『太陽のかけら』 大石明弘
おとといの四月八日、朝ごはんは連れ合いと一緒に、七時半ごろいただきました。おかずはきゅうりとカニカマの酢の物、めざし、なっとう、漬け物。みそ汁の具は、新玉ねぎとオクラにしました。ごはんのあと、連れ合いが洗濯物を干している間に食器を食洗機にかけ、コーヒーを入れておきました。
ゆっくりコーヒーを飲んだあと、今年、地元の自治会の会長を任されたことから、自治会の通帳の名義変更など、いくつかのやっておくべき仕事をこなしました。
四月八日は、学校では、午前中は始業式、午後は入学式と、大変な一日です。翌九日からは早速授業が始まります。一年担任なら、新入生歓迎会だのガイダンスだのHRだの、ほとんど一日出ずっぱりです。しかも今年は、八日が月曜日ですから、息が抜ける週末まで一杯一杯の一週間を送ることになります。
四月八日は、まさに学校という場所の仕事始めに当たる日です。私は、三月いっぱいで、その仕事をやめました。今年からは、新しいリズムの日常を送ることになります。
二〇一六年の晩秋に受けた股関節の手術がうまくいって、三〇年苦しめられた足の痛みがなくなりました。それ以来、また山に登ることができるようになりました。もしも、手術がここまでうまくいってなかったら、定年前に仕事をやめることはなかったと思います。三〇代なかばで山登りを諦めましたからね。人生が変わっちゃいました。まあ、もともとこの本に出てくるクライマーたちのような先鋭的な登山をしていたわけじゃありませんけどね。
歳とともに、時間をかけて、だんだん痛みが強くなっていったので、そのたびごとに、これも、これもと諦めていきました。手術したからって、三〇代なかばの私に戻るわけではないんですが、それでも諦めていたものを、ある程度は取り戻すことができそうです。気持ちのほうが、「学校に行ってる場合じゃない」ってことになっちゃったんです。
まあ、今は、思った以上に、倍以上に自治会長の仕事っていうのは時間を使う、とにかく手間ひまかけないといけないことに、唖然としている状況ではあるんですが・・・。
そんな心境の中で、この『太陽のかけら』という本を読みました。
この本は、二〇一五年一二月に、北海道の黒岳という山で滑落死した谷口けいという女性の生き様を、一冊の本にしたものです。以下は、アマゾンの商品説明にあった谷口けいさんの略歴です。


アメリカでの一年の高校留学を終えて帰った一八歳の夏、谷口けいさんは親を捨てて家を出たそうです。みんなと同じ、すでに敷かれたレールのままには生きられないということであったようです。“普通”という枠をはめられては、自分は生きられないということであったようです。親は自分に“普通”であることを望むから、そこでは生きられないということであったようです。
谷口けいさんは、自由を束縛する学校という場が嫌だった。後にしなくてはだめだと大人から決められることが嫌だった。大人亜子どもを信用していないから嫌だった。
だけど、そういう過程があったからこそ、谷口けいさんは人に光を当てる、熱を与える人間になったんでしょう。親からすれば、家族からすれば、学校からすれば、大人からすれば、たまらない存在でありますが、おそらくそれは、必要な過程だったのでしょう。
谷口けいさんはただ山屋というだけでなく、あらゆる瞬間に心をときめかせていたい人だったようです。山だけでなく、見知らぬ風景、肌や髪や目の色の違う人たちの生活も、谷口けいさんをワクワクさせる対象であったようです。きっと、そんな人だったからこそ、人は谷口けいさんに強い力を感じたんでしょう。
この本の前編を読み終えて、第一章冒頭に出てくる、谷口けいさんのお父さんの言葉が、谷口けいさんの人生を現すに最もふさわしいように思えました。
そう言えば、歴史の中にはときどきそう思える人物が登場しますね。それらと同じ、人を光で照らし、人を熱で温める、太陽の側の人間だったのかもしれません。最後の解説は野口健さんから谷口けいさんへの追悼になっています。秀逸です。
一喜一憂。ぜひポンとひと押しお願いします。
ゆっくりコーヒーを飲んだあと、今年、地元の自治会の会長を任されたことから、自治会の通帳の名義変更など、いくつかのやっておくべき仕事をこなしました。
四月八日は、学校では、午前中は始業式、午後は入学式と、大変な一日です。翌九日からは早速授業が始まります。一年担任なら、新入生歓迎会だのガイダンスだのHRだの、ほとんど一日出ずっぱりです。しかも今年は、八日が月曜日ですから、息が抜ける週末まで一杯一杯の一週間を送ることになります。
四月八日は、まさに学校という場所の仕事始めに当たる日です。私は、三月いっぱいで、その仕事をやめました。今年からは、新しいリズムの日常を送ることになります。
