美空ひばり『芸能の不思議な力』 なかにし礼
つくづく、美空ひばりっていう人は、すごい歌手だったんですねぇ。
なかにし礼さんが詩を描いた曲のレコーディングん時の話が紹介されてました。
まるで、協奏曲と一緒ですね。まえに、ヴァイオリンの神尾真由子さんがチャイコフスキー国際コンクールで優勝したとき、優勝を決めた最後のシベリウスのヴァイオリン協奏曲は圧巻だった。
眉間にシワを寄せて、せつなそうに演奏する神尾さんにオーケストラの人たちが演奏途中から、その表情を変えていったんです。なかには、互いに顔を見合わせる人たちまでいました。その様子に、神尾さんの演奏がオーケストラを圧倒しているのが、素人の私でも分かりました。
美空ひばりという人は、声を、楽器として完璧に扱えるんですね。なかにし礼さんが言うには、そこに、“ニュアンスの多様さ、詩を理解する並外れた力、細やかな心理描写”が加わっては、使う楽器が、意味のこもった言葉を乗せた声なんだから、ある意味では最強ですね。
だから、美空ひばりが歌うときには、彼女は、いつもオーケストラを従えて、自分の必要とする音を出させながら歌っていたということなんですね。
本当にすごい歌手だったんですね。いくつか、好きな歌もあります。だけど、残念ながら、同じように昭和に思い入れがあっても、だいぶ時間のずれがあるので、その世代の人たちのようには入れ込めないです。


それにしても、ここに書かれている、なかにし礼さんと美空ひばりさんの関係一つを見ても、芸能の世界に女王として君臨するというのは、とてつもないことだということが、よく分かりました。
なかにし礼さんが言う通り、美空ひばりの才能は特別なものなんですね。
《あなたは絶壁の突端に立って歌っている。人々はあなたを見上げて共感し喝采を送る。しかしそれ以上のものを求めるのは贅沢であり傲慢なことです。絶壁の突端であなたは歌い続けなければならない。そこは寒い風が吹き、嵐ともなれば死の淵に立たされる。太陽がじかに当たって身を焦がすこともあるであろう。が、それがあなたの宿命なのです》
そう、なかにし礼さんは美空ひばりさんに言ったそうです。
《マリア・カラスだって、エディット・ピアフだってあなたと同じように過酷な運命を強いられていた。しかし、最後まで歌い続けた。あなたも歌い続けること、それ以外を望んではいけない》
そう言ったんだそうです。これって、「死ぬまで歌え」ってことでしょう。そして、美空ひばりは、そのとおり、死ぬまで歌って、死にました。なかにし礼さんにとっても、重い十字架ですね。

一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
なかにし礼さんが詩を描いた曲のレコーディングん時の話が紹介されてました。
ひばりのレコーディングとなると、レコード会社は有名オーケストラのトッププレイヤーを集めているのだが、オーケストラ連中の態度といったら尊大この上なしだ。彼らはいかにもアルバイトできているのだと言わんばかりに、椅子の背にもたれてニタニタ笑っている。腹の底では歌謡曲なんぞと蔑視していることが顔にありありだ。ひばりはそんなことに構わず、指揮者に軽く挨拶し、ほんの少し言葉をかわしたのち、衝立で仕切られた自分のブースに入る。その頃すでに当たり前になっていたカラオケでのレコーディングをひばりはやらない。レコーディングは絶対にオーケストラとの同時録音だ。自分の歌でオーケストラを自在に導き操ってみせるのが歌手の本領であると、ひばりは頑なに信奉している。 指揮者が棒を振り下ろす。曲目は『むらさきの涙』。前奏が鳴る。 ひばりが歌う。それまでアーともウーとも咳払い一つしていなかったひばりの声は完全にできあがっていた。私は心底驚いた。この声量、音程とリズムの正確さ、ニュアンスの多様さ、詩を理解する並外れた力、細やかな心理描写、こんな歌手がこの世に存在することの不思議さに心打たれていた。 歌はすでにして完璧である。ここで私は奇妙な光景を見ることになる。それは、最初のうちは椅子の背にもたれて演奏していたプレイヤーたちの目の色が変わり始め、それが次第に尊敬の眼差しになり、ひばりの緊張感と霊感と完成度に追いつこうとして慌てふためき、ついには前のめりになって懸命に演奏する様である。 本書p20 |
眉間にシワを寄せて、せつなそうに演奏する神尾さんにオーケストラの人たちが演奏途中から、その表情を変えていったんです。なかには、互いに顔を見合わせる人たちまでいました。その様子に、神尾さんの演奏がオーケストラを圧倒しているのが、素人の私でも分かりました。
美空ひばりという人は、声を、楽器として完璧に扱えるんですね。なかにし礼さんが言うには、そこに、“ニュアンスの多様さ、詩を理解する並外れた力、細やかな心理描写”が加わっては、使う楽器が、意味のこもった言葉を乗せた声なんだから、ある意味では最強ですね。
だから、美空ひばりが歌うときには、彼女は、いつもオーケストラを従えて、自分の必要とする音を出させながら歌っていたということなんですね。
本当にすごい歌手だったんですね。いくつか、好きな歌もあります。だけど、残念ながら、同じように昭和に思い入れがあっても、だいぶ時間のずれがあるので、その世代の人たちのようには入れ込めないです。
『芸能の不思議な力』 なかにし礼 毎日新聞出版 ¥ 1,836 芸能を、人間の最も素晴らしい表現ととらえるなかにし礼が、その神髄を語り尽くす |
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それにしても、ここに書かれている、なかにし礼さんと美空ひばりさんの関係一つを見ても、芸能の世界に女王として君臨するというのは、とてつもないことだということが、よく分かりました。
なかにし礼さんが言う通り、美空ひばりの才能は特別なものなんですね。
《あなたは絶壁の突端に立って歌っている。人々はあなたを見上げて共感し喝采を送る。しかしそれ以上のものを求めるのは贅沢であり傲慢なことです。絶壁の突端であなたは歌い続けなければならない。そこは寒い風が吹き、嵐ともなれば死の淵に立たされる。太陽がじかに当たって身を焦がすこともあるであろう。が、それがあなたの宿命なのです》
そう、なかにし礼さんは美空ひばりさんに言ったそうです。
《マリア・カラスだって、エディット・ピアフだってあなたと同じように過酷な運命を強いられていた。しかし、最後まで歌い続けた。あなたも歌い続けること、それ以外を望んではいけない》
そう言ったんだそうです。これって、「死ぬまで歌え」ってことでしょう。そして、美空ひばりは、そのとおり、死ぬまで歌って、死にました。なかにし礼さんにとっても、重い十字架ですね。


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