めんどくせぇことばかり 『灰色の北壁』 真保裕一
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『灰色の北壁』 真保裕一

今回読んだ文庫は二〇〇八年に出されたもの、元の本は二〇〇五年だそうですからずいぶん前ですね。二〇〇五年なら、完全に山とは縁を切ったつもりでいた時期で、もう山岳小説に手を伸ばすようなことはなかったです。だから、ずいぶん前の本なんですが、私は真新しい感覚で読みました。

でも、真保裕一さんという作家さんのことは知ってました。これもずいぶん前のことになりますが、娘と一緒に《ホワイト・アウト》という映画を見に行きました。二〇〇〇年の映画なんですね。織田裕二さん主演で、とても面白かったです。

一九年前というと、娘が一二歳のときか。一二歳の娘は残酷なシーンが苦手で、最初にダムの人が殺されるシーンで、すでにちょっと青ざめたと言ってました。映画を見たあとで、本も読んでみました。やはりとても面白かったんですが、山に関する部分は読み飛ばしました。その後、本格的な山岳小説を書いたことは知りませんでした。

この本は、『黒部の羆』、『灰色の北壁』、『雪の慰霊碑』の三つの物語が収録されています。いずれも個性的な作品です。

この本そのものの題名にもなっているくらいですから、中でも『灰色の北壁』が、最も注目される作品ということなのでしょう。『灰色の北壁を読んで、いや、読んでいる途中から頭に思い浮かんだのは、シューマンとブラームスの関係。

カスール・ベーラ初登頂を成し遂げた御田村良弘と彼を師と仰ぐ刈谷修。いつしか刈谷は師の元を離れ、三田村の妻ゆきえは刈谷を追いかけて夫の元を去る。刈谷は御田村への感情を押し殺してひたむきに山に向き合い、カスール・ベーラ北壁をねじ伏せる。しかし、証拠となる写真を偽造ではないかと疑われ・・・。

若きブラームスの才能を見込んだシューマンは、ブラームスを積極的にサポートして、音楽の世界で名を成さしめる。師であるシューマンに感謝と尊敬の念をいだきつつも、その妻クララに思いを寄せてしまうブラームス。

カスール・ベーラは架空の山としても、実在の山やクライマーを登場させて、山岳小説ファンにも楽しく読ませてくれますが、ただ、その証拠となる写真の問題を除けば、山でなくてもいい感じがします。私は、場所が山だからこそ面白く読めましたが、主題は男と女の話ですね。


『灰色の北壁』    真保裕一

講談社文庫  ¥ 617

すべての謎は、あの山に   渾身の山岳ミステリー 新田次郎賞受賞作
黒部の羆
灰色の北壁
雪の慰霊碑


『黒部の羆』は良かった。私は大学山岳部でも、冬場の登攀ははやらなかったし、山で生きていくなんて考えも及ばないところにいました。だから、その先頭を走っているような人たちが山にかける思いなんて、推し量ることすらできません。

それでも、いくら一緒に山に登ってきたからといって、何度もザイルをつないできた仲だと入っても、そこには様々な、複雑な感情が絡み合っているのは分かります。それは分かるんですが、自分が遠征隊に入りたいから相手を陥れるなんてあり得るでしょうか。しかも、山でのできごとです。更には、現にザイルをつないでいる状態で、相手のミスを待つなんて・・。

とは思いますが、遭難に至る状況、遭難中の心の揺れ、救助中の思いの変化していく様子が、緊迫感を伴って、とても上手に書かれていて、呼吸を忘れてしまうところだったほどです。未熟だった若者が成長する時間は、一瞬でいい。

『雪の慰霊碑』は面白い設定だと思うんだけど、山をやってる息子がいて、結婚を前提に付き合っているお嬢さんがいるという状況で、あまりにも身につまされて、自分を抜きにして読めませんでした。

真保裕一さんの書く山岳小説は、心理描写に、他にはない特徴があるような気がします。その心の動き、驚かされるんだけど、たしかにギリギリなくはない。そのあたりの落とし所が絶妙です。

「自分なら、そうは考えない。いや、状況さえ整えば、」・・・そんな感じです。

まだまだ、私が山を離れていた時期に出された山岳小説がたくさんありそうで、うれしいです。なんだか、もうけたような気分です。もし、
まだ読んでない人がいらっしゃったら、是非。これから新幹線で移動なんて時には、もうバッチリですよ。




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こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































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