おそロシア『ロシアを知る』 池上彰×佐藤優
そうかぁ。かつて、日本にとってのロシアは、単なる「脅威としてのロシア」というだけでなく、「先生としてのロシア」という側面を持っていたのか。
それは、トルストイやドストエフスキーほか、ロシア文学への憧れ、“どん底”や“桜の園”ほか、ロシア演劇への憧れ、リムスキー・コルサコフやチャイコフスキーほか、ロシア音楽への憧れ。そして、共産主義国家としてのロシアへの憧れ。
私は演劇に興味を持ったことはないけど、ロシア文学やロシア音楽やロシア生まれのクラッシック音楽には憧れました。そして、かつては共産主義国家へも。
今、日本社会においては、文化的側面におけるロシアへの憧れが後退し、もちろん共産主義への関心も地に落ち、残されるのは「脅威としてのロシア」しかなくなってしまったと、佐藤さん、池上さんのお二人は分析しています。
残されたのは、“おそロシア”だけということです。そして今、ロシアでそれを体現する存在が、プーチンということですね。
たしかに、クリミアの問題があったり、飛行機撃ち落とすし、元ロシアスパイ暗殺未遂事件であったりと、もちろん内政に関してもそうですね。プーチンに関しては恐ろしげな話がいくらでもつきまといます。
ソ連崩壊後、結局、ロシアは西側諸国が望むような民主国家にならなかったわけです。佐藤さんは、その原因を一九九三年一〇月のモスクワ騒乱事件にあると言っています。エリツィン大統領に対抗して議会派が最高会議ビルに籠城した事件ですね。エリツィンは最終的に、戦車でビルを砲撃してこれを収束させました。あの時、六〇〇人以上の死傷者が出ていたんだそうです。
あのようなできごとを二度と起こさないというコンセンサスが、主義主張が違っても、あらゆる政治グループに成立したんだそうです。そのためには、民主化を進めて様々な意見を戦わせるよりも、上に力をもたせることで統制させることにより社会の平安が保たれているということです。つまり、各種政治グループがプーチンを独裁者に見せることで、お互いの利益を見出しているということのようです。


クリミア半島の問題がありますが、プーチンにはさらなる領土拡大という意志はないみたいですね。ただ、仮想敵国との間に緩衝地帯を設けておきたいという思いは、非常に強いようですね。その話題を読んだ時、フランスに攻め込まれたナポレオン戦争と、ドイツに攻め込まれた第二次世界大戦が頭に浮かびました。第二次世界大戦の犠牲者は、二六〇〇万人でしょう。
そしたら、佐藤さんは《モンゴル=タタールのくびき》が長かったからだと言ってます。あれは、恐怖だったんですね。プーチンの顔にも、間違いなくアジアが入ってます。草原地帯を疾走する騎馬軍団の侵略と長い支配の後では、“線の国境”があまりにも貧弱に思えるようになっていたんでしょうか。
だから、“線の国境”の外側に、自国の軍隊をいつでも自由に展開できる緩衝地帯を持たなければ不安なんです。ロシアに緩衝地帯と考えられた場所にある国は迷惑な話ですが。
たとえば、今ではそれが、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバなんて国です。そのウクライナの騒乱は、ウクライナに親欧政権が生まれたのがきっかけになりました。ちょうどソチ・オリンピックのとき、事が起こりました。
クリミアはロシアに実効支配されているし、ウクライナ東部に“ロシア系武装勢力”が侵攻して、ドネツクとルガンスクも切り取られちゃった感じです。それである意味、緩衝地帯が確保されたわけで、これ以上の領土欲はないということです。あの時活躍した“ロシア系武装勢力”ですが、あれは正規のロシア兵だそうです。
国境まで軍を移動して、そこで兵隊たちに休暇を取らせるんだそうです。休暇をとった兵隊たちは、ロシア軍の正規の兵隊ではないということのようなんです。階級章を外し、身分証も持たない武装勢力がウクライナ東部のドネツクやルガンスクに展開して緩衝地帯を確保しているという状況だったそうです。
「それをしないとロシアは不安なんだ」という前提で佐藤さんは話します。それを前提として考えていくのが外交の仕事であり、政治であると言うことですね。
分かるんですが、だったら結局あの国は、「おそロシア」という前提で付き合っていくしかないんじゃないかな。
