めんどくせぇことばかり 『英龍伝』 佐々木譲
FC2ブログ

『英龍伝』 佐々木譲

『武揚伝』『くろふね』に続いて、この『英龍伝』で“幕臣三部作”になるわけか。なるほどね。まあ、榎本武揚は教科書にも出てくるね。中島三郎助はまったく出てこない。江川英龍は出てくるには出てくるんだけど、手元にある実況出版『日本史B』の教科書では、開国に続く幕府の施策の中で、“開明的な人物の登用”の具体例として欄外に以下の記述がある。

《外交に関わった川路聖謨・岩瀬忠震、反射炉を築造した伊豆韮山の代官江川太郎左衛門(英龍)、洋式砲術の高島秋帆、海軍の勝海舟らがいる》

って、これだけなんですね。佐々木譲さんの目の付け所って面白いです。

たしかに江戸幕府は制度疲労が甚だしく、そのままの体制で、あの当時日本の置かれた難局を乗り切ることは難しかったでしょうね。だからこそ明治維新が行われた。だけど、それを理想的なものとして持ち上げて、明治政府であったからこそ難局を乗り切れたなんて考えるのは、これまたおかしいですよね。だいたい、その行きつく先が、第二次大戦におけるみじめな敗戦ですからね。

そこまで行かなくても、もともと明治維新は下に置かれた者たちのルサンチマンをエネルギー源とするみたいなところがあって、そのルサンチマンを抱えていた連中が今度は上になって、優越した立場で江戸時代を評価したわけですよね。それだけに、長い間、江戸時代は必要以上にその価値を貶められてきました。

幕臣の中の優れた人材なんて存在しなかったかのよう。薩長に通じていた部分のあった勝海舟くらいは名前を出してもいいかなってくらいなもんですね。

江戸時代が再評価されるようになったのは、まだまだ日が浅いですもんね。


『英龍伝』    佐々木譲

毎日新聞出版  ¥ 1,944

平和的開国に尽力した知られざる異能の行政官。その不屈の生涯
開国か戦争か。いち早く「黒船来航」を予見、未曽有の国難に立ち向かった伊豆韮山代官・江川太郎左衛門英龍。誰よりも早く、誰よりも遠くまで時代を見据え、近代日本の礎となった希有の名代官の一代記。明治維新から150年。新たな幕末小説の誕生。
『武揚伝』『くろふね』に続く、幕臣三部作、堂々完結!


この物語のアンチヒーローは鳥居耀蔵ですね。朱子学の家柄の出で蘭学を敵視し、官僚としての能力は高いが、きわめて猜疑心が強い出世主義者という役どころ。実際そういう人物だったらしい。

天保の改革の水野忠邦にくっついて出世したくせに、水野政権にほころびが生じると遠慮なく裏切って身の保全に走るっていうのも本当のことですね。

だけど、この鳥居耀蔵を、この物語の中の個性豊かな登場人物の一人と考えるだけだと、おそらく間違いですよね。江川太郎左衛門と鳥居耀蔵の確執にこそ、本当に私たちが認識しなければならない大事なことがあるような気がします。

というのも、江川太郎左衛門も、鳥居耀蔵には何度も煮え湯を飲まされるような思いをしておりますが、それはまだまだ時代が江川太郎左衛門よりも鳥居耀蔵に共感を寄せていたことを意味していますよね。徳川幕府は、そのような者まで抱えていたということです。そのような者を抱えたまま、難局を乗り切ることは、やはり難しかったでしょうね。

幕府は幕藩体制の総本山。体制を支える思想である朱子学にとっても、幕府は総本山なわけです。だから、蘭学を毛嫌いする鳥居耀蔵や、それを支持する諸勢力が強い力をもって新しい芽を摘んでいくのは、むしろ当然のことです。

江川太郎左衛門は、そこに突破口をこじ開けたということにおいて、特筆すべき人物なんですね。だけど、黒船来航から明治維新まで、まだ15年もかかるわけです。それ以前に、江川太郎左衛門の踏ん張りがなかったら、日本は朝鮮やシナの二の舞は免れなかったかもしれませんね。

それにしても佐々木譲さんの物語って、こんなにも淡々としたものでしたっけ。






にほんブログ村 政治ブログへ 一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
関連記事

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 本・雑誌

コメントの投稿

非公開コメント

ありがとうございました



「《めんどくせぇことばかり》は、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。」

リンク

よくお越し下さいました

イーグルス16

Author:イーグルス16

息も絶え絶えです、ぜひ応援してください
人気ブログランキングへ にほんブログ村 政治ブログへ


古代史は謎だらけだといわれる。
なぜか――。
理由ははっきりしている。
壮大に仕掛けられた
古代史の「罠」=『日本書紀』に
誰もがとらわれているからである。
これから出る本




















































































人気図書 
















































カウンター
カテゴリ
ブロとも一覧
アジシオ次郎の時事原論
はりこのはやしや 
ハシビロコウ
素足のアイドル達
うさぎ屋の四方山話
わくわく株式投資
プロモデラー林哲平のジャンクロボット創作ブログ『ケルバーダイン』
大好き!グラビアアイドル!
伊織のブログ
Re:BAD TASTE♥
QWERT 5w1h
「伝わる技術」オトデザイナーズ・坂本真一
歌と知恵でハッピーライフ^^
こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本


















































検索フォーム
RSSリンクの表示
最新記事
応援して下さい