めんどくせぇことばかり 『日本の心を旅する』 栗田勇
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『日本の心を旅する』 栗田勇

この本は、2003年に出た本ですが、1929年生まれの著者の栗田勇さんは、今でもお元気でお過ごしのようです。89歳におなりだそうです。私の父は1928年、昭和3年の生まれなんで、生きていりゃ今年の12月3日で90歳になってたんですね。13年前に亡くなりましたけど、同じ時代を生きた方なんですね。

経歴を見るとすごいんです。フランス文学者で、美術評論家で、作家とありますが、著作の量がすごい。日本の古典とも正面から向き合ってきた感じですね。そこに現れる日本の姿、日本に生きる人々の心のありようを、丹念に拾い集めて、栗田さんなりの“日本の心”にたどり着いたもののようです。

この本は、そんな栗田さんが、いろいろなところに書かれてきた、比較的短い文章を集めて、一冊の随筆集としたものだそうです。

良寛、西行、一遍、最澄、芭蕉、道元、世阿弥・・・、その引き出しの多いこと。語る材料も、富士であり、桜であり、もみじであり、花であり、四季であり、と、まさに王道です。

たとえば桜なら、《わが心やすむまもなくつかれはて 春はさくらの奴なりけり》と本居宣長の桜狂いを紹介する処から始まります。古くからの民間信仰によれば、大山津見神の娘木花佐久夜毘売が桜の木に天上から依り降って、桜は新しい命をことほぎ五穀豊穣をもたらすんだそうです。だから、桜の木の下は聖域となり、祝の宴を催すんですね。

伊勢物語には、惟喬親王が交野の渚の院で、伴を引き連れ、恒例の花見の宴をひらいた様子が描かれているそうです。そこで在原業平が読んだのが、「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」と言う歌だそうです。

そうだ、たしか、惟喬親王と言えば、紀氏の娘の産んだ子で、文徳天皇は惟喬親王を皇太子に望んだが、藤原良房が強引に自分の娘の産んだ惟仁親王を立太子してしまった、あの人ですね。そうだそうだ。古今和歌集に載る六歌仙ってのも、藤原氏の横暴に涙をのんだ者たちの鎮魂って意味が背景にあるって話でした。

だからこそ、伊勢物語の中で、「散ればこそいとど桜はめでたけれうき世になにか久しかるべき」と続く意味が出てくるってもんです。ああ、ようやく今になって、伊勢物語の背景が理解できた。

話が手前勝手な方へずれてしまいましたが、氏は日本の古典に通じておられますから、本当に引き出しが無限であるかのようです。


春秋社  ¥ 時価

私たち日本人の“こころ”と“いのち”。その本当の煌きとは。新たな“生”の息吹に向けて
Ⅰ 色はにおえどーこころの旅路
Ⅱ 美と無常を生きる
Ⅲ 書ー宇宙の声を聴く
Ⅳ 聖と旅する


《Ⅴ 聖と旅する》の中に、“日本人の地獄”として、源信の往生要集を取り上げた一項目があります。これがものすごく興味深いものでした。

たしかに、日本人の思い描く、鬼が金棒を持っていて、人を追いかけまわしたり、食い殺したり、血の池や針山といった地獄の様子ってのは、源信が往生要集に書いたものが原点なんでしょう。

かつて私も思いました。「ったく源信ってのは、いかさま臭い」って。「霊感商法かよ」って。

だけど違うみたいなんです。それは、源信が博学によって自由に書き下したものではなくて、数多くの経典からの抜き書きを再構成したもののなんだそうです。「経論の要文を集む」から“要集”なんだそうです。そんなことも知らずに、やれ「霊感商法」だなんだって、「ボーッと生きてんじゃねーよ」って、チコちゃんに怒られそうです。

《源信個人の想像から生み出されたというよりも、さかのぼれば、インドの古代から、幾千年にもわたって、蓄積されてきた地獄のイメージが経典を通じてそそぎこみ、集大成されることによって、これほどの力を持った》ということのようなんです。

たしかに、著者の言われる通り、ダンテの『神曲』に書かれた地獄にも、よく似ていますよね。つまり、キリスト教の中にも、さらには、ユダヤ教、いやいや、ギリシャ・ローマから引き継がれた神話的な地獄観というところまでさかのぼって共通性を見出し、「もとをただせば・・・」と、インドとギリシャをインド・ヨーロッパ語族という共通性でつないでみたりしています。

場合によっては、ヘレニズムという闇鍋というか、文化のごった煮時代を経てシャッフルされたものが、インドで経論に取り込まれたのかも知れません。

そうか、源信は、日本のダンテといっていい存在なんですね。ただし、著者は、ダンテが『神曲』を書いたのは1300年代で、源信が『往生要集』を書いたのは985年。源信の方が300年も早いことを指摘することを忘れていません。

おみごと。




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こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本
































































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