それは、トルストイやドストエフスキーほか、ロシア文学への憧れ、“どん底”や“桜の園”ほか、ロシア演劇への憧れ、リムスキー・コルサコフやチャイコフスキーほか、ロシア音楽への憧れ。そして、共産主義国家としてのロシアへの憧れ。
私は演劇に興味を持ったことはないけど、ロシア文学やロシア音楽やロシア生まれのクラッシック音楽には憧れました。そして、かつては共産主義国家へも。
今、日本社会においては、文化的側面におけるロシアへの憧れが後退し、もちろん共産主義への関心も地に落ち、残されるのは「脅威としてのロシア」しかなくなってしまったと、佐藤さん、池上さんのお二人は分析しています。
残されたのは、“おそロシア”だけということです。そして今、ロシアでそれを体現する存在が、プーチンということですね。
たしかに、クリミアの問題があったり、飛行機撃ち落とすし、元ロシアスパイ暗殺未遂事件であったりと、もちろん内政に関してもそうですね。プーチンに関しては恐ろしげな話がいくらでもつきまといます。
ソ連崩壊後、結局、ロシアは西側諸国が望むような民主国家にならなかったわけです。佐藤さんは、その原因を一九九三年一〇月のモスクワ騒乱事件にあると言っています。エリツィン大統領に対抗して議会派が最高会議ビルに籠城した事件ですね。エリツィンは最終的に、戦車でビルを砲撃してこれを収束させました。あの時、六〇〇人以上の死傷者が出ていたんだそうです。
あのようなできごとを二度と起こさないというコンセンサスが、主義主張が違っても、あらゆる政治グループに成立したんだそうです。そのためには、民主化を進めて様々な意見を戦わせるよりも、上に力をもたせることで統制させることにより社会の平安が保たれているということです。つまり、各種政治グループがプーチンを独裁者に見せることで、お互いの利益を見出しているということのようです。
『ロシアを知る』 池上彰×佐藤優 東京堂出版 ¥ 1,728 北方領土問題、プーチン、ソ連について最強の二人が語りつくす異色のロシア本 |
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クリミア半島の問題がありますが、プーチンにはさらなる領土拡大という意志はないみたいですね。ただ、仮想敵国との間に緩衝地帯を設けておきたいという思いは、非常に強いようですね。その話題を読んだ時、フランスに攻め込まれたナポレオン戦争と、ドイツに攻め込まれた第二次世界大戦が頭に浮かびました。第二次世界大戦の犠牲者は、二六〇〇万人でしょう。
そしたら、佐藤さんは《モンゴル=タタールのくびき》が長かったからだと言ってます。あれは、恐怖だったんですね。プーチンの顔にも、間違いなくアジアが入ってます。草原地帯を疾走する騎馬軍団の侵略と長い支配の後では、“線の国境”があまりにも貧弱に思えるようになっていたんでしょうか。
だから、“線の国境”の外側に、自国の軍隊をいつでも自由に展開できる緩衝地帯を持たなければ不安なんです。ロシアに緩衝地帯と考えられた場所にある国は迷惑な話ですが。
たとえば、今ではそれが、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバなんて国です。そのウクライナの騒乱は、ウクライナに親欧政権が生まれたのがきっかけになりました。ちょうどソチ・オリンピックのとき、事が起こりました。
クリミアはロシアに実効支配されているし、ウクライナ東部に“ロシア系武装勢力”が侵攻して、ドネツクとルガンスクも切り取られちゃった感じです。それである意味、緩衝地帯が確保されたわけで、これ以上の領土欲はないということです。あの時活躍した“ロシア系武装勢力”ですが、あれは正規のロシア兵だそうです。
国境まで軍を移動して、そこで兵隊たちに休暇を取らせるんだそうです。休暇をとった兵隊たちは、ロシア軍の正規の兵隊ではないということのようなんです。階級章を外し、身分証も持たない武装勢力がウクライナ東部のドネツクやルガンスクに展開して緩衝地帯を確保しているという状況だったそうです。
「それをしないとロシアは不安なんだ」という前提で佐藤さんは話します。それを前提として考えていくのが外交の仕事であり、政治であると言うことですね。
分かるんですが、だったら結局あの国は、「おそロシア」という前提で付き合っていくしかないんじゃないかな。

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