『月とコーヒー』 吉田篤弘
朝ごはんを食べたあと、しばらくしてからコーヒーを淹れるんです。そして、コーヒーを傍らにおいて、パソコンに向かいます。そう、今まさに、私の向かうパソコンの傍らから、コーヒーのいい香りが漂っているんです。
アマゾンの紹介によれば、この本の著者吉田篤弘さんは、人気の作家さんだとか。私は本を読むことが好きですが、それに関わる周辺の情報っていうのは、本当に疎いんです。今、どんな作家さんが人気だか知ってれば、その分だけ面白い本に巡り会える可能性が高くなるのにね。
もちろん、追いかけた、あるいは追いかけている作家さんもいるんですよ。面白い作家さんを、そうと認識するまでに、ちょっと時間がかかっちゃうんですね。ボーっとしてるから。
だから、この本も、作家さんの人気で選んだんじゃありません。選んだ理由は、もっと単純です。本の見た目が、とても素敵だったからです。
やっぱりそうじゃないですか。素敵な女の人だなあ。ついて行っちゃおうかなあ。なんて、そんなことを考えるときって、女の人の見た目に惹かれているわけで、その段階で内面がどうのなんて、わからないじゃないですか。
つまり、この本は“素敵な女の人”だったんです。その素敵な女の人に、私はついていきました。すると、素敵な女の人は、小さな喫茶店に入っていきました。ほんの少し間をおいて、私もその喫茶店に入りました。ところが、さっと店内を見回しても、素敵な女の人が見当たりません。私はやむを得ず、道路に面した窓際の席に座りました。私は、今日もなにも起きなかったことに少しがっかりし、少し安心しました。この喫茶店でコーヒーを飲んで帰ろう。
「いらっしゃいませ。何になさいますか」と、注文を取りに来たのは、素敵な女の人でした。


予定調和しか収まりようがないならば、なにかに意味を持たせる必要はないでしょう。もちろん、私だって調和を求めますよ。だけど、それが予定されたものっていうのはつまりません。何でもかんでも予定調和に筋道を持ち込むために、本当はもっと身近にいた神さまは、とてつもない創造神、唯一神にまで祭り上げられてしまいました。
だったらいっその事、調和しないことも恐れない。いや、調和してほしいけど、すべては神様の思し召しなんて言われるくらいなら、調和しないこともやむを得ない。
この本に収められている二四の短編は、いずれも終わらない物語です。「これで終わりなの?」っと、ちょっと首を傾げたくなるような話ばかりなんです。あとがきを見て、ようやくわかりました。著者は、“そういう話”を書いていたのです。
《一日の終りの寝しなに読んでいただく短いお話を書きました。先が気になって眠れなくなってしまうお話ではなく、あれ、もうおしまい?この先、この人達はどうなるのだろうーと思いをめぐらせているうちに、いつのまにか眠っているというのが理想です。》
残念ながら私は、“あとがき”は、あとから読んだので、昼間、この物語の大半を読んでしまいました。あれ、もうおしまい?この先、この人達はどうなるのだろうーって考えているうちに、昼寝をしてしまいました。
そして今、私の心の中には、二四の“あれ、もうおしまい?この先、この人達はどうなるのだろう”が、それぞれの輪郭がぼやけて、なんだかぼんやりした大きな総体になって、私の心を温めてくれているような気がします。
《月とコーヒー》という題名の短編は含まれていません。なぜ、この本の題名が、《月とコーヒー》なのか。二四の短編を読んだあと、“あとがき”で納得できるでしょう。
アマゾンの紹介によれば、この本の著者吉田篤弘さんは、人気の作家さんだとか。私は本を読むことが好きですが、それに関わる周辺の情報っていうのは、本当に疎いんです。今、どんな作家さんが人気だか知ってれば、その分だけ面白い本に巡り会える可能性が高くなるのにね。
もちろん、追いかけた、あるいは追いかけている作家さんもいるんですよ。面白い作家さんを、そうと認識するまでに、ちょっと時間がかかっちゃうんですね。ボーっとしてるから。
だから、この本も、作家さんの人気で選んだんじゃありません。選んだ理由は、もっと単純です。本の見た目が、とても素敵だったからです。
やっぱりそうじゃないですか。素敵な女の人だなあ。ついて行っちゃおうかなあ。なんて、そんなことを考えるときって、女の人の見た目に惹かれているわけで、その段階で内面がどうのなんて、わからないじゃないですか。
つまり、この本は“素敵な女の人”だったんです。その素敵な女の人に、私はついていきました。すると、素敵な女の人は、小さな喫茶店に入っていきました。ほんの少し間をおいて、私もその喫茶店に入りました。ところが、さっと店内を見回しても、素敵な女の人が見当たりません。私はやむを得ず、道路に面した窓際の席に座りました。私は、今日もなにも起きなかったことに少しがっかりし、少し安心しました。この喫茶店でコーヒーを飲んで帰ろう。
「いらっしゃいませ。何になさいますか」と、注文を取りに来たのは、素敵な女の人でした。
『月とコーヒー』 吉田篤弘 徳間書店 ¥ 1,944 寝る前の5分間、この本をめくってみてください。必ずお気に入りの1篇が見つかるはずです |
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予定調和しか収まりようがないならば、なにかに意味を持たせる必要はないでしょう。もちろん、私だって調和を求めますよ。だけど、それが予定されたものっていうのはつまりません。何でもかんでも予定調和に筋道を持ち込むために、本当はもっと身近にいた神さまは、とてつもない創造神、唯一神にまで祭り上げられてしまいました。
だったらいっその事、調和しないことも恐れない。いや、調和してほしいけど、すべては神様の思し召しなんて言われるくらいなら、調和しないこともやむを得ない。
この本に収められている二四の短編は、いずれも終わらない物語です。「これで終わりなの?」っと、ちょっと首を傾げたくなるような話ばかりなんです。あとがきを見て、ようやくわかりました。著者は、“そういう話”を書いていたのです。
《一日の終りの寝しなに読んでいただく短いお話を書きました。先が気になって眠れなくなってしまうお話ではなく、あれ、もうおしまい?この先、この人達はどうなるのだろうーと思いをめぐらせているうちに、いつのまにか眠っているというのが理想です。》
残念ながら私は、“あとがき”は、あとから読んだので、昼間、この物語の大半を読んでしまいました。あれ、もうおしまい?この先、この人達はどうなるのだろうーって考えているうちに、昼寝をしてしまいました。
そして今、私の心の中には、二四の“あれ、もうおしまい?この先、この人達はどうなるのだろう”が、それぞれの輪郭がぼやけて、なんだかぼんやりした大きな総体になって、私の心を温めてくれているような気がします。
《月とコーヒー》という題名の短編は含まれていません。なぜ、この本の題名が、《月とコーヒー》なのか。二四の短編を読んだあと、“あとがき”で納得できるでしょう。

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