『K2 復活のソロ』 笹本稜平
先日、朝早く家を出て、車で群馬県片品村の登山口まで行き、日光白根山に登ってきました。
若い頃とは質が変わってしまった教員の仕事に嫌気が指したのもあるんですが、山に行ったり、川に行ったり、好きなことだけやっていきたいことも、早期退職の大きな理由でした。ただ、経済的な基盤があるわけじゃないから、基本的にお金は出ていく一方です。
山に行ったりしてりゃ良いんですから、近場で良いんですけど、近くにはあまり高い山がないので、夏場は遠出したくなります。低山の夏の暑さというのはすごいですからね。そんなわけで日光白根まで言ったわけです。
日光白根なんてそんなに遠いわけじゃないですけど、移動にはお金がかかります。高速料金が往復で五〇〇〇円、駐車料が一〇〇〇円、ガソリン代を二〇〇〇円として八〇〇〇円。食料は自前で準備しましたが、お店に入ったり、帰りに一風呂浴びてなんて言ったらすぐ一万円です。
まだ、年金支給まで五年もありますので、遠出して山に登るっていうのは贅沢なことなんです。まあ、ここぞという時まで我慢して、その間は、こんな山岳小説でも読んで過ごしましょう。
山岳小説というと、ここのところよく読むのは、笹本稜平さんや馳星周さんの本かな。夢枕獏さんや南木佳士さんがかつて書いたものなんかも読むことがあります。足がだめになって山から離れた三〇代中頃から、あえて山の本は遠ざけましたので、その間に出された本を探し出して読むこともあります。笹本稜平さんの本が一番多いような気がするけど、ずいぶん書いていただいてありがたい話です。
山岳小説の中でも、こんな過酷な暑さの中ですから、どうせだったら身の毛もよだつような恐ろしげなのが良いですね。手に汗を握っちゃうような話ね。だったらこれですね。


一年前に読んだ『ソロ』の第二弾です。出たのは、二年前ですが。
新進気鋭のアルパインクライマーの奈良原和志の足跡には、無名の日本人クライマーがあのルートを登れるはずがないなどという口さがない雑音がつきまとっています。しかし、和志は人を拒絶するかのようにそそり立つ岩壁に取り組むことそのものに意義を見出しています。そして、人の実績に疑いを向け、ケチを付け、足を引っ張るクライミングの世界のあり方に疑問を抱いています。
和志の尊敬するトモ・チェセンは、ローツェ南壁をソロで登りながら悪意によってその実績を消され、クライミングの世界を去っていました。そのトモ・チェセンがローツェ南壁八二〇〇m地点に残したというピトンを見つければ、和志がトモ・チェセンの成功を証明することになります。しかし、それはこれまでの自らの限界を超える挑戦でした。その上、この挑戦には、トモ・チェセンの実績を悪意により消した者からの妨害も・・・。
『ソロ』は、そんな、手に汗を握るお話でした。夏にはぴったりですね。
『K2 復活のソロ』は、その第二弾。奈良原和志の挑戦は続きます。しかし、その過程で、大事なパートナーを失うことになります。ああ、もう・・・。
この物語には、一人のアルパインクライマーの挑戦というだけでなく、それを支える登山用品メーカーが関わっていきます。物語の中ではノースリッジという社名のメーカーです。ノースリッジは和志の挑戦を支えて新型アックスを開発するんですが、これが和志の挑戦にとって正に大きな力になるんです。
岩壁を覆う氷雪にサクッと食い込み、かつ、岩壁の指もかからない凹凸を的確に捉え、体重をかけても金属疲労を起こさない、鋭さと強さを両立するような新型アックス。その開発にノースリッジ社は社運をかけ、日本独自のある素材を使います。
その新型アックスに刻まれるシグネチャー。ノースリッジ営業部は《NARAHRA》モデルを主張するが、和志が希望したシグネチャーは、・・・。
日本のもの作りの力って、今の時代に合わせて、もっといろいろな分野に利用できるのかもしれません。この物語を読んでいて、真剣にそんな事を考えてしまいました。
どうぞ、熱中症対策に、この一冊を。・・・とは言っても、うだるような部屋で読んでも効果はありません。悪しからず。
