めんどくせぇことばかり 『鴨川食堂 はんなり』 柏井壽
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『鴨川食堂 はんなり』 柏井壽

「こないして美味しいに食べてくれはる人がやはるさかいに、一生懸命作りまっけど、相手がおらなんだら気ぃが入らしまへん。鞠子が亡うなって半年ほどは包丁を握る気になりまへんでした。おかげでみな錆びついてしもうて往生しました」

第四話《おでん》で、流が佳代子に語るセリフです。

この、京言葉でのやり取りも、この本の大きな魅力ですよね。京言葉と言うと女の人が喋っている様子が取り沙汰されるけど、その場合、言葉のもつ柔らかさが際立ちます。男の人の京言葉っていうのは、私はなんだか、迫力を感じさせられるような気がするんです。女の人の京言葉も、私なんかが柔らかさに惹かれるのも、それは惑わされていることのあかしであって、それこそが京言葉の真骨頂というところでしょう。

千年の都とは、それだけの長い間、政治的権謀術数の中にあったということ。表向きは受け入れやすそうな軟らかさを感じさせておきながら、すんなりとは本心を明かさない工夫というものが、言葉の中に染み込んでいるんですね。

だから女の人が使うと、決して本心を明かさないしたたかさがありながら、感覚的にしっとりとした肌触りの良さを感じさせてしまう。男の人が使うと、肌触りの良さは残るものの、したたかさが女に人の場合よりも前面に出る分、凄みのようなものを感じさせることにつながるのでしょうか。

だって、流は、もとは刑事さんだったんでしょう。

京都言葉には、そんな権謀術数に培われた過去があるだけに、それとは全く無関係な、親子の間の他愛ないやり取りが、何ともおかしみを感じさせてくれるように思えるんです。



小学館文庫  ¥ 659

優しさも特盛! 辛くて泣き出しそうな日は、ぜひご来店ください。
第一話 親子丼………………元彼の忘れられない行動
第二話 焼売…………………………息子への嘘と後悔
第三話 きつねうどん………………死に神みたいな人生
第四話 おでん……………………かけ違えた心のボタン
第五話 芋煮…………………山中で出会った救いの神
第六話 ハヤシライス…………避暑地の閑かなロマンス


どれ一つをとっても、取り返しのつかない人生で、人は後悔に後悔を重ね、恥に恥を上塗りをして生きていくしかないじゃありませんか。

寅さんに言わせれば、《なお、私こと思い起こせば恥ずかしきことの数々、今はただ後悔と反省の日々を・・・》いう事になるわけです。美空ひばりさんは、《人は哀しい 哀しいものですね。それでも過去たちはやさしくまつ毛に憩う》と歌います。

まあ、これも前世の因縁とあきらめて、なおも後悔に後悔を重ね、恥に恥を上塗りして生きていく。それが私らしい生き方なんでしょう。

そんな男や女たちが、また鴨川食堂を訪れます。いえ、この本に取り上げられるのは、食堂ではなく、鴨川探偵事務所を訪れてくる人たちですね。

依頼人は、いずれも心に何らかのわだかまりを抱えた人ばかり。できることなら、もう一度やり直したい過去。手を伸ばせば届きそうなのに、どうしても戻らないあの人。自分の責任で遠ざけてしまった時間。封印してしまった、されてしまった記憶。

もしも、そのわだかまりを解きほぐすことができるとすれば、もう一度、歩き始めることができるかもしれない。鍵になるのが、あの時の食べ物の思い出。

第四話《おでん》は、けっこう強烈ですね。自分の人生のかなりの時間を否定して、生きていかなきゃなりませんからね。それでも、人生を否定するって言ったって、そのすべてを否定するわけじゃあないわけです。否定しなきゃならない部分もあるけど、これからも大切に守り続けなければならない部分もあるわけです。

否定するなら全否定、否定しないなら全肯定ってものでもないじゃないですか。幾多の理不尽に翻弄される人生で、ちょっと間違えてしまったけど、取り返しのつかない間違いだけど、一度くらいは目をつぶってもらえることがあったって、私はいいと思うんです。

いつか、《過去たちがやさしくまつ毛に憩う》時までは、ただ、口をつぐんで・・・。

そう、思わされるお話でした。







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ジャンル : 本・雑誌

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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
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