二〇一六年の晩秋に受けた股関節の手術がうまくいって、三〇年苦しめられた足の痛みがなくなりました。それ以来、また山に登ることができるようになりました。もしも、手術がここまでうまくいってなかったら、定年前に仕事をやめることはなかったと思います。三〇代なかばで山登りを諦めましたからね。人生が変わっちゃいました。まあ、もともとこの本に出てくるクライマーたちのような先鋭的な登山をしていたわけじゃありませんけどね。
歳とともに、時間をかけて、だんだん痛みが強くなっていったので、そのたびごとに、これも、これもと諦めていきました。手術したからって、三〇代なかばの私に戻るわけではないんですが、それでも諦めていたものを、ある程度は取り戻すことができそうです。気持ちのほうが、「学校に行ってる場合じゃない」ってことになっちゃったんです。
まあ、今は、思った以上に、倍以上に自治会長の仕事っていうのは時間を使う、とにかく手間ひまかけないといけないことに、唖然としている状況ではあるんですが・・・。
そんな心境の中で、この『太陽のかけら』という本を読みました。
この本は、二〇一五年一二月に、北海道の黒岳という山で滑落死した谷口けいという女性の生き様を、一冊の本にしたものです。以下は、アマゾンの商品説明にあった谷口けいさんの略歴です。
【谷口けい 略歴】 1972年 和歌山県生まれ 1998年 明治大学卒業 2001年 伊豆アドベンチャーレース総合1位 2004年 平出和也とゴールデンピーク登頂 2005年 平出とシブリンに北壁新ルートから登頂 2006年 野口健登山隊でマナスル登頂 2007年 野口隊でエベレストに登頂 2008年 平出とインド・カメット南東壁を初登攀。この記録でピオレドール賞を受賞 2011年6月 花谷泰広とカヒルトナピークス(アラスカ)縦走 2014年6月 和田淳二とアラスカ、カヒルトナ氷河で4本のルートを初登。この記録でピオレドール・アジアを受賞 2015年夏 和田とネパール東部のパンドラ登攀 2015年12月 北海道大雪山系・黒岳北壁を登攀後に滑落死 |
『太陽のかけら』 大石明弘 山と渓谷社 ¥ 1,512 ピオレドール・クライマー 谷口けいの青春の輝き |
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アメリカでの一年の高校留学を終えて帰った一八歳の夏、谷口けいさんは親を捨てて家を出たそうです。みんなと同じ、すでに敷かれたレールのままには生きられないということであったようです。“普通”という枠をはめられては、自分は生きられないということであったようです。親は自分に“普通”であることを望むから、そこでは生きられないということであったようです。
谷口けいさんは、自由を束縛する学校という場が嫌だった。後にしなくてはだめだと大人から決められることが嫌だった。大人亜子どもを信用していないから嫌だった。
あの頃は、お父さんやお兄さんに敷かれたレールの上を行くのが嫌だった。それで親に反抗する思いもあり、バーンと飛び出してアメリカに行ってしまった。でも、自分が子どもを持ってもおかしくない年になると、あの時自分は親に対してなんということをしたんだろう・・・と、 p248 |
だけど、そういう過程があったからこそ、谷口けいさんは人に光を当てる、熱を与える人間になったんでしょう。親からすれば、家族からすれば、学校からすれば、大人からすれば、たまらない存在でありますが、おそらくそれは、必要な過程だったのでしょう。
谷口けいさんはただ山屋というだけでなく、あらゆる瞬間に心をときめかせていたい人だったようです。山だけでなく、見知らぬ風景、肌や髪や目の色の違う人たちの生活も、谷口けいさんをワクワクさせる対象であったようです。きっと、そんな人だったからこそ、人は谷口けいさんに強い力を感じたんでしょう。
この本の前編を読み終えて、第一章冒頭に出てくる、谷口けいさんのお父さんの言葉が、谷口けいさんの人生を現すに最もふさわしいように思えました。
ときどき僕は思うんだけれど、彼女は夜に送り出されたとき、使命を与えられてきたような気がするんですね。登山界での最高レベルまで行って、女子学生をヒマラヤに連れて行って、十分指導できなかったかもしれないけれど、いちおう使命をそれなりに果たした。で、もう戻ってきなさいと言われて、天に帰っていったんじゃないかって思ったりしてね。悲しみもあるけれど、最近は畏敬の念を抱くようにもなってきた。 p26 |
そう言えば、歴史の中にはときどきそう思える人物が登場しますね。それらと同じ、人を光で照らし、人を熱で温める、太陽の側の人間だったのかもしれません。最後の解説は野口健さんから谷口けいさんへの追悼になっています。秀逸です。

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