若い頃とは質が変わってしまった教員の仕事に嫌気が指したのもあるんですが、山に行ったり、川に行ったり、好きなことだけやっていきたいことも、早期退職の大きな理由でした。ただ、経済的な基盤があるわけじゃないから、基本的にお金は出ていく一方です。
山に行ったりしてりゃ良いんですから、近場で良いんですけど、近くにはあまり高い山がないので、夏場は遠出したくなります。低山の夏の暑さというのはすごいですからね。そんなわけで日光白根まで言ったわけです。
日光白根なんてそんなに遠いわけじゃないですけど、移動にはお金がかかります。高速料金が往復で五〇〇〇円、駐車料が一〇〇〇円、ガソリン代を二〇〇〇円として八〇〇〇円。食料は自前で準備しましたが、お店に入ったり、帰りに一風呂浴びてなんて言ったらすぐ一万円です。
まだ、年金支給まで五年もありますので、遠出して山に登るっていうのは贅沢なことなんです。まあ、ここぞという時まで我慢して、その間は、こんな山岳小説でも読んで過ごしましょう。
山岳小説というと、ここのところよく読むのは、笹本稜平さんや馳星周さんの本かな。夢枕獏さんや南木佳士さんがかつて書いたものなんかも読むことがあります。足がだめになって山から離れた三〇代中頃から、あえて山の本は遠ざけましたので、その間に出された本を探し出して読むこともあります。笹本稜平さんの本が一番多いような気がするけど、ずいぶん書いていただいてありがたい話です。
山岳小説の中でも、こんな過酷な暑さの中ですから、どうせだったら身の毛もよだつような恐ろしげなのが良いですね。手に汗を握っちゃうような話ね。だったらこれですね。
『K2 復活のソロ』 笹本稜平 祥伝社 ¥ 1,944 だったら山をやめたあと、おまえはなにをして生きるんだ。山なしで、生きていけるのか |
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一年前に読んだ『ソロ』の第二弾です。出たのは、二年前ですが。
新進気鋭のアルパインクライマーの奈良原和志の足跡には、無名の日本人クライマーがあのルートを登れるはずがないなどという口さがない雑音がつきまとっています。しかし、和志は人を拒絶するかのようにそそり立つ岩壁に取り組むことそのものに意義を見出しています。そして、人の実績に疑いを向け、ケチを付け、足を引っ張るクライミングの世界のあり方に疑問を抱いています。
和志の尊敬するトモ・チェセンは、ローツェ南壁をソロで登りながら悪意によってその実績を消され、クライミングの世界を去っていました。そのトモ・チェセンがローツェ南壁八二〇〇m地点に残したというピトンを見つければ、和志がトモ・チェセンの成功を証明することになります。しかし、それはこれまでの自らの限界を超える挑戦でした。その上、この挑戦には、トモ・チェセンの実績を悪意により消した者からの妨害も・・・。
『ソロ』は、そんな、手に汗を握るお話でした。夏にはぴったりですね。
『K2 復活のソロ』は、その第二弾。奈良原和志の挑戦は続きます。しかし、その過程で、大事なパートナーを失うことになります。ああ、もう・・・。
この物語には、一人のアルパインクライマーの挑戦というだけでなく、それを支える登山用品メーカーが関わっていきます。物語の中ではノースリッジという社名のメーカーです。ノースリッジは和志の挑戦を支えて新型アックスを開発するんですが、これが和志の挑戦にとって正に大きな力になるんです。
岩壁を覆う氷雪にサクッと食い込み、かつ、岩壁の指もかからない凹凸を的確に捉え、体重をかけても金属疲労を起こさない、鋭さと強さを両立するような新型アックス。その開発にノースリッジ社は社運をかけ、日本独自のある素材を使います。
その新型アックスに刻まれるシグネチャー。ノースリッジ営業部は《NARAHRA》モデルを主張するが、和志が希望したシグネチャーは、・・・。
日本のもの作りの力って、今の時代に合わせて、もっといろいろな分野に利用できるのかもしれません。この物語を読んでいて、真剣にそんな事を考えてしまいました。
どうぞ、熱中症対策に、この一冊を。・・・とは言っても、うだるような部屋で読んでも効果はありません。悪しからず。

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