めんどくせぇことばかり 『影の中の影』 月村了衛
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『影の中の影』 月村了衛

奇想天外に思えても、読んだ人間が“本当にありそう”な話であれば、やはり緊迫感が違いますね。
中国共産党はウイグル族の文化、伝統、宗教を徹底的に弾圧する政策を採っており、少しでも抵抗するものには官憲による容赦のない暴力が浴びせられる。そこに人権という概念は存在しない。実際に当局に連行されたきり戻らなかった住民は数知れず、また判明している逮捕者以外にも膨大な数の行方不明者がいると言われている。

それどころか、中国政府は漢族を大量にウイグルへと入植させる一方で、『扶貧政策』と称し十五歳から二十二歳の結婚適齢期にあるウイグル族の若い女性を上海や青島などに強制移住させ、劣悪な環境下で低賃金の労働力として酷使している。移住させられたウイグル人の女性が生き残るには、現地で漢族と結婚するしかなかった。

中国がもくろんでいるのはウイグル族の漢族への同化、もしくは完全なる死滅であって、それは資源の簒奪を狙うきわめて大規模かつ悪質な民族浄化にほかならない。
本書p14
“本当にありそう”って思うのは、ウイグルで起きていることを、実は世界はなんとなく知っているからですね。強制的な堕胎や避妊手術、政治犯などの虐殺、労働改造所への強制収容、核実験などとあわせて、まさに民族浄化が進められているのは本当の話ですからね。
スウェン・ヘディンの『彷徨える湖』にワクワクしたロプノール湖は、今や中国共産党の核実験場。ほんの10キロ程度離れたところにウイグル人が住もうが、モンゴル人が住もうが、お構いなしに公表しているだけで45回も核実験をしているという。

影は、絶望の淵にある者を救うためにしか、仕事を受けない。

『影の中の影』    月村了衛

新潮文庫  ¥ 810

疾風怒濤の冒険小説の荒ぶる魂がいま甦る 中国軍暗殺組織に追いつめられる亡命ウイグル人
第一章 西域に地獄が在る
第二章 美ら海に影は消えた
第三章 蝙蝠は血に群がる
終章 そして影は朝靄に還る

あ、もうドキドキした~。

凄絶な過去から生き返った男だけに、彼は影の中にしか生きる場所を求めることができなかった。いや、彼が生きることを求めたわけではない。しかし、彼が影の中にいくる男であるからこそ始末できる仕事が、世界にはいくらでもあった。社会の矛盾ゆえに生じたキレットに、ただ投げ捨てられるだけの人々の求めに、彼は応えることができた。だから、影の中に行き続けた。

彼に救いをもためたのは、中華人民共和国の非道を訴えるために来日したウイグル人亡命者の集団。しかし、中華人民共和国は、国の威信をかけて彼らの抹殺をはかり、人民解放軍の中でも特殊な訓練を受けた暗殺集団を東京に潜入させた。ウイグル人亡命者集団はCIAに働きかけ、CIAが動き出すまでにウイグル人亡命者を皆殺しにするのが彼らの任務。

CIAが動き出す翌朝まで、影はウイグル人を守りきれるのか。
幸か不幸か、最近、面白い小説に当たっている。月村了衛さんの本は、ちょっと前に『土漠の花』を読んだけど、アレも面白かったですね。やっぱり、実際に社会でおきていることを土台にしてお話が作られていて、『土漠の花』にしても、『影の中の影』にしても、実は日本社会の抱える大きな問題を上手にデフォルメしてくれていますね。

私は誰が書いた本かってことを、あまり意識せずに本を読んでます。内容が良ければいいんです。まかり間違えると、題名さえ忘れます。月村了衛さんの本は、『土漠の花』と『影の中の影』しか読んでないと思うんだけど、そう思っているともっと読んでいたってことはよくあります。

二つしか読んでないでこんな言い方もないんだけど、『土漠の花』のようにソマリアに関わる諸勢力を扱うのと、中華人民共和国におけるウイグル人への民族浄化の問題を扱うのではものが違いはしないだろうか。この著者の姿勢は、まるでこの本に登場するジャーナリスト仁科曜子を彷彿とさせるんです。その不屈の、そして成長するジャーナリストの姿に、著者は自分を描き出してはいないだろうか。

それにしても面白かった。年寄りはただでさえ良質な睡眠が取れないことが多いですからね。面白い本は体に悪い。




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はじめまして

いつも「読み逃げ」ばかりですみません。

この作品、おっしゃる通りとてもおもしろかったです!
ご案内ありがとうございました。

自分のブログに感想をアップいたしましたが、
こちらのサイトとイーグルス16さんのお名前を
勝手に記載させていただきました。
よろしかったでしょうか?
ご不都合等ございましたらお知らせください。

つかりこ さま

コメントありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。

ありがとうございました



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こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































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