『天皇家 百五十年の戦い』 江崎道朗
・・・今の日本はどん底です。それに敵がどんなことを言って来るかわかりません。これからは苦しい事つらい事がどの位あるかわかりません。どんなに苦しくなっても、このどん底からはひ上がらなければなりません。・・・ |
今は上皇となられた当時十一歳の陛下が、敗戦の日に、疎開先の奥日光で書かれた、《新日本の建設》と名付けられた作文の一節だそうです。
「どんなに苦しいことがあっても、・・・」
英緬戦争でビルマを滅ぼしたイギリスは、王家の血筋を絶やすことで、ビルマ人の心の芯棒を叩き折っている。その過程でなんと、王女はインド人兵士へのご褒美にされたそうです。
当時、現在の上皇陛下が想定した“苦しいこと”に、そこまでのものはないでしょう。その時よりも一〇〇年前なら、アメリカはインディアンに対して、イギリスがビルマにしたよりももっとひどいことをやっていました。なにしろインディアンは、ほぼ根絶やしにされてしまってわけですから。
でも、このときは、事情が違います。日本との戦争を始めるに先立って、フランクリン・D・ルーズベルトとウィンストン・チャーチルは、ぬけぬけと大西洋憲章を発表して、以下のような宣言をしています。
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細かいことは抜きにしますが、まあ、この戦争は正義のための戦争だという姿勢を明らかにしたわけです。その割に日本に対してやったことは銃後の民間人の大虐殺ですから、インディアン戦争時代とあまり変わりません。後の戦争のように、戦場、とは言っても、本質的には大虐殺の現場であって戦場ではないんですが、その状況が世界に伝えられるわけではありませんからね。
だけど、戦争のあと、日本の皇室をどのように遇するかと言うのは、世界の注目するところです。イギリスがビルマにやったこと、アメリカがインディアンにやったことを、そのままやるわけにも行きません。形ばかりは裁判という体裁を整えました。東京裁判です。
裁判にかけて戦争犯罪人として裁け。
天皇ヒロヒトを裁けというのは、アメリカの世論調査では過半数を超える意見でしたし、“中国”、ロシア、オランダは、陛下の処刑をアメリカに要求していました。幼き日の上皇陛下の“苦しいこと”という覚悟の中には、それもあり得たと考えていいでしょうね。
著者の江崎道朗さんは、「何という胆力だ」と驚嘆しておられます。
『天皇家 百五十年の戦い』 江崎道朗 ビジネス社 ¥ 1,836 日本分裂を防いだ「象徴」の力 その苦闘と模索の歴史! |
日本を占領したアメリカは、アメリカの脅威であった日本を“アメリカを支持する国”、つまり、アメリカの言いなりになる国、傀儡国家へと国家改造していきました。そしてそれは、あらかた成功しました。
最期の肝が、“皇室”なんでしょうね。
GHQの上部組織に当たる極東委員会は、日本国民の手によって天皇制を廃止するか、より民主的な線に沿って天皇制を改革するように奨励するよう勧告しています。存続させる場合でも、将来日本国民が天皇制を廃止するように奨励する憲法を制定することが前提にあったんですね。
それでは、具体的にどの様は方法で、アメリカは皇室の弱体化を目論んだんでしょうか。江崎さんがいうには、次の三つです。
一つ目に、皇室と国家の命運を切り離すこと。二つ目に、経済的な基盤を奪うこと。これはひどい。三つ目に、日本国民の精神生活の中心としての機能を皇室から奪うこと。
一つ目と二つ目は、ほぼ、アメリカの目論見通りに進行してしまっています。ある意味では、皇室はすでに、風前の灯とも言える状況にあります。しかし、わずかに、三つ目の国民の精神生活の中心としての機能を皇室から奪うことはどうでしょう。
うまくいっているように思えた時期もありました。マスコミや出版の世界における論調は、まさにそれがうまくいっていることを思わせるものばかりで、アメリカの目論見は、いよいよ成し遂げられるのかと思わせられるようでした。
だけど、そういう論調を声高に叫んでいた人たちこそが、実は一時期私もそうだったんだけど、もともと日本から、はねっ返ってしまった人たちなんですよね。アメリカの目論見に乗っかって・・・。
そしてそんな論調に反論するでもなく口をつぐんで、だけど決して与しなかった人たちが、実はアメリカの目論見に乗っかった人たちを遥かにしのいでいたんです。その人たちは、皇室こそを日本精神の目に見える証と信じ、紐帯を大事にしてきたわけです。
しかし、一つ目と二つ目がアメリカの思惑通り進行していることは、三つ目にも影響を与えないわけがありません。「愛子さまが皇位をお継ぎになれないのはおかわいそう」なんていう見当違いの意見もあるとか。男女平等だとか、民主主義だとか、日本国家の安泰と国民生活の安寧という大前提の前に、二の次三の次であるべき意見も飛び出してきます。国民と皇室との紐帯も、私たちがそうとは思わないところで破綻しかけているのではと、心配になります。
ともあれ、天皇陛下万歳!

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