交においても、自体が大きく動くときは、主導しているのは課長や課長補佐クラスらしい。一番仕事が良く見えている立場の人たちだな。彼らが省庁横断的にいろいろ調整して、なおかつ政治家を巻き込んでいく。日本的官僚機構の特質でもあるらしいけど、永田鉄山は軍人ですからね。軍人である、しかも課長級の永田が政治を手玉に取っていくのだから、大変危険な状況が生まれていたわけだ。
さらにまずいことに、その永田鉄山が相沢三郎に切り殺されてしまう。山内さんが面白い言い方をしているんだけど、永田の死のあと、「永田のような国家の長期ヴィジョンも、科学的合理性も、法的手続きの正当性への配慮もない単細胞の軍人たちが、下剋上と強引な政治介入という禁じ手のうわべだけを引き継いでいく」ことになるわけですね。
たしかに、この後は著しく永田に足りない課長や課長補佐クラスが、日本の鼻面を引き回す時期に入っていきますね。
日本は、戦争に負けて、アメリカに占領されて、みじめな状態に落とされそうなところだったわけですね。それが、冷戦の開始によって占領政策が変更されて、今のような日本が生まれることになった。いずれにせよ、日本に対する絶対正義を必要としたアメリカの基準を押し付けられることで、逆に日本は自分で自分の過去に決着をつけることができなかった。
こういう本の登場ってのは、そういう意味で、とても重要だと思います。


- 関連記事
-
- 『生活のなかの神道』 ひろさちや (2018/02/18)
- 『火定』 澤田瞳子 (2018/02/13)
- 『大日本史』 山内昌之 佐藤優 (2018/02/11)
- 19世紀後半『大日本史』 山内昌之 佐藤優 (2018/01/31)
- 『日本人なら一度は見ておきたい国宝』 (2017/12/17)