『古代史から読み解く「日本」のかたち』 倉本一宏 里中満智子
基本的には、《心ときめく》ような歴史学者の倉本一宏さんの学説を、漫画家の里中満智子さんが引っ張り出して世の古代史ファンに提供しようという本です。
私、里中満智子さんは存じてますし、里中さんの描く男女の顔つきも頭に浮かびます。だけど、正直言って、これという作品を読んだという記憶がないんです。もしかしたら、お医者さんかなんかの待合室においてあるのを読んだ程度なのかもしれません。
里中満智子さんって、東西の歴史ものの漫画を描いていらっしゃるんですよね。私が高校生に時分にそういう作品を読み始めてれば、ある程度のめり込んだに違いありません。だって、古代史の漫画なんて、・・・なかった?手塚治虫の『ブッダ』か、横山光輝の『三国志』、・・・ほかになんかありましたか。
時期的にちょっと遅かったですね。社会人になって以降だと、里中さんの美男美女には、どうも気持ちが反応しませんでした。
里中さんは『天上の虹』って漫画を32年も描いて、2015年に完結させたんだそうです。なんとまあ、“持統天皇物語”が副題だそうで、やはり日本は、女が時代を切り開いていくんだなあってことが、里中さんからもわかりますね。
なにしろこの時代、物語の宝庫。そのレベルは戦国時代や、幕末、明治維新に優るとも劣らないことは間違いありません。にもかかわらず、誰も触れたがらないんですね。もったいない。もったいなさすぎます。
たしかに、正史たる『日本書紀』への挑戦ですからね。勇敢でないと描けるもんじゃありません。そして、まさに里中さんが『天上の虹』を描いたという32年間、『日本書紀』の研究、そして日本古代史の研究は急速に進みました。だから、本当に大変だったと思います。研究が解き明かした事実は、ときに『天上の虹』の物語には沿わない場合もあったかもしれません。・・・、もうやめときます。なにを言おうと、里中さんの描いた持統天皇は、微動だにしないでしょうから。


面白い本で、参考になることもたくさんありました。正直、読んでよかったと思います。でも、お二人の発言の中に、特に“まとめ”と言っていい文章の中に、気になる言葉がでてくるんです。
《遣唐使や遣新羅使による交流があった時代はお互いの国情を知ることができましたが、これがなくなると「日本国だけが清らかで、その中心が天皇である。外国は穢れた国だ」という発想が出てきます。この発想がその後ずっと、日本人の外国人に対する感覚として流れているとすると、とても怖いと思います。(倉本)》
《日本は、アジアを侵略したひどい国》みたいです。倉本一宏さんのお話を読んでみても、明確にそう思ってらっしゃるわけではないと感じられるんですけど、ところどころに、このような言い方が出てきて、それがとても引っかかります。
たしかに、幕末、攘夷思想が爆発しますけど、それは朱子学が入って濃厚になったもので、日本の地政学的環境のもとに生まれた神国思想は、もっと素朴なものだったと思います。
《第四章 戦争と外交を考える》にお二人の考えがまとめらてますが、どうも、日本に対して否定的、・・・「危ない国」って認識があるのは確かなようです。
私は、里中さんのとらえ方にも、倉本さんのおっしゃることにも賛成できません。
公地制導入の困難さについては、本書の中でも一番最後の方に出てきます。天智天皇や中臣鎌足は、《白村江の戦いで負けても構わないと考えていたのではないか》って倉本さんはおっしゃいます。そして、「攻めてくるぞ」という危機感のもとに国内をまとめ上げて、公地制に持って行くいうお考えが述べられています。いくら何でも、日本を存亡の危機に立たせるってのはいかがなもんでしょう。
おそらくそれよりもずっと以前に、この問題に正面から取り組んだのが蘇我入鹿ではなかったでしょうか。
天智、天武、鎌足、不比等、なにより持統といった人物の設定そのものに、私は大きな問題を感じます。でも、そこは、上にも書いた通り、里中さんの描いた持統天皇は、微動だにしないでしょうけど。
難しいですね、古代史について述べるって。それだけ、どんどん新たな研究が進められているってことなんでしょう。そんな中だからこそ、古代史に触れていくってこと、発言していくってことが必要なんだと思います。だって、日本史の教科書読んでくださいよ。本当につまらないんですよ。
こういう本が、日本古代史にいろいろな刺激を与えてくれれば、少しは変わってくれるかもしれないと思うんです。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
