めんどくせぇことばかり 『淳子のてっぺん』 唯川恵
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『淳子のてっぺん』 唯川恵

田部井淳子さんが亡くなってから、もうすぐ2年になるんですね。

リハビリも兼ねて、田部井さんが日和田山周辺を歩いていることがあるという話を誰かから聞いたことがあります。日和田山は埼玉県の日高市にある低山なんですが、晴れていれば奥多摩の山越しに富士山を望むことができます。鎖場を越えてきたかたわらの子が、人より先に関東平野にスカイツリーを見つけて鼻の穴を膨らませてたりします。

片や、眼下に見下ろす高麗川が、大きく蛇行して巾着田と呼ばれる地形を作っています。そこに下りれば、春には桜と菜の花、秋には彼岸花が咲き誇ります。田部井さんもきっと、そんな様子を楽しまれたのでしょう。

田部井さんは女性で初めてエベレスト登頂を果たし、何かにつけ注目を浴びる状況だったでしょうから、人から向けられる視線は愉快なものだけじゃなかったでしょう。

田部井さんがエベレストに登ったのが1975年。その年、私は高校に入って山岳部に入部しました。だけど、田部井さんのエベレスト登頂に心が湧きたったって記憶がないんです。ちょうど同じころの、植村直己さんの北極圏犬ぞり探検を、ものすごくドキドキしながらニュースを待ちわびていたにもかかわらず、・・・です。

やっぱり、「女のやったこと」という意識があったんでしょうか。・・・たしかに、そうかもしれません。

それを考えると、ご主人の田部井政信さんっていう人は、すごい人物ですね。いや、・・・ものすごいです。田部井さんの活躍は、現代の女性の生き方にとても大きな影響を与えたと思います。それが可能になったのは、田部井政信さんという稀有な人格者の存在があったればこそなことですから、田部井政信さんこそ現代女性の生き方に大きな影響をもたらした人物ということにもなりますね。

何年か前、福島で被災した高校生から希望者を募り、彼らを連れて富士山に登る田部井さんの姿をテレビで見ました。しかし、その頃の田部井さんはがんとの闘病のさなかで、とてもつらそうでした。日和田山でのリハビリは、この富士登山のためのものだったみたいですね。とてもつらそうに富士山に登る田部井さんの姿を見て、私はその時、ようやく分かりました。

この人、ただ、山が好きなだけなんだ。



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女性として初めてエベレスト登頂に成功した田部井淳子さんを書き上げた、感動の長篇小説。
プロローグ
第一章  谷川岳・一ノ倉沢
第二章  アンナプルナ
第三章  エベレスト
エピローグ


がんとの闘病を続けつつ、高校生と一緒に富士山に登る田部井さんの姿をテレビの番組で見たころ、実は私、股関節の痛みがひどくなりつつあった頃でした。それまでにも医者は何度か変えましたけど、その時の医者も、まだ手術は早いという意見でした。けっこう、悶々としてたんですね。歩けなくなっちゃうと思って。

少しでも歩かないと歩けなくなるんじゃないかという恐怖があって、その頃はつえを使って歩くようになってました。なんとか歩きに出るんだけど、歩いた後は、やっぱり痛いんで、家に帰ると横になってましたね。そんなころに、その番組を見たんです。

田部井さんは本当に苦しそうだった。なのに、よりによって富士山に登ってました。この人、本当に山が好きなんだなって思いました。足が痛くて山をやめた私とは違いましたね。だけど、「今度はあきらめたくない」って、私も思ったんです。

その直後に人からの紹介もあって、またまた医者を変えました。今度の医者からは、「よくこれで我慢できましたね。すぐ手術しましょう」と言われました。

すぐに手術というわけにもいかなかったんですが、私は田部井さんが亡くなった一週間後に手術を受けました。

『淳子のてっぺん』っていう本が出ているのは知っていたんですが、出版時に機会を逃したままになってました。先日、唯川恵さんの『バッグをザックに持ち替えて』という本を読んだんですけど、その中に『淳子のてっぺん』の話が出てきて、唯川恵さんがその著者であることを知った次第です。それを機会に、この本を読みました。

当時ご存命の田部井さんに「書かせてほしい」と持ち掛けて許可をもらったそうですが、正直なところ、信じられません。人生の終番とはいえ、また関係する方もご存命のはず。田部井さん自身、自分の人生のすべてを納得してるわけでもないでしょう。・・・この辺は一般的に考えた場合の話ですけど。

いまだに判断のつかないあんな事やこんな事は一つや二つじゃないはずじゃないですか。・・・あくまで一般的に考えた場合の話ですけど。

脚色して書くということは、結果的にそこに“判断”を加えることになるでしょう。・・・とてもじゃないが、私にはできません。そんな、うじうじした男にはできないことにどんどん切り込んでいくのが現代の女性なんでしょうね。田部井さんもきっと、そんな女性だったからこそ、脚色を加えた本を書くことを受け入れたんでしょう。

でも、この本のおかげで、エベレストに女性として初登頂を果たした田部井淳子というだけではなく、山が好きで好きで大好きでたまらなかった田部井淳子という女性を知ることができたような気がします。

唯川恵さんは、また山を舞台にしたお話を描くんでしょうか。だったらぜひ読ませてもらいたいな。そんな期待のできる作家さんが一人増えたことは、とてもうれしいですね。




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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

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ー人ー

エベレストに女性として初登頂を果たした田部井淳子氏。
亡くなられていたんですね。
あの頃はまだTVを持っていました。合掌。

waravino さま

富士登山の番組の時は苦しそうでした。
若いときと違って、山に行っても無理がききませんけど、私も死ぬまで登りたいな。

ありがとうございました



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こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































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