めんどくせぇことばかり 『あなたへ』 森沢明夫
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『あなたへ』 森沢明夫

夫婦の物語ですよね。

何年か前から、夫婦だけの暮らしになって、しかもこの春で退職して毎日仕事に行く生活ではなくなった。それこそ場合によっては、一日中一緒にいるって日々が延々と続くってことにもなりかねない。そう、ここで、この後の人生におけるお互いの距離感を測っていかないといけない。

今は自治会長の仕事があって、この仕事は夫婦で一組みたいな前提になっているから、距離感のすり合わせは、四月当初のすったもんだが一段落してからになるだろう。

映画でも、心が優しく満たされていくような感覚を味わった。小説ではどうか、と思って呼んでみた。物語が終わって、一枚ページをめくると、そこに次のように書かれていた。

《本書は、映画「あなたへ」(脚本・青島武)を原作に創作された小説です》

「もしそれを先に知っていたら、本を読まなかったかもしれない」って、原作を尊重する方も多いと思う。たしかに、同名で物語を綴るなら、原作を壊す訳にはいかない。じゃあ、同じことを書くのかと言えば、そこはそういうわけでもない。映画には映画の、小説には小説の制約と良さが、当然あるわけだから。

小説が売れて、映画化するってのはよくあるパターン。だけど、この逆のパターンもかなりいいよ。難を言えば、映画の役者に引っ張られるところは確かにある。倉島英二は高倉健だった。倉島洋子は田中裕子だった。杉野輝夫はビートたけしだった。南原慎一は佐藤浩市だった。田宮裕司は草なぎ剛だった。

読んでいるこっち側だけではなく、書いているあっち側もそういう点はあったろうと思う。でもそれも悪くない。なにしろ私の頭の中の役者さんたちは、なにしろ理想的な演技をしてくれているんだから。

『あなたへ』    森沢明夫

幻冬舎文庫  ¥ 時価

ある日、亡き妻から一通の手紙が届く。夫婦の愛と絆を綴った感涙の長編小説。
第一章 それぞれの夏の夜
第二章 受け取れない手紙
第三章 羊雲のため息
第四章 嘘つきの果実
第五章 便箋に咲く花
第六章 優しい海
第七章 かぜかぜ吹くな
第八章 あなたへ
第九章 空気のような言葉


映画でここまで語らせたらくどくなるってところも、小説ならくどくない。そのへんは心に秘めて、頭の中の役者さんは背中で十分語ってくれるわけだ。

《他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる》

この物語の核となる言葉。私はこの話を、再生の物語として読んだ。それは、“もう一度生き直す”ってことが、私にとっての当面のテーマ、おそらくこれから先の人生を通じてのテーマだと意識しているからかな。


人生を踏み誤った杉野にとっても、妻の裏切りと向き合えない田宮にとっても、偽名を使って生きざるを得ない南原にとっても、倉島との出会いは“もう一度生き直す”ための、大きなきっかけとなった。もちろん、それを活かせるか、活かせないかは、それぞれの心の持ち方次第なわけだけど。

それぞれが、変わる転機となった。だけど、本当にそれが活かせるかどうかは、この物語の論じるところではないわけだ。ただ、生きている以上、やり直すことはできるってことを伝えるだけ。

倉島にとっても、杉野や、田宮や、南原との出会いは“もう一度生き直す”ための、大きなきっかけだった。倉島自身が、もはや生きていなかったのだから。妻の死を、受け入れてなかったのだから。

亡き妻から生きている夫へ当てられた手紙は、“もう一度生き直す”気持ちを夫に持たせるために書かれたものだった。その、切実な夫への思いが、夫と出会った者の心までも変えた。

さて、夫婦の距離感がどうなるかは、向こうの考えもあるところだから、時間をかけてすり合わせていくんだろう。まあ、ぐずぐず言わずに、私は私なりに毎日を楽しんで朗らかに生きよう。

映画以上に面白かった。




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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































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