私、里中満智子さんは存じてますし、里中さんの描く男女の顔つきも頭に浮かびます。だけど、正直言って、これという作品を読んだという記憶がないんです。もしかしたら、お医者さんかなんかの待合室においてあるのを読んだ程度なのかもしれません。
里中満智子さんって、東西の歴史ものの漫画を描いていらっしゃるんですよね。私が高校生に時分にそういう作品を読み始めてれば、ある程度のめり込んだに違いありません。だって、古代史の漫画なんて、・・・なかった?手塚治虫の『ブッダ』か、横山光輝の『三国志』、・・・ほかになんかありましたか。
時期的にちょっと遅かったですね。社会人になって以降だと、里中さんの美男美女には、どうも気持ちが反応しませんでした。
里中さんは『天上の虹』って漫画を32年も描いて、2015年に完結させたんだそうです。なんとまあ、“持統天皇物語”が副題だそうで、やはり日本は、女が時代を切り開いていくんだなあってことが、里中さんからもわかりますね。
なにしろこの時代、物語の宝庫。そのレベルは戦国時代や、幕末、明治維新に優るとも劣らないことは間違いありません。にもかかわらず、誰も触れたがらないんですね。もったいない。もったいなさすぎます。
たしかに、正史たる『日本書紀』への挑戦ですからね。勇敢でないと描けるもんじゃありません。そして、まさに里中さんが『天上の虹』を描いたという32年間、『日本書紀』の研究、そして日本古代史の研究は急速に進みました。だから、本当に大変だったと思います。研究が解き明かした事実は、ときに『天上の虹』の物語には沿わない場合もあったかもしれません。・・・、もうやめときます。なにを言おうと、里中さんの描いた持統天皇は、微動だにしないでしょうから。
『古代史から読み解く「日本」のかたち』 倉本一宏 里中満智子 祥伝社 ¥ 886 古代史歴史学者と、古代を舞台にした作品を多く残してきたマンガ家が語り尽くす |
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面白い本で、参考になることもたくさんありました。正直、読んでよかったと思います。でも、お二人の発言の中に、特に“まとめ”と言っていい文章の中に、気になる言葉がでてくるんです。
《遣唐使や遣新羅使による交流があった時代はお互いの国情を知ることができましたが、これがなくなると「日本国だけが清らかで、その中心が天皇である。外国は穢れた国だ」という発想が出てきます。この発想がその後ずっと、日本人の外国人に対する感覚として流れているとすると、とても怖いと思います。(倉本)》
《日本は、アジアを侵略したひどい国》みたいです。倉本一宏さんのお話を読んでみても、明確にそう思ってらっしゃるわけではないと感じられるんですけど、ところどころに、このような言い方が出てきて、それがとても引っかかります。
たしかに、幕末、攘夷思想が爆発しますけど、それは朱子学が入って濃厚になったもので、日本の地政学的環境のもとに生まれた神国思想は、もっと素朴なものだったと思います。
《第四章 戦争と外交を考える》にお二人の考えがまとめらてますが、どうも、日本に対して否定的、・・・「危ない国」って認識があるのは確かなようです。
私は、里中さんのとらえ方にも、倉本さんのおっしゃることにも賛成できません。
公地制導入の困難さについては、本書の中でも一番最後の方に出てきます。天智天皇や中臣鎌足は、《白村江の戦いで負けても構わないと考えていたのではないか》って倉本さんはおっしゃいます。そして、「攻めてくるぞ」という危機感のもとに国内をまとめ上げて、公地制に持って行くいうお考えが述べられています。いくら何でも、日本を存亡の危機に立たせるってのはいかがなもんでしょう。
おそらくそれよりもずっと以前に、この問題に正面から取り組んだのが蘇我入鹿ではなかったでしょうか。
天智、天武、鎌足、不比等、なにより持統といった人物の設定そのものに、私は大きな問題を感じます。でも、そこは、上にも書いた通り、里中さんの描いた持統天皇は、微動だにしないでしょうけど。
難しいですね、古代史について述べるって。それだけ、どんどん新たな研究が進められているってことなんでしょう。そんな中だからこそ、古代史に触れていくってこと、発言していくってことが必要なんだと思います。だって、日本史の教科書読んでくださいよ。本当につまらないんですよ。
こういう本が、日本古代史にいろいろな刺激を与えてくれれば、少しは変わってくれるかもしれないと思うんです。


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