めんどくせぇことばかり ドイツ『国家と教養』 藤原正彦
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ドイツ『国家と教養』 藤原正彦

アメリカは、自分の意志でヨーロッパを捨てた者たちによって作られました。

ここで彼らが捨てた《ヨーロッパ》には、そのヨーロッパに受け継がれてきた伝統とか知性、教養といったものが含まれていると藤原さんは書いています。アメリカはヨーロッパとともに、それらの伝統とか知性、教養も捨てたんだということです。だからアメリカは、知性を軽視する傾向があると。

この伝統とか知性、教養という部分の多くは中世と呼ばれる時代に形成されてきています。そう考えると符合します。アメリカに中世はありませんから。

アメリカは、そういったヨーロッパ的なものと決別し、新たな未来を開くための指針として、功利性、実用性を重視しました。そこから生まれてくるのが新自由主義、金銭至上主義といった浅ましい経済思想です。

そう、役に立たないものって重要なんですね。ケンブリッジ大学では一九六〇年代まで大学入試にラテン語があったそうです。実生活の役に立たない教養で情緒を養っておかないと、資本主義のもたらす醜悪さに飲み込まれてしまいます。

しかし、近現代に決定的な影響を与えた第一次、第二次世界大戦はヨーロッパを震源として起こった戦争です。第二次世界大戦は第一次世界大戦の余震のようなものですから、なんと言っても第一次世界大戦ですね。アメリカと違って教養の伝統のあったヨーロッパでそれは起こっています。戦争は相手のある話ではありますが、あの時、主役を務めたのは、やはりドイツです。知性と教養の最高峰とも言うべきドイツが第一次世界大戦の主役でした。

ということで、この本の中で藤原さんは、欧州における教養の質を一つのテーマとして取り上げています。その部分がとても興味深かったので、ちょっと取り上げてみたいと思います。

第一次大戦期のドイツは、世界でも有数の文化国家でした。しかし、少し過去を振り返ると、一六世紀の農民戦争、一七世紀の三十年戦争で人口が激減し、国土も荒れ果てました。そのため、他の西欧諸国のような国家形成が進まず、オーストリアとプロイセンの二つの中心軸を持った三〇〇をこえる領邦国家群といった状況でした。

お隣のフランスでは、中央集権化を達成したブルボン朝がフランス革命で倒されていました。周辺の王政国家はこれを許さず干渉戦争を仕掛けます。共和制フランスは祖国防衛に萌えた国民皆兵軍を組織して、対フランス同盟軍を打ち破ります。このフランス国民皆兵軍を率いていたのがナポレオンでした。

ナポレオンに蹂躙されたドイツでは、国家存亡の危機の中で果敢な政治改革、軍政改革、教育改革が断行されていくのです。ドイツの教養主義の根幹には、このときのフランスへの対抗心があったんです。


 『国家と教養』    藤原正彦

新潮新書  ¥ 799

教養なき国民が国を滅ぼす 教養こそが大局観を磨く 大衆文学も教養である
第一章 教養はなぜ必要なのか
第二章 教養はどうやって守られてきたか
第三章 教養はなぜ衰退したのか
第四章 教養とヨーロッパ
第五章 教養と日本
第六章 国家と教養

国家主義を背景に育成されていったドイツの知識層は一%です。一%の知識層が社会の中心となりドイツを率いていきました。その体制は一般大衆にとってもごく当たり前のこととして受け入れられ、一%の知識層が国をリードするばかりか、九九%の大衆を見下す構図ができあがってしまったんだそうです。

ちょうどそれがビスマルクの時代に集約されていきます。普墺戦争、普仏戦争と周辺の大国を打ち破り、統一ドイツが成立していきます。「あの人たちに任せておけば間違いない」と、大衆が思い込むのもわかります。

イギリスの上流階級、貴族とジェントリーは働きません。しかし彼らにはノブレス・オブリージュの伝統がありました。その地位にあるものは、それに応じた義務を追わなければならないわけです。ですから彼らは地方の行政や司法の仕事を無給で引き受けるそうです。慈善事業に取り組んで地方に貢献します。戦争があれば率先して戦場に赴きます。

イギリスの上流階級はドイツと違って、一般大衆との間に分断がないんですね。そして高い品性と教養は、上流階級には当たり前のことで、しだいにイギリス人一班の手本になっていったようです。

イギリスの上流階級は、ドイツの知識層と同様、国民を寡頭支配し高い教養を持ち合わせていました。しかし彼らは、ドイツの知識層のように大衆から遊離していたのではなく、むしろ大衆のお手本となっていた点で大きな違いがあったんですね。そして彼らの品性と教養を支えるのが、バランス感覚とユーモアです。

ドイツはなにか美しい原理や原則に陶酔すると、国を上げてその方向に突っ走ってしまいます。第一次世界大戦、第二次世界大戦、戦後の贖罪、シリア難民の受け入れ、いずれも一種の陶酔が感じられるというのですが、たしかにそうかも知れません。

その点、イギリスは何かあっても、その状況を俯瞰してみようとしますね。EU離脱も、イギリス人のそんな物の考え方、バランスのとり方が影響していると、藤原さんは言ってます。

「現実を見てバランスを取る、ということができないドイツと同じ船に乗っていては、生きた心地がしないと考えたからです」

歴史を振り返れば、イギリス人のドイツに対する、そんな恐怖感、・・・なんだか分かりますね。





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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

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こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































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