『ゆるカワ 日本美術史』 矢島新
ゆるカワ?
なんだか、とらえづらい概念ですね。娘が張り子の職人になりたいといい出したころ、その道の方を訪ねて、あっちこっちに出かけたことがあるんです。そんな中、娘が千葉県の佐原を訪ねました。そこで出会った方の張り子は、いや、それが佐原の張り子の特徴のようなんですが、なんとも輪郭が不明瞭なんです。
このような傾向を、“ゆるい”と受け取ればいいんでしょうか。輪郭が明瞭でシャープな造形の正反対で、輪郭が不明瞭で曲線的な造形といえばいいでしょうか。
だとすれば、“ゆるい”造形には、人を和ませる効果がありそうですね。
だってそうでしょう。見てくださいよ。このおそらくイノシシだと思われるこの張り子。「いいじゃん、いいじゃん、そんなのなんだっていいじゃん」って言ってるようじゃないですか。・・・ああ、力抜ける。


漫画、アニメ、キャラクターといった方面では、日本は他の追隨を許さない独創状態にあります。他が追随しようとしているかどうか分かりませんが。
そこで発揮されている日本的オリジナリティの中に、“かわいさ”や“ゆるさ”が含まれています。じつはこの本、開き直ってしまったんです。何を開き直ったかといえば、日本美術の日本的に洗練されたセンスに関しては、これまで十分すぎるほどの著作が刊行されているから、この本はそういうことは無視するっていうんです。そしてこの本では、近年主張され始めた、日本美術における《ゆるカワ》という価値観だけに焦点を当てて考察をするということなんです。
そう、この本は、題名にもある通り、《日本美術史》の本なんです。しかも、目次に現れているとおり、縄文時代から近代へと時間を追って、その時代時代に現れる日本美術の“ゆるカワ”的特徴を考察することで、背景にある日本文化及び、日本人的心象の特殊性まで探っていこうとする、極めて画期的な本なんです。
「恵まれた周辺」というのは、日本の文化環境を形容する言葉だそうです。たしかに、ふさわしい言葉ですね。激しい攻防の歴史がない日本においては、古代と現代が連続しています。大陸に隣接する島国ですから、大陸の文化を選択的に取り入れることができました。民族の入れ替わりもありませんから、文化は穏やかに蓄積し、時間をかけてじっくり熟成されたと著者は言います。
たしかにそうですね。それは世界的に見ても特殊な歴史的環境で、リアリスティックな大陸文化を受け入れて、同じ方向性で高度化していきながらも、同時に時間をかけて尖った部分を削ぎ落とし、曲線的な、独自の和める造形を目指したのかもしれませんね。それがはっきりした形で現れるのは室町時代だそうです。まさに今の日本人に直接つながる文化の生まれた時代ですね。
色々な“ゆるカワ”文化の写真がふんだんで、見てるだけでも楽しい本でした。
なんだか、とらえづらい概念ですね。娘が張り子の職人になりたいといい出したころ、その道の方を訪ねて、あっちこっちに出かけたことがあるんです。そんな中、娘が千葉県の佐原を訪ねました。そこで出会った方の張り子は、いや、それが佐原の張り子の特徴のようなんですが、なんとも輪郭が不明瞭なんです。
右がその時の張り子です。その時、娘が買ってきたものです。娘は、嫁に行ってしまいましたが、この張り子は、家に残されました。 おそらくイノシシだと思いますが、その輪郭は、イノシシ以外でもまったく問題ありません。というか、その輪郭は、イノシシではありません。あえて言うなら、“岩”がふさわしいでしょうか。 | ![]() |
このような傾向を、“ゆるい”と受け取ればいいんでしょうか。輪郭が明瞭でシャープな造形の正反対で、輪郭が不明瞭で曲線的な造形といえばいいでしょうか。
だとすれば、“ゆるい”造形には、人を和ませる効果がありそうですね。
だってそうでしょう。見てくださいよ。このおそらくイノシシだと思われるこの張り子。「いいじゃん、いいじゃん、そんなのなんだっていいじゃん」って言ってるようじゃないですか。・・・ああ、力抜ける。
『ゆるカワ 日本美術史』 矢島新 祥伝社 ¥ 1,296 日本がアニメ・マンガ大国やキャラクター天国になったのには理由がある |
|
漫画、アニメ、キャラクターといった方面では、日本は他の追隨を許さない独創状態にあります。他が追随しようとしているかどうか分かりませんが。
そこで発揮されている日本的オリジナリティの中に、“かわいさ”や“ゆるさ”が含まれています。じつはこの本、開き直ってしまったんです。何を開き直ったかといえば、日本美術の日本的に洗練されたセンスに関しては、これまで十分すぎるほどの著作が刊行されているから、この本はそういうことは無視するっていうんです。そしてこの本では、近年主張され始めた、日本美術における《ゆるカワ》という価値観だけに焦点を当てて考察をするということなんです。
そう、この本は、題名にもある通り、《日本美術史》の本なんです。しかも、目次に現れているとおり、縄文時代から近代へと時間を追って、その時代時代に現れる日本美術の“ゆるカワ”的特徴を考察することで、背景にある日本文化及び、日本人的心象の特殊性まで探っていこうとする、極めて画期的な本なんです。
「恵まれた周辺」というのは、日本の文化環境を形容する言葉だそうです。たしかに、ふさわしい言葉ですね。激しい攻防の歴史がない日本においては、古代と現代が連続しています。大陸に隣接する島国ですから、大陸の文化を選択的に取り入れることができました。民族の入れ替わりもありませんから、文化は穏やかに蓄積し、時間をかけてじっくり熟成されたと著者は言います。
たしかにそうですね。それは世界的に見ても特殊な歴史的環境で、リアリスティックな大陸文化を受け入れて、同じ方向性で高度化していきながらも、同時に時間をかけて尖った部分を削ぎ落とし、曲線的な、独自の和める造形を目指したのかもしれませんね。それがはっきりした形で現れるのは室町時代だそうです。まさに今の日本人に直接つながる文化の生まれた時代ですね。
色々な“ゆるカワ”文化の写真がふんだんで、見てるだけでも楽しい本でした。

- 関連記事
-
- 『続・孤独のすすめ』 五木寛之 (2019/07/03)
- 絆『続・孤独のすすめ』 五木寛之 (2019/06/22)
- 『ゆるカワ 日本美術史』 矢島新 (2019/06/11)
- 丙午『陰陽五行でわかる日本のならわし』 長田なお (2019/05/09)
- 西行の死『ひとりの覚悟』 山折哲雄 (2019/05/07)